働きやすい職場とは 特徴・メリット・実現方法を事例を交えて解説
変化の激しい時代に会社を成長させるためには、社員がより働きやすい職場をつくり、イノベーションを生むことが求められます。しかし、働きやすい職場とはどのような職場なのでしょうか。これまで累計200件を超える中小企業支援に携わった中小企業診断士が厚生労働省の定義をふまえて事例とともにわかりやすく解説します。
変化の激しい時代に会社を成長させるためには、社員がより働きやすい職場をつくり、イノベーションを生むことが求められます。しかし、働きやすい職場とはどのような職場なのでしょうか。これまで累計200件を超える中小企業支援に携わった中小企業診断士が厚生労働省の定義をふまえて事例とともにわかりやすく解説します。
目次
厚生労働省の「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書」によると、「働きやすさ」とは、「働く苦労や障壁が小さい」と感じられる職場であると定義されています。
つまり、社員が働いて成果を上げるうえで、室内環境といった物理的な労働環境から、人間関係といった目に見えない面においても、苦労や障壁が少ない職場といえるでしょう。
厚生労働省の調査報告書では「働きやすい・働きがいのある職場」のメリットとして、次の3点をあげています。
人的資源が限られる中小企業は、少人数で高い成果をあげなければなりません。
社員の働く意識が高まり、人材が定着する働きやすい職場をつくることは、大企業以上に必要なことだといえます。
では、具体的に働きやすい職場は、どのような特徴を持つのでしょうか。
これまで累計200件を超える中小企業支援をしてきた筆者が見たなかでは、「働きやすい職場」と評価を受けている企業に共通する特徴として、次の3点が挙げられます。
まず、経営者が社員に対し、積極的に経営ビジョンや経営状況を共有しています。
厚生労働省の「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書」によると、社員各自に与えられた仕事の意義や重要性について説明している会社は、それを実施していない会社との比較で、「働きがいがある」または「どちらかといえば働きがいがある」と回答する割合が15%以上高いとされています。
あわせて、「働きやすい職場」と言われている企業ほど、社員に対していい面・悪い面を含めた経営状況を開示しています。
逆に、経営者が経営ビジョンを共有していない会社は、社員が会社から求められている役割を理解できません。したがって、社員が経営層の望む成果を出してくれないということが発生します。
会社の経営状況を社員に共有しない企業についても、自分が勤める会社が今どのような経営状況なのかわからないことで不安を抱くほか、経営層に対して不信感を持つこともあります。
2点目は、柔軟で効率的な働き方ができる労働環境を整えていることです。
業務を効率よく行い残業が少なくなることで、社員は家族と過ごしたり、自身のスキルを上げたりする時間が増えます。その結果、社員の働きがいの向上にもつながります。
対して、柔軟で効率的な働き方ができず、残業が恒常的に多い職場では、社員の疲労がたまり、モチベーションや生産性の低下につながるほか、コストとなる残業代も増加してしまいます。
厚生労働省の「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書」によると、「同僚の離職理由」を調査した項目では、「労働時間が長い」が18.9%、「結婚・出産・育児・介護のため」が15.8%あります。
柔軟で効率的な働き方を実現できる組織をつくることで、これらの理由で離職する人材を定着させることにつながります。
3点目は、社内のコミュニケーションが円滑に取れていることです。
この「コミュニケーションが円滑に取れている」とは、業務上の連絡や報告が円滑に行われることはもちろん、社員同士のプライベートも含めた「雑談ができる」雰囲気がある状態です。
特にコロナ禍において、オンラインコミュニケーションの時間が増えた企業は、より社員同士のコミュニケーションに課題を感じていることが多いように見受けられます。
藤野秀則氏(福井県立大学)らが調査した「休憩中の雑談が職場内の知識継承・情報共有に与える影響の調査」では、「仕事の中でのポジティブな経験」を話したり聞いたりする雑談への参加の頻度が高くなると、職場内での知識継承・情報共有は活発であると認知されやすいことがわかっています。
では、働きやすい職場をつくるためには、具体的にどのような方法があるのでしょうか。
実際に中小企業で取り入れられている方法を3つご紹介します。
社員に対して経営ビジョンや経営状況を共有する方法としては、社員を一同に集める会議の定期的な開催が有効です。
具体的には、毎日の朝会や、週初めの月曜日にそのような場を設ける事例が見受けられます。
「うちは難しい……」と思われるかもしれませんが、共有の場は工夫次第で意外と設置できるものです。
確かにコロナ禍や働き方の多様化により、同じ時間、そしてリアルの会場に一斉に集まることは難しくなっていますが、オンラインで代替している企業も増えてきました。
また、同じ内容の会議を同月内に複数回開催し、全社員がいずれかの回に必ず参加できるようにしている企業もいます。
他方、実際に社員を集めたときに経営ビジョンを共有する方法としては、小さいカードサイズの紙に経営ビジョンやミッション・バリューなどを印刷し、社員がいつでも持ち運べるようにしたり、朝会などで読み合わせをしたりする、という方法があります。
ITを活用し、場所を選ばず働くことができる職場環境を整備することで、育児や介護といった家庭の事情がある社員でも、家庭と仕事を両立しやすくなります。
具体的には、情報共有ツールとしてChatwork・Slack ・Microsoft Teamsといったチャットツールのほか、データを社外からも閲覧・編集できる、クラウドのファイル共有サービスなどがあります。
このような職場環境の整備は、家庭の事情がある社員だけにメリットがあるのではありません。例えば、顧客先に出向くことが多い営業担当者の業務効率化にもつながります。
顧客への提案資料をクラウドのファイル共有サービスを使っていつでもどこでも見れるようにすることで、営業担当者が会社にわざわざ戻って資料を印刷しなくとも、顧客先で資料を提示できるようになります。
ITを活用した柔軟な勤務環境の整備については、行政の補助金・助成金が活用できる場合もあります。積極的に情報収集をしましょう。
「雑談」を含めたコミュニケーションの場作りについては、各企業の社風にあわせて、さまざまな取り組みがなされています。
以前より社員が雑談できる場として、コーヒーやお菓子を置いたスペースを設置している企業がありましたが、「会社に出社するからこそ」社員同士で気軽な会話ができるスペースがあることは、コロナ後より重要性を増しているように見受けられます。
筆者が勤務している起業準備者向けのインキュベーション施設では、施設の真ん中にキッチンスペースがあり、コーヒーを飲みながら、入居者やスタッフ同士の自然な会話が発生し、ここでビジネスパートナーの発見や、お互いのビジネスアイディアのブラッシュアップにもつながっています。
かつては社員同士の交流を図るイベントとして、運動会やバーベキュー大会など、社員やその家族が参加できるイベントを実施している企業もありました。インフォーマルも含めた飲み会もこれに当てはまるでしょう。
これらの施策はコロナ禍で開催が難しくなっている企業もありますが、その代わりに「社員の誕生日を掲示して祝い合う」など、新たな施策を打って工夫をしている企業もあります。
施策の内容は会社によってさまざまですが、共通していることは「社員が会話をする機会を増やす」ことに注力している点です。
会話をする機会が増えることで、時にはプライベートのことも含めたコミュニケーションが生まれ、社員同士の信頼関係構築につながっています。
最後に、具体的な企業の事例を用いて、働きやすい職場づくりについて解説します。
製造業のA社は、決算にあわせて毎年経営報告会を実施しています。ここでは全社員のほか、金融機関や取引先など、ステークホルダーにも広く声かけをしています。
業績についてもいい面・悪い面を隠さず提示することで、経営に対する信頼度も上がり、社員に対して目指すべき方向性を共有しています。
あわせて、新規事業を積極的に若手社員に任せることで、「働きがい」の促進も行っています。
働きやすい職場づくりに成功している経営者は、「あえてチャレンジングな仕事を任せ、知恵を絞って成し遂げるからこそ、仕事に対するやりがいが生まれ、また評価につながって定着につながる」と、口を揃えて言っています。
工夫が必要な難しい仕事を任されるからこそ、社員同士の協力無しでは業務も進まず、結果働きやすい職場づくりにつながっているのでしょう。
株式会社LITAは、創業5年目で社員26名のPR会社です。
LITAの本社は東京にありますが、東京の本社に出社するのは月1~2回の社員もいるなど、在宅ワークが大半を占めています。
また、社員の6割は子どもがいる母親で、フレックスタイム制を導入していることから、人によって始業や終業時刻も異なります。社員全員がそろって働いている時間が少ない、というのもこの企業の特徴です。
そのなかで、LITAでは、毎週月曜日に全社員が参加する朝会をオンラインで開催しています。
ここでは、経営層より経営状況の進捗について報告があります。また、社員全員で経営理念をクレドカードを用いて共有するほか、個人として成長するためにはどのような行動やマインドを持つべきかといった講話も行い、人材育成の場としても機能しています。
この朝会については、経営層が一方的に話すだけではなく、社員同士で発表し合う時間を設けるなど、経営と社員が双方向でコミュニケーションをとっていることが特徴です。
この施策により、社員が全国各地に散らばって直接会うことが少なくても、企業として一体感をもった組織運営を実現することにつながっています。
毎週の朝会のほかにも、毎日30分程度グループ内で業務進捗の報告を行うほか、軽い雑談の時間も設けるなど、社員が物理的に離れ直接会う機会が少ないからこそ、コミュニケーションを取る機会を意識的につくっています。
働きやすい職場環境づくりに成功している経営者に共通していることは、「経営者自ら社員とよく話すこと」「働きやすい職場環境整備のための投資を積極的に行うこと」の2点が挙げられます。
働きやすい職場づくりに取り組むことで、社員の定着が図ることができるほか、社員のモチベーション向上にもつながります。結果、イノベーションが生まれ、企業の業績も向上するのです。
この記事を参考に、まずは経営者であるあなたが、最近社員と会話をしているか、振り返ってみてはいかがでしょうか。
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