目次

  1. 日本政府が発表したロシアなどへの制裁措置
  2. ロシアとのビジネス、影響が考えられる4つの問題
    1. 取引の問題
    2. 製品輸送の問題
    3. 輸出規制の問題
    4. 送金の問題
  3. 契約書で確認しておきたい条項
  4. 不可抗力(Force Majeure)条項とは 英文の例文も
  5. 不可抗力条項で免責できるか
  6. 不可抗力条項がない場合

 ロシアによるウクライナ侵攻で、日本政府が発表した制裁措置には次のような内容が含まれます。

  • ロシア個人・団体に対する資産凍結・査証発給停止
  • ロシアの金融機関を対象とする資産凍結
  • ロシアの軍事関連団体に対する輸出、国際的合意に基づく規制リスト品目半導体や汎用(はんよう)品のロシア向け輸出禁止

 このほか、世界の金融機関の送金業務を担う国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの大手銀行を排除するという欧米の枠組みに、日本も参加することを表明しています。

 制裁措置が、日本の中小企業にも影響が出ることが考えられます。そこで、契約書で確認したおきたいポイントを佐々木さんに聞きました。

――日本はこれまでロシアに対し、工作機械などを輸出してきました。ロシアのウクライナ侵攻による欧米・日本などによる制裁措置で、日本の中小企業などに影響が出ることが考えられます。ロシアとビジネスをしている企業に、どのような影響が出ると考えられますか。

2020年のロシアへの主要輸出品(財務省の貿易統計から編集部作成)

 欧米・日本などの制裁措置がロシア企業と日系企業の工作機械売買取引に与える影響について考えると、①取引の問題、②製品輸送の問題、③輸出規制の問題、④送金の問題が発生する可能性があります。

 経済制裁によりロシアの国内経済が混乱し、発注企業から発注内容の変更やキャンセルなどの要求を受ける可能性があります。また、発注企業が経済混乱により事業を継続できず、倒産してしまうリスクもあります。

 さらに、据え付け作業が必要な大型工作機械の場合は、据え付け作業を担当するエンジニアを日本からロシアへ派遣できなくなる可能性もあります。

 大手海運会社がロシア発着貨物の引き受けを停止しており、世界的な物流システムの混乱により、工作機械を予定どおりロシアへ輸送できない可能性があります。

 米国政府がロシアに対してハイテク製品の輸出規制を行っています。この規制の影響は、ハイテク製品だけではなく、ハイテク製品が組み込まれた工作機械に対しても及ぶ可能性があるため注意が必要です。

 また、日本政府がロシアに対して独自の輸出規制を行うことが発表されたため、売買対象の工作機械が輸出規制の対象になる可能性があります。

 金融制裁の影響によって、ロシア国内の金融機関が資金決済を行えず、売掛金を回収できない可能性があります。

――侵攻やそれに伴う制裁措置で契約を履行できそうにない場合、契約書のどのようなところをチェックしておくとよいですか?

 まずは、契約書の準拠法条項(Governing Law Clause)と紛争解決条項(Jurisdiction and Dispute Resolution Clause)をチェックし、その契約書にどの国の法律が適用され、どの国の裁判所や仲裁機関で紛争解決が行われるかを調べます。

 その後、不可抗力条項(Force Majeure Clause)をチェックし、取引を阻害する原因が不可抗力に該当するかどうかを検証します。

――不可抗力条項とはどのようなものでしょうか。

 契約書の不可抗力条項の参考例は、以下のとおりです。

Article〇 Force Majeure Neither Party shall be held liable or responsible for failure or delay in fulfilling or performing any of its obligations under this Agreement or any Accepted Purchase Orders if such failure or delay is due to any condition beyond the reasonable control of the affected Party including, without limitation, Acts of God, acts or orders of governmental authorities, fire, flood, typhoon, tidal wave, or earthquake, war (declared or not), rebellion, riots, strike, lockout, epidemic or pandemic.

第〇条不可抗力 いずれの当事者も、天災、政府機関の行為若しくは命令、火災、洪水、台風、高潮、地震、戦争(宣戦布告の有無を問わない)、反乱、革命、暴動、ストライキ、ロックアウト、流行又はパンデミック等(これらに限られない)、影響を受ける当事者の合理的な制御が及ばない状況に起因する場合、本契約又は承認された注文書に基づく義務の履行又は履行の失敗又は遅延について責任を負いません。

 上記の契約を締結した場合、例示されている事象(天災、政府機関の行為若しくは命令、火災、洪水、台風、高潮、地震、戦争、反乱、革命、暴動、ストライキ、ロックアウト、流行又はパンデミック等)が発生した場合、不可抗力を主張することができます。ロシアのウクライナ侵攻は戦争に該当し、契約当事者は不可抗力を主張することができます。

――不可抗力条項があると、商品が届かなかった発注者の損害について、受注企業の賠償責任はどうなりますか?また、受注企業は、ペナルティなどを受けずに納期の延長を求めることはできますか?

 契約書の不可抗力条項が適用される場合、受注企業は、工作機械を納品できなかったことに対する契約上の責任を逃れることができます。したがって、受注企業は、発注企業からペナルティを課されることなく納期を延長することができます。

――不可抗力条項が成立するかどうかのポイントを教えてください。また、契約書に不可抗力条項がない場合はどうなりますか?

 契約書の不可抗力条項は、記載内容が公序良俗に反し無効と判断されない限り、契約書の文言と当事者の意思に基づいて解釈されます。また、契約書に不可効力条項がない場合は、適用される法律(日本であれば民法)によって解釈されます。