美成産業(滋賀県彦根市)は女性用補正下着を得意とする下着メーカー。4年ほど前、常務の宮脇徹さんは、あるTGの方から「下着が合わず、毎朝つらい気持ちになる」と相談を受けた。

 TGの人には性別適合手術を受ける道もあるが、多額の費用や体調など、様々な理由で受けない人も多い。宮脇さんは「今の体でもなるべく違和感なく過ごせるように」とTG向け補正下着の開発に乗り出した。

 開発過程では当事者団体や専門医に聞きとりを重ね、試作・試着を繰り返した。体形を補正するポイントは「半分つぶして半分埋める」ことだ。従来の補正下着ではきつさに悩んでいる人が多く、締め付けるだけにならないよう工夫した。

女性の体で生まれ男性として生きる「FtM」向けの下着。おなか部分にパッドを入れて厚みを持たせ、胸が目立たないよう工夫した(美成産業提供)

 女性の体で生まれ男性として生きるFtM(Female to Male)向けのタンクトップでは、胸を抑える一方でおなか部分に厚みを持たせ、平らに見せるように。男性の体で生まれ、女性として生きるMtF(Male to Female)向けのショーツはネットで引き締めつつ、パッドを入れて補正した。デザイナーの神山啓一さんは「普段の女性用補正下着の知見が生かせた」と話す。

 美成産業とたまたま同時にTG向けの企画を進めていたのが、通販大手ニッセンだ。同社では以前から、大きめの「プラスサイズ」や手足の長い人向けの「トールサイズ」の衣服を豊富に扱う。男性下着とプラスサイズの女性服が一緒に買われているというデータや、アンケートやSNS上の声をもとに、TG向けの商品が必要ではないかと議論していた。そこで美成産業がTG向け下着を作っていると知り、販売することに。現在は約80種類を扱っている。

 TG向け下着は、漫画やアニメの扮装を楽しむ「コスプレイヤー」向け用品店でも販売されている。徐々に市場が広がり、価格を下げることができているという。

 開発過程では、自分の望まない方向に体が変化し悩む中学生の声や、職場で差別にあい、辞めざるを得なくなったという声も聞いた。宮脇さんは「下着を着けるときに泣いてほしくはない。覚悟を持って生産を続けたい」と話す。(2022年3月12日朝日新聞地域面掲載)

美成産業

1956年創業、従業員約40人。ブラジャーやガードルなどの女性用補正下着を生産している。本社がある彦根市はもともと足袋工場が多く、それが発展して女性用下着が地場産業になったという。