日本M&Aセンターが根拠不十分なDM 親族承継の成長は「これまでの延長」
親族や社員が事業承継すると会社の成長は「これまでの延長」で、M&Aの場合は「さらなる発展が可能」と記載したダイレクトメール(DM)を日本M&Aセンターが企業向けに送付していました。ツギノジダイ編集部が取材したところ、DMには十分な根拠がありませんでした。日本M&Aセンターは改善を検討すると回答しています。
親族や社員が事業承継すると会社の成長は「これまでの延長」で、M&Aの場合は「さらなる発展が可能」と記載したダイレクトメール(DM)を日本M&Aセンターが企業向けに送付していました。ツギノジダイ編集部が取材したところ、DMには十分な根拠がありませんでした。日本M&Aセンターは改善を検討すると回答しています。
ある中小企業の親族承継を予定している後継ぎは、日本M&AセンターからDMを受け取りました。
DMには「事業承継3つの方法まとめ(+廃業)」という項目がありました。息子や娘婿、社員が継いだ場合、会社の成長は「○」。「これまでの延長 ※経営能力が乏しいと衰退の恐れあり」と追記していました。
一方で、M&Aは「◎」で「さらなる発展が可能 ※資金力・販路・人材等を活用できる」と追記していました。
このほか、親族承継や従業員承継は、「金融機関借入連帯保証」や「株式の引き継ぎ」でM&Aよりも課題があると読める比較表になっていました。
この後継ぎはSNSで「事業継続のためにM&Aという手段があるのはよいと思っています。しかしポジション取るために親族承継をディスらんでも…と思います。ほんでアトツギがいる会社にこのDM送ってくるというセンスのなさ」と投稿していました。
日本M&Aセンターは1991年創業の東証1部上場企業。公式サイトでは「M&A仲介で実績No.1のリーディングカンパニー」をうたっています。2022年3月期の第3四半期に過去最高の売上高、経常利益を更新した一方で、売上高を一時的にかさ上げする不正が多数あったことを公表しています。
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日本M&Aセンターが企業に送付したDMの「事業承継3つの方法まとめ(+廃業)」の根拠について、ツギノジダイ編集部が日本M&Aセンターに取材したところ「2021年版中小企業白書第二部『危機を乗り越える力』にあるコラムページのM&A実施有無別のパフォーマンス比較をもとにしております」との回答がありました。
中小企業白書で該当するコラムページを見ると、2015年に買い手としてM&Aをした企業とM&Aしていない企業とのパフォーマンスの差について分析した内容でした。
コラムは、2017年から2019年にかけてM&A実施企業の方が成長率が高い傾向にあることを紹介しています。
しかし、事業承継の方法によって、成長率に差があることは示されていません。さらに、業歴や経営者年齢など M&A実施の有無以外の要因をきちんと考慮しておらず、データの引用には慎重さが必要です。
中小企業白書を担当している中小企業庁調査室も、ツギノジダイ編集部の取材に「事業承継の方法によって、企業の成長率に差があることを説明したグラフではありません」と回答しています。
ツギノジダイでは、親族承継や従業員承継をした後継ぎ経営者が売上・利益を大幅に伸ばした企業を多数紹介しています。統計的な分析もなく、M&A以外の事業承継では企業の成長が「これまでの延長」になると断定するのは無理があります。
コーポレートメッセージで「日本企業の廃業を止めたい」とうたう日本M&Aセンター。広報担当者は「当社は営業活動を含めて親族承継を否定することはございません」としたうえで、DMの記載内容について改善を検討することを明らかにしました。チェック体制は次のように回答しています。
「当社のDMに関係する部署と協議し、DM送付におけるチェック機能を3月4日より厳格化いたしました。内容物の送付先と内容物のチェックを複数部署(営業部門と間接部門)において確認する業務フローに変更いたしました。ご指摘いただいた通り、経営者の方々が疑問を抱くような表現等がないように今後とも皆さまのご意見を真摯に受け止めて、日々改善していく所存です」
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