コンビニが直面する2度目の「飽和」説 新規出店が鈍化、加盟店に疲れ
私たちの暮らしに欠かせないコンビニ。優れた商品や便利なサービスを次々に提供する一方、各チェーンは人件費の高騰、食品廃棄、24時間営業の維持など新たな問題も抱えています。「月刊コンビニ」元編集長の梅澤聡さんが、コンビニが描く新しい未来を、50年の歴史を踏まえて解説します。第1回は「コンビニが直面する2度目の飽和説」です。
私たちの暮らしに欠かせないコンビニ。優れた商品や便利なサービスを次々に提供する一方、各チェーンは人件費の高騰、食品廃棄、24時間営業の維持など新たな問題も抱えています。「月刊コンビニ」元編集長の梅澤聡さんが、コンビニが描く新しい未来を、50年の歴史を踏まえて解説します。第1回は「コンビニが直面する2度目の飽和説」です。
コンビニの売上の多くは「移動中」、もしくは「移動先」で発生する。平日は出勤途中にコーヒー、昼休みに弁当、帰宅途中に缶ビール、休日は車で行楽地に向かう途中、菓子や飲料を購入する。人々が活発に動くほど、コンビニは儲かるようにできている。
それがコロナ禍により、ステイホーム、テレワークが要請されて、コンビニの売上は減少、特に人の行き来で売上が立つオフィス立地、繁華街、駅前立地、観光地に出店するコンビニは大打撃を受けている。
コンビニ大手7チェーン(セブンイレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ、デイリーヤマザキ、セイコーマート、ポプラ)が加盟する日本フランチャイズチェーン協会の統計によると、2020年の全店売上高は10兆6608億円、前年比4.5%減と統計を取り始めてから初の減少を記録。客数は移動自粛で10.2%減と大幅に落ち込む一方、客単価は6.4%増と伸長した。客単価は、人との接触を嫌ったお客の一部が、他の店を買い回りせずに、コンビニ1カ所で買物を済ませたからである。
平均を取ると売上高の落ち込みは大きいが、実は立地による。
例えば、昨年4月の緊急事態宣言以降、セブンイレブンが出店する東京の中野区、杉並区、世田谷区の店舗は軒並み前年比20%以上の売上増を記録した。住宅立地の徒歩客が、遠くのスーパーよりも、自宅から近場のコンビニを好んだからだ。
立地により売上格差が生まれたが、ではコロナ禍が終息すればコンビニは再び成長軌道に乗るのか、といえば厳しい現実が待っている。前出の統計によると、店舗数は、2020年12月末が5万5924店舗、前年比で0.5%微増したが、コロナ禍前の2019年12月末は前年を0.3%下回り、コンビニ誕生から約50年弱の歴史の中で初めて店舗数が減少に転じている。
ファミリーマート社長の澤田貴司氏(当時)は2018年4月の決算会見で「コンビニは飽和している」と言いきり、その後、最大手セブンイレブンを事業会社に持つセブン&アイHD社長の井阪隆一氏も「踊り場に来ている」と成長の鈍化を認めている。客観的データを素直に見れば、業界全体は言うに及ばず、優等生のセブンイレブンでさえ、その傾向は顕著に表れている。
セブンイレブンの2021年2月期(2019年3月~2020年2月)の店舗数は子会社が運営する沖縄県を含めて2万1167店舗で、前年比212店舗しか増加していない。後述するが、年間1000店舗の増店を続けたセブンイレブンからすれば、212店舗の増加は確かに「踊り場」と評価されるべき数字だ。
しかしながら、このコンビニ飽和説、実は10年以上前の2000年代後半から既に語られていた。当時ローソンの社長だった新浪剛史氏はメディアの取材に対して「飽和説」を口にしていた。セブンイレブンもファミリーマートも認めはしなかったが、2008年のリーマンショックに端を発した世界同時不況により、コンビニの成長が鈍化し、新浪氏は「24時間営業の見直し」も一部のメディアに言及した。
この24時間営業の見直し発言は、さすがに業界への波紋が大きすぎて、後にローソンは発言を取り下げるに至った。
では、新浪氏の「飽和説」は正しかったのか。それが杞憂に終わったことは、後の店舗数の増加からも見て取れる。2008年2月末のコンビニ店舗数は4万3001店舗(「月刊コンビニ」調べ)、2018年2月末が5万8443店舗だから10年間で35%の増加を達成している。ちなみにローソンに限っても8554店舗から1万3992店舗と実に63%も伸長させている。
店舗数の増加に限れば新浪氏の指摘が見当違いであったことが分かるだろう。店舗数の増加によりチェーン本部の総収入は増加するし、お客の立場に立てば、店舗数が多いほど「近くて便利」になるだろう。食料品や日用雑貨、銀行ATMや各種チケットなどサービスを提供するコンビニの増加は有難いものだ。
ただし、視点を変えれば、個店の売上と利益が10年間で増加してきたかというと疑問だ。コンビニ同士の過当競争が生まれ、加盟店の収入を圧迫しているとすれば、新浪氏の発言は、あながち間違ってはいない。
では、新浪氏が「飽和説」を口にしてから、なぜ10年間で35%も増加するに至ったのか、そして、なぜ頭打ちになったのか、振り返ってみよう。
2011年3月の東日本大震災。食品スーパーや商店街が被災し、福島第一原発事故による電力供給の低下による大型商業施設による時短営業などにより、買物環境が急速に悪化した。物流も滞り、品不足が続く中で、比較的、日常を早く取り戻したのがコンビニ業態である。阪神・淡路大震災、新潟県中越地震を経て、大手コンビニチェーンは大地震発生時の安全対策から物資の供給体制まで、早期に復旧できるようなシミュレーションを実施していた。2000年代中頃には既に南海トラフ地震を想定した具体的なシミュレーションを組んでいたチェーンもあったほどだ。
こうした努力により、コンビニは生活のインフラだけでなく、人々のライフラインとして、評価されるようになった。特にガソリン不足により、遠方での買物を控えるようになった消費者、とりわけ利用頻度の少なかった中高年がコンビニを利用するようになった。一方のコンビニ側も、それまで以上に女性客に照準を合わせ、弁当や麺類などの主食だけではなく、惣菜やカット野菜などの副菜にも注力するようになり、徐々に客層を拡大していく。
震災の翌年度にあたる2013年(2月期、以下同)はコンビニ全体で2548店舗増、2014年は2915店舗増、2015年は2494店舗増と大量出店が続いていく。セブンイレブンに限定すれば、2013年は1067店舗増、2014年は1247店舗増、2015年は1172店舗増、2016年は1081店舗増と、イケイケどんどんで出店し2018年2月期には2万店舗を達成する。
ところが、セブンイレブンを筆頭とするコンビニ大手は強気の出店を継続するものの、徐々にスピードが鈍化していく。最大の理由はフランチャイズ加盟店の疲弊にあった。
経済産業省は2018年12月から2019年3月にかけて、コンビニ加盟店オーナー1万1289人にアンケート調査(2018年度)を実施した。その4年前に行った同様の調査(2014年度)と比較して、経営状況がどう変化したのかを知るためだ。コンビニ大手チェーンは上場企業であり、チェーン本部の情報は開示されているが、決算書から見えてくる加盟店の経営実態に関しては限定的だ。
調査結果から特に経産省が重視した質問が「あなたは契約を更新したいですか?」。2014年度は継続に関して68%の加盟店オーナーが更新したいと答えたが、2018年度はそれが45%まで低下した。残り55%の内、更新したくない18%、わからない37%と、態度を保留する加盟店オーナーが多いものの、半分以上が次回の更新時期(チェーンによりおよそ5年から15年の幅)には「更新したい」と考えてはいない。生活インフラ、ライフラインとして地域の拠点となったコンビニの足元が揺らいでいた。
一方で、旺盛な出店意欲を見せていたチェーン本部も、「出店数」が前年比で減少傾向を辿っていく。業界を牽引してきたセブンイレブンも見直しを迫られていた。2019年4月にセブン&アイHD社長の井阪氏は次のような反省を口にした。
「成長、拡大路線を継続した結果、何が起きていたかというと、販管費率が上昇して営業利益率が低下して、(折れ線グラフ上では両者が)ワニの口のように年々開いていった」。セブンイレブンの本部は、全店舗の8割弱を自前で建設し、家賃を払って、そこに加盟契約したオーナーを入れて運営しているが、新規出店に関して、コストに見合った収益を上げられていない。簡潔にいえば、無理な出店を繰り返した結果、本部にとって儲からない店が増えてしまったのだ。
コンビニは、加盟店の疲労が拡大して、チェーン本部も踊り場に差し掛かった。コンビニの停滞は、もはや企業や業界の問題ではなく、国民的な関心事となっていく。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年4月10日に公開した記事を転載しました)
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