客数は店の成長を示す大切な指標です。売上は客数×客単価で決まり、客数は自店の商圏人口と来店頻度に左右されます。コンビニはいま、その客数が増えない厳しい現実に直面しています。
コンビニ大手3社(セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン)の2022年2月末時点の店舗数は5万2552店。前年同期比263店(0.5%)増にとどまりました。一方、東日本大震災後の数年間は店舗数が大きく伸びた時期として知られます。例えば2013年2月末は3万5683店で、前年同期比2414店舗(7.3%)増で、現在との差は歴然です。
店舗数が伸び悩む主な原因は客数です。チェーン本部は通常、A店の客数がチェーンの平均を大きく上回る場合、近隣にB店を出店して高密度な商勢圏(ドミナント)を築きます。1店舗当たりの客数と全体の店舗数を同時に増やし、市場規模の拡大を図ります。しかし近年、牽引(けんいん)役となる客数の多い店舗が減っているのです。
客数を伸ばすため、チェーン本部は過去数十年で様々なサービスを導入しました。宅配便や銀行ATM、公共料金の収納代行などです。自店の商圏内の人が物販以外の目的で足を運んでくれるサービスを増やし、客数増に努めてきました。
そんな努力は続けつつ、客数を増やすためコンビニが新たに取り組むのが配達サービスです。来店してくれない客に、店の商品を届けます。ITを活用しながら外部事業者と協業し、商圏の客にアプローチする新たな仕組みを構築しようとしています。
コンビニが日本に登場する前、大手小売業にとって「客」とは広域から集める対象でした。県庁所在地には百貨店があり、季節の衣料品や住関連商品の販売、お中元やお歳暮の発送などのため、県内全域から集客を図りました。
やがて都市近郊に、低価格を武器とする量販店(総合スーパー)が進出。チラシを大量にまいて商圏の拡大を図りました。ダイエーが三越を抜いて売上高日本一になったのが1972年。量販店は中心部の百貨店を取り囲むように都市郊外を埋めていきました。
セブン-イレブンが出店を始めたのは、ダイエーが日本一になった2年後の1974年です。東京・江東区の酒販店がフランチャイズ契約して1号店となりました。
セブン-イレブンの実質的な創業者である鈴木敏文氏は、店舗開発の担当者たちに、しばらく江東区から一歩も出るなと厳命したといいます。一定エリアに店舗を集中的に配置することで面展開を図り、その地域のシェアを高めていく戦略です(通常は「ドミナント出店」といいます)。
これをセブン-イレブンは「高密度多店舗出店」と翻訳し、加盟店オーナーを募りました。来るか来ないか分からない広域から客を集めるのではなく、設定商圏の中で確実に集客する戦略を採りました。
セブン-イレブンのチェーン全店売上高は2000年度(2001年2月期)に2兆466億円に達し、ダイエーを抜いて日本一となりました。2021年度は4兆9527億円で、なお日本一の座を維持しています。コンビニ業界全体で見ると、毎日1店舗当たり700~1000人が来店し、全国に約5万8000店を展開しています。
セブンの宅配、2024年度2万店に拡大へ
そんな中、各チェーンは客に商品を直接届ける配達に力を入れ始めています。1件届けて客数1人のサービスですが、1人当たりの単価が高いのです。客数と客単価が上がり続ければ、業界の未来が拓(ひら)けます。
セブン-イレブンの宅配「7NOW」(セブンナウ)は、2017年から「ネットコンビニ」と称し、札幌市とその近郊でテスト展開を始めました。次に広島市と周辺にテスト店舗を拡大、東京でも実験を本格化させました。導入店舗数は2021年度(2022年2月末)1200店、2022年度5000店、2023年度1万2000店、2024年度2万店(特殊な立地除く)と計画されています。
注文にはスマホを使います。登録者情報をもとに注文先は最寄りの店舗を指定されますが、配送エリア内なら別店舗も選べます。配送エリアは店舗から半径500m圏内です。店内にある商品のうち、切手や一部サービス商品を除き、ほぼ全ての商品を画像付きの画面から注文できます。
注文すると店舗の専用端末に情報が届きます。従業員は商品名と画像から商品をピックアップ。セブン-イレブンの専用物流会社などが、店舗から注文先に配達します。
配送には軽自動車や小回りの利く原付三輪スクーターを使用。1車両につき5~7店舗を担当し、注文を受けてから最短30分で配送します。注文は税別1000円(一部エリアでは600円)以上からで、配送料は1回110~550円(税込み)。注文可能時間は午前9時30分~午後10時15分となっています。
商品単価は店頭価格とは異なることが注文時に示されます。もちろん店頭より割高です。客がどの程度まで許容してくれるか、これまでの実証実験で検証してきたとみられます。
リアルタイムで在庫を表示、欠品なし
ほぼ全店で導入のめどが立ったことには、システムの改善が大きく寄与しています。2020年10月から、店ごとのリアルタイムの在庫と品ぞろえが、スマホに画像付きで表示されるようにしました。店舗の在庫が客の注文画面に反映されているため、注文後に欠品になる可能性は理論上ほぼありません。
システム改善前は24時間に1度の在庫連携だったため、注文を受けた時には売り場に商品がない、ということがありました。その場合、店側は客に問い合わせ、別の商品を頼むかキャンセルするかを確認する必要がありました。そうした手間がいらなくなったのです。客だけでなく、店側の作業ストレスも軽減されました。店でのピックアップ作業を容易にする効果もあり、配送を最短30分にできました。
セブン-イレブンの担当者に話を聞くと、店には注文が集中するピークタイムと、注文が少ないアイドルタイムがあり、配達コストのばらつきが課題だそうです。例えば配達件数に応じた変動制を導入すれば、配達コストを抑えられる可能性があるといいます。
セブン-イレブンは1店舗当たり750万円の在庫を持っています。約2万店で7NOWを実施すれば、在庫金額は1500億円にのぼります。その在庫を活用しながら、新たな「客数」を獲得する方針です。
最近では、車やスクーターによる配達に加え、ドローン配送を見据えた実験も進めています。2022年施行予定の改正航空法では、「レベル4飛行」(無人航空機の有人地帯における目視外飛行)が認められる見通しです。ドローン配送の実用化には時間がかかるかもしれませんが、離島や山間部に配達できれば、買い物困難者への一助となります。
ローソンは「ゴーストレストラン」に参入
一方、ローソンは各店舗の「客数」を上乗せする「ゴーストレストラン」事業に参入しました。ゴーストレストランとは、客席がなく、宅配用調理に特化した業態です。デリバリー専用として開発した商品を店内キッチンで調理して届ける実証実験を、東京都内の「ローソン飯田橋三丁目店」で実施しています。
このサービスは、客がUber Eats(ウーバーイーツ)などのデリバリーサービスを通じて注文する仕組みです。店は注文を受けた後に調理し、外部の配達員ができたての商品を届けます。
ローソンは全店舗数の半数以上を占める約8000店に店内キッチン(まちかど厨房)を導入しています。レストランに比べて小さな設備ですが、米飯弁当やサンドイッチなどを店内で調理し、仕入れ弁当とともに販売しています。
そのキッチンをゴーストレストランに見立て、3000店舗以上のローソンで稼働しているデリバリーサービスを通じ、新しいメニューの提供と客数の拡大を図ります。
売れ筋は「からあげクン」などファストフードが中心で、酒類やデザートもよく動いているそうです。しかし、あくまで軽食にとどまり、できたての温かい食事へのニーズを十分に取り切れていません。そこでローソンは、店内キッチンを使って様々なメニューを提供できるゴーストレストランに可能性を見いだしたのです。
8000店のキッチン設備、大きな成長余地
飯田橋三丁目店で販売する商品は、デリバリーで人気のメニューを参考に開発しています。アプリ上の店舗名表記も「ローソン」ではなく「NY飯!チキンオーバーライス 飯田橋三丁目店」としています。アプリ上で客が好みの商品を選びやすいよう、商品に合わせたブランド(屋号)にしたためです。屋号は異なっても、ローソンで販売する飲料やアルコール、菓子などは購入できます。
客からの見え方を考えると、ゴーストレストランは屋号が一つでなくてもいいのです。ネット上にラーメン店、カレー店、中華料理店など複数の店の入り口を作ることで、集客の導線を増やせます。複数のブランドを持つことで、エリアや店ごとのニーズに合わせてメニューを組み立てられます。飲食店の少ない地域では町のレストラン代わりにもなるでしょう。
ともかく8000店のキッチン設備はインフラとして魅力的です。外食チェーンで最も店舗数の多いマクドナルドでも約2900店舗、すき家でも約1900店舗です。
ローソンのゴーストレストラン事業は始まったばかりですが、成長の余地は大きそうです。今後は「スンドゥブ専門店 ピギョル」なども加え、2025年度には関東以外も含めて1000店舗の陣容を目指すとしています。
コンビニにとって、これからの客数対策とは、店への集客だけではありません。店の外に出て、自ら獲得する局面に入っているのです。
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