デザインの力で地域課題の解決を 福井発「Dcraft」がスタート
中小企業がデザインの力を生かしながら課題解決に取り組むプログラム「Dcraft デザイン経営リーダーズゼミin関西」が2022年9月、福井県鯖江市で始まりました。公募で選ばれた同県内の中小企業2社の後継ぎ経営者らが参加。これから半年間、デザイナーら専門家の協力を受けながら、デザイン経営を生かした事業計画を考え、具体的な成果へとつなげていきます。
中小企業がデザインの力を生かしながら課題解決に取り組むプログラム「Dcraft デザイン経営リーダーズゼミin関西」が2022年9月、福井県鯖江市で始まりました。公募で選ばれた同県内の中小企業2社の後継ぎ経営者らが参加。これから半年間、デザイナーら専門家の協力を受けながら、デザイン経営を生かした事業計画を考え、具体的な成果へとつなげていきます。
「Dcraft デザイン経営リーダーズゼミin関西」は近畿経済産業局が主催し、中小企業のデザイン経営を支援しているロフトワークが運営を担います。
中小企業の経営者らを対象にデザイナーや地域との共創の仕組みをつくり、企業1社ではできないことを可能にするのが目標です。ロフトワークが半年にわたってデザイン経営のノウハウや、クリエーター、専門家らとのネットワークを提供し、参加企業とともに課題解決に向けて伴走します。
今回、福井県内を対象に参加企業を公募。選考の結果、坂井市で織物の製造販売を手がける松川レピヤン、鯖江市でめっきや塗装など表面加工処理を行うワカヤマが選ばれました。
9月のキックオフでは、両社の代表が自社が抱える課題についてプレゼンテーションしました。
松川レピヤンからは松川敏雄社長の次男で、第3工場の工場長を務める松川享正さん(37)が参加しました。
1925年創業の松川レピヤンはレピア織機、シャトル織機などを用いて、国内外の有名アパレルメーカーのブランドタグ(織ネーム)などを製作しています。
従業員数は約100人。独自の技術と特殊経糸で、細かい文字や絵柄なども表現できる高精細な織ネームを強みにしています。
松川さんは入社11年目。技術力には自信を持っていますが、数年前から発信面で課題を感じていました。デザイン経営を学ぼうと思ったきっかけの一つは、会社の発信力を高めることでした。
「メーカーとして来る球を打ち返すことはやってきました。でも、こちらから球を投げるのはまだまだ苦手。情報発信する力やノウハウが会社に備わっていないので、成長していくためには、それを強化する必要があります」
松川レピヤンは主力の「織ネーム」以外にも様々な織物製品を手がけていますが、第二の収益の柱と言えるほどの商品は定まっていないのが実情といいます。そこで「Dcraft」を通じて、新しいものづくりへのヒントが生まれればと考えています。
「すぐ結果が出るものではありませんが、ゆくゆくは収益の柱になる製品につなげたいと思っています。これまでも色々と試してきましたが、まだ『これだ』というものに出会えていません。デザインは足りない要素の一つなのでまずは土台をつくりたいです」
製品の性質上、社員は「自分たちの技術が社会に役立つものだ」という実感がなかなかわきにくい面もあるといいます。松川さんはいつも「誰かの大事なプレゼントだと思って製造しよう」と呼びかけているそうです。
松川レピヤンは10月に新社屋が完成し、会社のロゴデザインの刷新も発表しました。
「今まではお客様と会社の利益のため、工場の設備投資を中心にお金をかけてきました。でも、今回は社員や会社に集う仲間のために投資しています。社員がくつろげる空間を創り、福井で一番大きな『おうち』を目指しています」
松川さんは「人に優しくなれて思いやりがあふれ、社員がちょっと楽しいなと思える会社にしたい」と熱い思いを語りました。
メガネの産地として有名な鯖江市にあるワカヤマは1986年に創業。 メガネフレームに代表されるめっき加工などを手がけています。従業員数は約50人です。
Dcraftには2代目社長の若山健太郎さん(39)が参加しました。
若山さんは米国の大学でマーケティングを学び、自社の技術が支える製品を学ぶため、2年間、取引先のメガネ製造会社で働きました。家業に戻って3年間現場を経験。先代の父親が60歳となり、創立30周年の節目となった2016年に34歳で社長になりました。
21年度のDcraftには、若山さんの先輩がいる会社が参加していました。エントリーを勧められて調べてみると「デザイン経営」というテーマに目が留まりました。
ワカヤマはこれまでも高い塗装技術などで、岐阜県関市の刃物や富山県高岡市のすず製品、広島県熊野町の熊野筆など、日本の伝統産品の製造を支えてきました。
「色々な方に『ワカヤマさんのやっていることは、デザイン経営だね』と言われることがよくありました。でも、私自身がデザイン経営という言葉になじみがなくそもそもよくわかっていない。一度しっかり勉強したいと思っていたので、ちょうどいい機会でした」
デザイン経営は即座に効果が出るものではなく、とても難しいことと感じています。しかし、Dcraftのプログラムに取り組むことで、会社に関わる人の価値観を変えるきっかけになるではないかと、若山さんは考えています。
若山さんの問題意識の背景には、繊維やメガネなど「ものづくり」の地場産業が盛んな福井県ならではの課題があります。
「福井県は有効求人倍率が全国で唯一2倍を超えており(22年8月の雇用統計)、日本一採用が難しい県なんです」
若山さんは会社の持つ役割と同時に、若者が会社に求める魅力が変わってきているといいます。
「以前はお金を求めていたものが休みに変わりました。でも、休みだけだと寂しすぎますよね。やりがい、カッコ良さ、自分が働く誇りといったお金以外の価値も提供できる会社にしていかなければいけません」
若山さんは今、会社が地域にどのような価値を提供できるかに、目を向けています。
「福井の技術はすごいのに、みんながそれに気がついていません。それらをきちんとデザインして、福井のすごさをもっと地域や県外に発信したいし、外から仕事を取ってこられるようにしたいです」
若山さんはDcraftでの学びを通じて、地元製品の価値を上げて鯖江の技術を広めていくことに、意欲を燃やしています。
Dcraftのキックオフでは、デザインディレクターの萩原修さんと、弁理士の土生(はぶ)哲也さんによる基調講演もありました。
ものづくりの産地でデザイン領域の豊富な活動実績を持つ萩原さんは「社員や顧客だけでなく、『じゃない人(現時点で自社に関わりのない人)』に目を向けてみることが大切です。そうした人と関わり共創することで、自社の新しい価値が生まれてくる可能性がある」とアドバイスしました。
知的財産分野で多数の中小企業を支援している土生さんは「知的財産をうまく活用している会社は説明がうまい」と強調しました。
「売れないのは商品がだめだからではなく、良さを説明できないからです。採用ができないのは、会社の魅力をきちんと説明できていないからということになります」
キックオフでは参加2社と荻原さん、土生さんを交えたワークショップが開かれ、課題解決に向けて白熱した議論と交流が図られました。
Dcraftでは10月、デザイン経営に力を入れている遊具メーカー「ジャクエツ」(福井県敦賀市)の工場などを視察しました。今後、松川レピヤンとワカヤマがそれぞれ取り組むプロジェクトの具体的なプランニング、実証、成果発表へとつなげていきます。
デザイン経営の実践を通じて、福井のものづくりを支える2社からどのような成果が生まれるのか、注目したいと思います。
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