無人コンビニが向く場所、向かない場所とは コンビニのあり方は2極化へ?
私たちの暮らしに欠かせないコンビニ。優れた商品や便利なサービスを次々に提供する一方、各チェーンは人件費の高騰、食品廃棄、24時間営業の維持など新たな問題も抱えています。「月刊コンビニ」元編集長の梅澤聡さんが、コンビニが描く新しい未来を、50年の歴史を踏まえて解説します。今回のテーマは「無人店舗の拡大で何が起きるか」についてです。
私たちの暮らしに欠かせないコンビニ。優れた商品や便利なサービスを次々に提供する一方、各チェーンは人件費の高騰、食品廃棄、24時間営業の維持など新たな問題も抱えています。「月刊コンビニ」元編集長の梅澤聡さんが、コンビニが描く新しい未来を、50年の歴史を踏まえて解説します。今回のテーマは「無人店舗の拡大で何が起きるか」についてです。
各都道府県の最低賃金が10月、大幅に引き上げられる。コンビニは店舗によって厳しい状況になるが、チェーン本部はセルフレジ化を推進し、店の人件費抑制に努めている。最も効果があるとチェーン本部が期待するのが「無人店舗」である。売り場に従業員がいないのだから、コストは一気に引き下げられる。成長に陰りの見えるコンビニ業界にとって、無人店舗は救世主となるのか、検証したい。
無人店舗の開発が注目を集めている。コンビニ業界ではこれまで、散発的な「実験」はあったものの、本格的な実用には至っていなかった。一方でファミリーマートはこのほど、2024年度までに無人店舗を約1000店に増やす方針を明らかにした。
ここで取り上げる「無人店舗」は、レジ精算を全てセルフサービスとし、売り場に従業員を常時必要としない店舗を指す。従業員は、物流業者からの商品の受け取り、陳列、整理、廃棄など一定時間を店内作業に割り当てるものの、作業時間の3~4割を占めるレジ業務から解放される。これにより、多くの時間帯で売り場の無人化が可能になり、店舗運営のランニングコストが大幅に改善されるという。
ファミマが採用したのは「TOUCH TO GO」(以下、TTG)社が開発した無人決済システムである。その実用化店舗「ファミマ!!サピアタワー/S店」を2021年3月、東京都千代田区のオフィスビルに開店。一定の成果が見られたことから、開発推進にゴーサインを出している。
TTGのシステムは、アメリカでアマゾンが開発した「Amazon Go」とよく比較される。2020年3月のJR高輪ゲートウェイ駅開業時、TTGが開発した駅構内のパイロット店舗は「日本版Amazon Go」として脚光を浴びた。
簡単に説明したい。Amazon Goは2016年12月、アメリカ・シアトルのアマゾン本社1階にオープンした。お客は専用のスマホアプリを起動し、入り口でタッチして(かざして)店内に入る。棚の商品を手に取り、持ってきたバッグに投げ込んで、出口では立ち止まらず、そのまま店舗を後にする。
スマホアプリで本人認証し、天井に設置されたカメラが本人を捕捉することで、棚のセンサーが本人と商品をひもづけ、そのつどデータ上「かごに入る」システムである。いったん手に取った商品を元の棚に戻せば、かごから除外される。
一方のTTGには、Amazon Goと決定的な違いがある。Amazon Goは、利用客が入店時にスマホアプリで本人認証するが、TTGは不要である。誰もが自由に入店し、商品を手に取り、その場でマイバッグに入れていい。
買い物を済ませ、出口前のゲートに立つと、レジの画面に商品と価格が表示される。間違っていなければ、Suicaなど交通系ICカードをかざして支払いを終える(酒類はモニターによる店側の承認が必要)。
要は、Amazon Goは入り口で専用アプリを立ち上げる手間があり、TTGは出口で購入商品を確認して精算する手間がある。Amazon GoとTTGの両システムは、商品バーコードの読み取りがなく、前者はレジの待ち時間をゼロ、後者はほぼゼロにした点で、共に快適な買い物環境を提供している。
高輪ゲートウェイ駅のTTGのパイロット店舗は当初、精算方法を交通系ICカード一本に絞り込んだ。駅利用者が買い物する店舗であり、もともとTTGがJR東日本の子会社なこともあり、その点は割り切ることができた。ただ、そのシステムを導入した「ファミマ!!サピアタワー/S店」は、さすがに交通系ICカードだけでなく、現金、クレジットカードにも対応している。
TTG社の阿久津智紀社長によると、精算時に従業員の商品スキャンが不要となるので、買い物時間は通常の約半分で済むという。また、レジを担当する従業員(2人)が基本的にゼロになるため、従業員の生産性が格段に向上するという。
Amazon Goは、アマゾンのアカウントと専用アプリを必要とする。このため、顧客情報を取得し、マーケティングやプロモーションに活用できるのが強みだ。一方、TTGは交通系ICカードや現金による支払いのため、顧客情報を取得できない。
この点について、阿久津社長は開発当初に次のように答えている。
「スマホアプリの利用を前提にした時点で利用者の4割が落ち(脱落し)、そのアプリをクレジットカードにひもづける段階で8割が落ちていく。自分の母親を思い浮かべても、スマホは利用していても、クレジットカードとのひもづけはおそらく自分ではやらない。誰でも使えるサービスを心掛けて、今のシステムを採用している」
ことさら高齢者に限定するつもりはないが、私の実感としても、日本の総人口の3割弱を占める65歳以上の高齢者が、自ら専用アプリをダウンロードし、銀行口座やクレジットカードにひもづけし、買い物するのかと考えれば、相当にハードルが高そうである。
ここで疑問が湧いてくる。前述のファミマの無人店舗では、16坪の売り場の天井に46台のセンサーカメラを設置、棚にもセンサーを設置して、お客と商品をひもづけている。通常店舗より投資金額は大きくなる。例えば、既存のセルフレジを数台置いてお客に精算してもらい、不正がないように防犯カメラで監視すれば、投資は軽く済むのではないか。
だが、そうはいかない。お客は面倒が嫌いだからだ。セルフレジと有人レジがあれば、お客のほとんどは有人レジに向かう。多くのお客は近くて便利だからコンビニを利用するのであって、店内で煩雑な作業に関わりたくないし、商品バーコードを探してスキャンするのも手間だ。最近では近所のコンビニに行くのも面倒になり、配達サービスを利用するお客も増えている。
仮に店内の全レジを既存のセルフレジにすれば、お客はいや応なく使うだろう。しかし、現実にはそうはいかない。多くの人はA地点からB地点への移動のついでにコンビニを利用する。このため、面倒な店は除外し、同じ動線上の別の店を利用する可能性が高まる。
現在、有人レジとセルフレジを併設する店では、早朝やランチタイムの混雑時に、レジに並ぶ時間を惜しんでセルフレジを使う人が多い。それ以外の時間は、有人レジが好まれる。バーコードの読み取りや袋詰めは、慣れている従業員に任せた方が明らかに楽で速いからだ。
筆者もセルフレジを利用するが、バーコードが小さすぎてなかなか見つけられず、後ろのお客から舌打ちされたことがある。こんな経験をすれば「セルフレジは2度とごめん」となってしまう。
人手不足の解消や従業員のレジ業務削減を目的にセルフレジを導入すると、客離れを起こす危険性が高い。そこでAmazon GoもTTGも、買い物体験の快適さを最優先し、レジ業務削減は付帯効果と位置づけているようだ。快適さとは例えば次の3点である。
別の角度から見てみたい。無人の店舗にわざわざ行きたい人は、どれくらいいるだろうか。
人口減少や超高齢化社会に伴い、買い物困難者は増えている。買い物困難者は、農村、山間部、地方都市だけの問題ではない。近年は大都市の中でも生活必需品の買い物に不便を感じている人は多い。
コンビニは3000人程度を最小商圏とし、日常生活に必要な食品や日用品を提供する業態である。北海道で高いシェアを持つセイコーマートは、自治体の協力を得ながら1000人程度の町や村にも店を展開している。
あるいはファミマが2018年8月、長野県朝日村の村役場新庁舎内に、村唯一のコンビニとしてオープンした「ファミリーマート信州朝日村店」がある。新庁舎を複合施設にしたいという村の意思で、建物は一体型として村が建設、店の内装工事はファミマが担当、地元出身で複数店を持つオーナーが経営することで、山間部への出店が実現した。
店数の少ないこうした地域に出店しているコンビニは「よろずや」の機能を持つ。よろずやは、コンビニが日本に登場する以前から、「なんでも屋」として人々の生活に必要な商品をそろえ、地域生活を支えてきた。地域の人たちが頻繁に通い、店員と会話し、お客同士が談笑する、地域コミュニティの中心であった。昔ながらの「よろずや」機能が、コンビニや他の業態には求められている。
「他の業態」の一例は移動販売車である。移動スーパー「とくし丸」(868台、9月2日時点)や、セブンあんしんお届け便(100台強)は、商品の仕入れ、販売を担当する事業者が、移動先のお客と対面で接し、お客の声に耳を傾け、ほしい商品を提供する。人と人のコミュニケーションから生まれる販売形態である。
一般に高齢者の外出先といえば、病院やデイサービスなどの施設に限られがちだ。他に地域住民が集まる「買い物の場」があれば、自宅にこもりがちな高齢者に交流の場を提供できる。毎日でも週に数日でも、会話ができる場はとても貴重で、コンビニを中心とした「よろずや」に期待が高まっている。お互いの健康状態の確認もできるし、地域の見守り活動にも役立つだろう。
これは農村や山間部の問題だけではない。私事ではあるが、首都圏に住む筆者は、自室にこもって数日間、誰とも話さずに仕事を続けることがある。特にコロナ禍の影響で、対面の打ち合わせは激減し、人としゃべらない時間は格段に増えた。休憩時に近所のコンビニを使うが、2つの店のうち、店主の顔が見え、時には会話もできる店の方を選んでいる。大手チェーンで、歴史の長いコンビニほど、アルバイトスタッフに至るまで、お客との会話を重視する傾向が強い。
無人店舗の開発や事業化を語る際、「普通ならコンビニが出店できないエリアでも、店を無人にすれば人件費が減って損益分岐点が下がり、出店可能になる」という意見をよく聞く。
しかし、それは楽観的すぎると私は考える。ただでさえ人の少ない地域の人たちが、好んで無人店舗に買い物に出かけるだろうか。顔の見える店主、笑顔のスタッフ、そこに集まるお客たち――。超高齢化社会のコンビニには求められるのは、そんな場所だろう。自治体と連携すれば、出店や運営にかかるコストを引き下げられるかもしれない。
もちろん買い物へのニーズは立地によって異なる。都心のオフィス街や駅周辺、駅ナカなどでは「人と接触せず、短時間でさっさと済ませたい」という人が多いだろう。オフィス街のように、人と人のコミュニケーションに満ち足りていて、周囲ににぎわいのある環境下では、むしろ無機質なコンビニが好まれるかもしれない。
その意味でコンビニは、扱う商品は同じでも、そのあり方が今後2極分化していく可能性がある。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年09月28日に公開した記事を転載しました)
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