ダイバーシティ&インクルージョンとは?意味や導入方法、事例を紹介
ダイバーシティ&インクルージョンとは、多様な人材を受け入れ、その能力を発揮させる考え方を指します。ここでの人材の多様性は、性別や年齢、国籍や障害の有無から働き方まで、幅広い意味を持ちます。労働者不足や生産性向上の観点から重要視されている概念です。導入手順や取組事例をご紹介します。
ダイバーシティ&インクルージョンとは、多様な人材を受け入れ、その能力を発揮させる考え方を指します。ここでの人材の多様性は、性別や年齢、国籍や障害の有無から働き方まで、幅広い意味を持ちます。労働者不足や生産性向上の観点から重要視されている概念です。導入手順や取組事例をご紹介します。
目次
ダイバーシティ&インクルージョンとは、多様な人材を活かし、その能力が発揮できるようにする取り組みを指す言葉です。ダイバーシティは直訳すると「多様性」、インクルージョンは直訳すると「受容性」です。
単に会社において人材の多様性を高めることだけを目的とするのではなく、その多様な人材が能力を発揮できる組織風土づくりを行うことまで含めた概念として、ダイバーシティ&インクルージョンという言葉が使われています。
経済産業省はこの多様な個を活かす経営を「ダイバーシティ経営」と定義し、10年程前から推進しています。
多様な人材に活躍してもらうダイバーシティ&インクルージョンの考え方が注目されている背景には、外部環境の急激な変化があります。
具体的には、少子高齢化に伴う働き手の減少、顧客ニーズやリスクの多様化などが挙げられます。
また、ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む中小企業は、そうでない企業と比較して、主たる経営成果のすべての項目において、効果的な結果を上げていることが示されており、競争優位性を築いていくために必要不可欠な考え方であるといえます。
どの会社にも共通して広く影響するのが、少子高齢化に伴う働き手の減少です。人手不足が叫ばれる中、自社の人材を確保するためには、母集団を拡大することが必要不可欠です。
働き方の多様性を高めることで、フルタイムでは難しいがパートタイムであれば働ける人材や、地方からリモートワークで参画できる人材など、採用の選択肢は大きく広がります。
また、1980年〜1995年生まれのミレニアル世代は、就職先を決める上で企業の「多様性や受容性の方針」を重要視している、という調査結果もあります。
PwC Japanグループ:ミレニアル世代の女性:新たな時代の人材
多様な人材が働きやすい職場は、既存の社員にとっても魅力的な職場です。それによって、離職率の低下やリファラル採用の促進、といった効果も見込めます。
SNSの普及等もあり、顧客のニーズが多様化し、一方で、リスクも一層加速しています。
ダイバーシティ&インクルージョンが実践され、さまざまな立場の社員が意見を言い合える企業は、顧客ニーズやリスクの多様化をスムーズに把握し、柔軟に対応することができます。
特に多様性に関する人々の感度は年々高まってきており、多様性への配慮がない企業広告が批判を受ける事例をよく目にします。
例えば、女性だけが家事や子育てを行っているというメッセージ性を持つCMなど、ひと昔前は大きな違和感なく受け入れられていたものが見直されています。性別へのステレオタイプ的な見方や働き方の多様性に対する理解の欠如が、世間からの期待とのずれを引き起こし、炎上を招きます。
また、危機対応力という観点では、ダイバーシティ&インクルージョンを積極的に進めている企業ほど、テレワークなどの柔軟な働き方が定着しており、新型コロナの流行に対してもスムーズに対応できたという傾向が示されています。
経済産業省の発表によれば、ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む中小企業は、人材の採用や定着、売上高や営業利益など主な経営成果のすべての項目で効果的な結果があがっています。
また、BCGの調査でも、管理職のダイバーシティとイノベーションの成果には相関性があることが示されており、ダイバーシティ&インクルージョンに取り組むことは経営成果の向上につながることがわかります。
例えば、聴覚障害者向けの情報保障手段として使用していたAI技術が発展し、会議の文字起こし技術として幅広く使われる新サービスになったり、女性社員で構成されたプロジェクトから家事をシェアするというコンセプトの新商品が生まれるなどといった例もあります。
経団連|「ポストコロナ時代を見据えたダイバーシティ&インクルージョン推進」に関するアンケート結果
では、ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む上でどのような点に注意すれば良いでしょうか。
多様性の例として、すぐ思い浮かぶのは性別や年齢、国籍などではないでしょうか。女性活躍推進、高齢者雇用、外国人雇用などは、働き方改革の文脈でもよく耳にする言葉です。しかし、多様性という言葉が意味するのは、もっと広い概念です。
人材の多様性には、性別、年齢、人種・国籍、障害の有無、性的志向、宗教・信条、価値観などのほか、キャリアや働き方の多様性が含まれます。
働き方の多様性という点では、厚生労働省により副業・兼業を促進する方向性が示されたこともあります。
ダイバーシティ&インクルージョンを推進していく上では、女性活躍推進法や高年齢者雇用安定法などの関連する法律・制度の理解が必須です。
関連する法律には、次のようなものが挙げられます。
法律名 | 目的 |
---|---|
女性活躍推進法 | 働きたい女性が個性と能力を十分に発揮できる社会を実現する |
次世代育成支援対策推進法 | 時代の社会を担う子どもが健やかに生まれ、かつ、育成される社会を形成する |
障害者雇用促進法 | 障害者の職業の安定を図る |
高年齢者雇用安定法 | 働く意欲がある誰もが年齢に関わりなくその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境整備を図る |
ダイバーシティ&インクルージョンは経営価値を高めるものですが、すぐに効果が出るものではありません。また、多様性を受け入れるには、少なからず障壁があります。
そこで、経営陣が経営姿勢と関連した明確なメッセージを打ち出し、トップダウンで全社的に粘り強く取り組みを進めていくことが必要です。
経済産業省は、ダイバーシティ&インクルージョンの実践に向けて企業がとるべきアクションを、次の4項目に整理しています。
人材の多様性を高め、能力を発揮できる風土づくりを行うために、次の手順で進めていくと良いでしょう(ダイバーシティ2.0 行動ガイドライン 実践のための7つのアクションを元に解説します)。
前述の通り、ダイバーシティ&インクルージョンの実行にあたっては、経営トップが、ダイバーシティ&インクルージョンが経営戦略上必要なものであることをポリシー等として明文化し、数値目標を策定した上で、主体的に取組を進める必要があります。
ポリシーを明確化する際には、新規事業開拓や時間あたり生産性など、業績に関連する指標と紐づけることが有効です。「ダイバーシティ&インクルージョンを通じて、中長期的にどのような企業価値向上を目指すのか」という問いに対する自社の回答を考えてみると良いでしょう。
実行にあたっては、評価指標(KPI)とロードマップを策定します。
KPIの具体例として、例えば女性活躍推進という切り口では、女性の採用比率や人数、採用における男女別競争倍率といった採用に関する指標、女性管理職の比率、人数、変化率や将来の経営人材候補の育成状況といった評価・登用に関する指標などがあります。
ロードマップの適切な期間は会社により異なりますが、5年を超えない範囲が望ましいと思われます。
経営トップ自らが毎月経営会議や全社ミーティング等で進捗を共有し、継続的な取組姿勢を社内外にも発信し続けることが実効性の鍵となります。
取組を全社的・継続的に進めるために、経営レベルでの推進体制を構築します。経営トップがプロジェクトリーダーとなって推進部門ないし推進チームを立ち上げ、役割分担を決定します。各事業部門とスムーズに連携できるよう、トップダウンの指示出しが重要です。
実効性を高めるためには、経営陣の評価指標にダイバーシティ&インクルージョンにかかる評価項目を反映することも有効です。
社員が属性に関わらず活躍できるよう、必要な人事制度の見直し、働き方改革を行います。
人事制度を見直すにあたっては、現状の制度が特定の属性の社員にとって不利なものとなっていないか、ダイバーシティ&インクルージョンのポリシーと不一致なものとなっていないか、といった観点が重要です。
働き方を見直すにあたっては、生産性を上げる工夫が考えられるか、ライフステージの変化で困った点がないか、といった観点が重要です。
いずれも、従業員の意見を取り入れることが出発点となります。従業員アンケートを実施したり、ヒアリングを実施すると良いでしょう。制度や働き方を見直すことで、メリットがある従業員もいれば、当然ながらデメリットがある従業員も中にはいます。
どのような意図によってルール整備を行おうとしているのか、という目的を丁寧に伝えることが最も重要です。
従業員の多様性を活かすためには、管理職の適切なマネジメントが重要です。
多様なバックグラウンドを持つ人同士のコミュニケーションマネジメントや、多様性を活かす人員配置といった具体的な手法に加えて、「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」に対する気づきの機会を定期的に設けることも有効です。
ダイバーシティ&インクルージョンへの取組に関する目標を設定させ、評価に反映させるのが良いでしょう。
従業員一人ひとりに対し、多様性を活かすことで一層能力を発揮し、自分のキャリアを主体的に形成していくという意識付けをすることも大切です。
多様な労働時間制度やキャリアパス(マネジメントコースとスペシャリストコースを分ける、正社員と準社員を選択・行き来できる制度を設ける、など)を設けた上で、研修や上司との面談を通じてキャリアを考える機会を作ります。
経済産業省が選出した令和2年度の「新・ダイバーシティ経営企業100選」から、取組事例を2つ紹介します。
愛知県で陶器輸送を主要事業としてきた同社は、窯業の需要低下やトラック運輸業の規制緩和を背景に、大手運送会社の下請に転換したものの、価格競争の激化に加えて、労働力不足や長時間労働が慢性的な問題となっていました。
人材確保に長らく苦労してきた同社は、まずは「今ここにいる社員の満足度を向上させることが先決」との考えから2007年から社員満足度調査を開始し、働きやすい環境の整備に努めてきました。
採用の間口を広げるために、2011 年には女性の積極採用とともに女性活躍推進の取組を開始し、2012年には高齢者の雇用延長や新規採用、加えて、社員が健康で長く働くことのできる環境整備の取組を開始しました。2014年には、外国人の現地採用を開始し、LGBTQ 社員の採用と活躍のための基盤づくりを行っています。
それぞれの属性に合わせた取組を積み上げていく中で、属性に縛られることなく「一人ひとりが働きやすい環境を会社として考える」ことの必要性が浸透してきています。
10年にわたる取組が評価され、ダイバーシティ&インクルージョンを通して、より中長期的に企業価値を生み出し続けている企業に与えられる「100選」プライムにも選出。
ダイバーシティ&インクルージョンへの取組の継続が職場環境の向上や採用力の強化、サービス品質の向上など好循環につながっており、ダイバーシティ&インクルージョンが企業価値の向上と密接に結びついていることがよくわかる事例です。
土木設計を中心とした総合コンサルタントとして北海道内の社会資本整備に携わってきた同社は、1990年代のバブル崩壊や政策の方向転換を契機に経営難に直面します。売上規模の拡大よりもサービスの付加価値の向上に重点を置き、新技術の開発等にも積極的に取り組んできました。
多様な技術分野を組み合わせた新たなサービスを展開するにあたり、男女問わず多様なキャリアの人材の確保・活躍推進が必要不可欠な一方で、専門性を持った人材の確保が難しく、業務の属人化が長時間労働を招く状況にありました。
そこで、誰もが働きやすい就業環境を整備し、全ての社員がライフステージに応じて柔軟な働き方を選択できるよう、休暇制度の拡大や両立支援制度の実施を含む働き方改革を行いました。
結果として、女性技術者の離職が減少し、パート社員等の正規雇用への転換が進むなど優秀な人材が確保できたほか、社員間コミュニケーションを促進したことで、新事業の開発も成功し、受注増という結果にも繋がっています。
中小企業が専門性の高い人材を確保して新規事業の開発を成功させ続けるために、多様な人材を活かし、専門性を活かすダイバーシティ&インクルージョンの取組が鍵を握ることがよくわかる事例です。
女性活躍推進や障害者雇用など、法律上義務付けられているからという理由で形式的にダイバーシティ化を進めると、生産性の低下を招きかえって逆効果に繋がりかねません。
経営者としても、経営上のメリットを求めるというよりもむしろ必要なコストを払う、という捉え方をしてしまいがちです。
しかし、多様な属性の違いを活かしてその能力を最大限引き出すことで、付加価値を生み出すためにダイバーシティ&インクルージョンを実践する、と捉えれば、前向きに実践しやすくなるのではないでしょうか
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