組織開発とは?人材開発との違いや実施手順・注意点・企業事例を紹介
組織開発と聞いて、人材開発とは何が違うのか、何を実施することなのか具体的なイメージがつきにくいという方も多いのではないでしょうか。この記事では、組織コンサルティングが専門の中小企業診断士が、組織開発とは何かや実施手順、注意点などわかりやすくご紹介します。
組織開発と聞いて、人材開発とは何が違うのか、何を実施することなのか具体的なイメージがつきにくいという方も多いのではないでしょうか。この記事では、組織コンサルティングが専門の中小企業診断士が、組織開発とは何かや実施手順、注意点などわかりやすくご紹介します。
目次
組織開発とは、会社などの組織で働く人々の関係性に働きかけて組織を活性化させ、持続的な成長を促す取り組みです。OD(Organization Development)とも呼ばれます。
組織開発は、組織の状況が現状よりもよくなるためには、人々の関係性にどのようにアプローチして組織を機能させていけばよいのか検討するものであり、実際には組織が抱える問題を解決するのに一番適した手法が用いられます。コミュニケーション改善においては、コーチングやアサーティブ・コミュニケーションの活用、1on1ミーティングの実施など、制度面の改善では、人事評価制度の再構築、研修制度の見直し、OJTの充実などから選択されます。
ダイバーシティが進み、価値観や考え方が多様化する現代においては、従業員をどこを切っても同じ金太郎飴のように画一的に育成することに限界が出てきました。そのため組織開発を通じて、組織としてどのように同じ方向性を向かせるかを検討する必要がでてきたわけです。
組織開発は、人材開発と何が違うのか疑問を持つ人が多くいますが、組織開発は組織で働く人と人の関係性に着目して対処するのに対し、人材開発は個人に着目しています。
人材開発は人そのものを対象にするため、研修やOJTを通じて個人が成長することを目指しますが、組織開発は人と人の関係性を通じて組織改善を図るため、上司や部下、同僚同士などに関わりを持たせて、その関係性により良い変化を起こすアプローチをします。
組織開発においては従業員アンケートなどを通じて現状把握から始めるパターンと、あらかじめ問題を特定して従業員同士の対話を通じた解決策立案に向かう場合の2パターンがあります。ここでは、現状把握をしっかり実施して進める手法を説明します。
現状とあるべき姿のギャップを認識するべく、従業員満足度調査をします。一般的なアンケート方式の実施や面談による調査など、実施方法はさまざまですが、できるだけ従業員のリアルな声が拾えるように実施することが大切です。この調査により、組織の現状の“働きがい”、“働きやすさ”を含む問題が見え、手順2以降につなげやすくなります。
また、あるべき姿については、経営理念やのミッション・ビジョン・バリューとの整合性があるかが重要です。ただ「組織を良くしたい」というだけではなく、どのような組織でありたいのかを明文化したうえで進めると良いでしょう。
現状把握のステップで問題を認識したら、次にその問題が起きている原因を探ります。
例えば、「管理職が育っていない」「イエスマン(経営者や上司の顔色をうかがう)ばかり」「やらない理由ばかりを述べる社員が多い」などこれまでの育成手法や登用の仕方に問題がある場合や、「コロナの影響で組織内コミュニケーションが希薄になった」などコミュニケーションに問題がある場合、さらには「働きやすい環境だが、将来に不安を感じる社員がいる」「セクショナリズムがあり仕事が進めにくい」などこれまでの仕事の進め方や制度面の充実に問題がある場合などさまざまです。この問題の真因がどこにあるのかをまず把握することが大切です。
問題の真因を探るときは、本当の問題を見逃さないように、幅広い視点で考えることが重要です。例えば、業務フローに問題があるとフローの変更に力を入れたが、そもそも部署の役割や権限が不明確なことが問題だった、という場合もあります。
組織開発では、眼前の問題を解決するだけでは意味がなく、組織が今より良くなる(長期的には利益につながる)取り組みを実施していくことが重要です。そのため、1年~3年程度など企業規模に合わせた期間でどのような取り組みを実施すべきかを計画します。
例えば、OJT制度の見直しを従業員と一緒にワークショップ形式で実施しながら、人事評価制度を再構築し、育成と評価を同時に見直し、従業員のモチベーション維持や納得感の醸成を図るなど、複数の施策を無理のない範囲で組み合わせながら実施していくと効果的です。
実施内容の一例を以下に示します。
手順3で立案した計画に基づき、アクションを実行していきます。実行時に抵抗感を示す社員がいることも考えられるため、複数人でプロジェクトを組んで検討するなど、常に人と人とが関わりあいながら実行していくことが重要です。上からの押し付けに見える制度導入などは、不満の材料にしかなりません。常に人を巻き込み、参加者に当事者意識が生まれるようにすることが大事です。
それでも、否定的な意見や考えを述べる人が出ることもありますが、変化を求められたことによる短期的な拒絶反応であり、取り組みの狙いや目的を継続的に伝え、諦めずに理解を求めましょう。反対派に迎合してしまうと、改革が進まなくなり成長の機運を逃しやすくなります。取り組みのリーダーは、確固たる信念を持つことが重要です。
とはいえ、すべてが完璧にうまくいくわけではなく、取り組み内容の微調整が必要になることも多いです。ただ「うまくいかなかった」ではなく「どうやったらうまくいくか」の視点で改善し、次の取り組みを検討しましょう。
組織開発を進めるためには、心構えや押さえておくべきポイントがいくつかあります。ここでは、組織開発を進めるうえでの注意点を3つ説明します。
まず大事なのは、組織を「変えたい」「変わったほうがよい」というトップの気持ち、決意が重要です。なんとなく進めると、社員にもその姿勢が伝わり、危機意識が伝わらないからです。
多くの社員が「変わらなければ」と思っている状態であれば良いですが、組織の問題は、変化を拒む人が多いからこそ生じています。トップがその思いを強く持たなければ社員は変わらないでしょう。
組織の課題に取り組むときは、性善説(人の本性は善であるという考え方)――社員は悪いことをしようとは思ってはいない、と社員を信じることが肝要です。
例えば、「熱が出たと嘘をついて休む社員がいた」という場合に、その真偽を確かめるべく「体温計を写真に撮って送るように」とか「休むときは病院の診断を受ける」などと決めてしまうと、どちらも嫌な思いをします。
「親の介護があると嘘をついて転勤を拒んだ」という場合に、「親の介護を証明せよ」と言ってしまうのも同様です。もちろん嘘をつく人が悪いのですが、嘘をつきたくなる理由がほかにある可能性があります。上の立場や人事の立場になれば、ルールで縛ったほうが楽なのでしょうが、会社への不信感を生み出すだけで得策ではありません。
性善説にもとづいて取り組むことは、お互いを思いやることのできる職場にするうえで重要です。
組織開発の施策として、ワークショップや研修を取り入れることがありますが、取り入れ方には注意が必要です。
例えば、管理職の活性化をさせるための研修やワークショップは、1回きりでは効果があまりでません。一方で、毎月やりましょうと半年連続で実施したとしても、それはそれで研修を実施することが目的となって本来の目的意識が薄れやすくなります。1on1ミーティングも同様です。
組織開発を進める際には、研修やワークショップ、1on1ミーティングなどのソフトな施策だけではなく、制度の変更などのハードな施策を組み合わせるのが効果的です。両面から実施するとその狙いが伝わりやすくなります。
例えば、先の管理職の育成であれば、再度管理職の役割や権限を再定義したうえで研修を実施したり、1on1ミーティングであれば、実施状況や実施内容とその満足度の定点観測などを加えたりすると、施策の形骸化を防げます。
筆者が携わった組織開発の事例を2つ紹介します。
マーケティングリサーチ業を行う創業7年の会社の事例です。この会社では、15名の従業員で製品開発やその周辺の困りごとに答えていましたが、ここ3年ほど離職者が増えて社員の入れ替わりが早いことに悩んでいました。小さい会社ゆえ、合わなければ退職も仕方ないのだろうと社長は考えていましたが、やはり何か解決しなければ今後も人の問題で苦労してしまうだろうと考え、コンサルティングの依頼を受けました。
現状把握の調査をしてみると、仕事の内容に大きな不満はないものの、会社の方針が社員に伝わっておらず、この会社はどこを目指しているのだろうかと不安に感じていることが判明しました。そうしたなかで、大量の仕事がやってきて一気にやりがいが喪失してしまい、退職の選択へ向かっているのだろうと仮説を立てました。
明文化されたミッションやビジョンがなく、求められたら応えるというスタイルは疲弊しやすいです。そのため、ミッションやビジョンを明確化させるべく、会社の強みと弱みの整理を、自分たちの意見が自由に述べられるワークショップ形式で実施。これにより
これにより、会社はこの先どう進みたいのか、事業の方向性が明確化され、それに先立って解決するべき組織の問題や課題も共有できるようになり、売り上げや利益の向上につながりました。
創業50年、従業員200名の専門商社の事例です。4年前に社長が変わり、新社長のもと人事評価制度や賃金制度の改革を実施してきましたが、働き方改革や女性活躍が進まずにいました。
その原因は、従業員の同質化にありました。古い考え方に染まった人は社内でうまくやっていけるものの、染まれない人は仕事がしにくいため退職を決意しやすくなります。また、考え方が同質化しているわりには、組織に一体感が薄いこともわかりました。
そこで、この企業には、ダイバーシティ&インクルージョンがなぜ企業に求められているのか、そのメリットを説明したうえで、社員がどんな組織を望んでいるのか議論をしてもらいました。
議論では「もっと女性も採用したほうがよい」「本当に言いたいことが言えていない」など問題や課題が明確になりましたが、これをきっかけに女性採用に向けたプロジェクト、対話促進を進めるためのプロジェクトが発足。それによって、いま所属している社員の働きやすさや働きがいだけでなく、採用の促進にも良い効果が現れるようになりました。
企業は「持続的な成長」が必要で、そのためには利益を創出していかなければなりません。
「組織が組織として機能する」ということは、「1 + 1 = 2」(個人の力の総和)ではなく、「1 + 1 > 2」(相乗効果)により利益を生める体質にしていくことです。その意味で、人と人の関係性を良くし、人と人が相乗効果を生めるようにする組織開発は、企業に不可欠な取り組みと言えるでしょう。
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