経営理念をめぐる四つの誤解とは 経営者に求められる行動を解説
経営理念を定めることは極めて重要です、全国3200社に組織コンサルティングを行う識学の上席コンサルタント・和田垣幸生さんは、経営理念について正しいとは言えない考えを抱く経営者は少なからずいるといいます。和田垣さんが、経営理念をめぐる四つの誤解について解説します。
経営理念を定めることは極めて重要です、全国3200社に組織コンサルティングを行う識学の上席コンサルタント・和田垣幸生さんは、経営理念について正しいとは言えない考えを抱く経営者は少なからずいるといいます。和田垣さんが、経営理念をめぐる四つの誤解について解説します。
経営理念は、社会のために自分たちがどのような貢献をするか対外的に示し、経営者が何をやりたいかを明確にしたものです。それゆえ、経営理念には外部の人から「この会社と関わりたい」と思ってもらえる社会性が必要と言えるでしょう。
「社員のために会社を運営する」といった趣旨の経営理念を掲げている会社がよくあります。しかし、会社は社員ではなく社会のために存在するはずです。仮に、社会への貢献と社員の利益がトレードオフになる経営判断が必要になったとき、社員の利益を優先したらどうなるでしょうか。市場から相手にされなくなり、会社の存続そのものが難しくなっていきます。
どんなに高品質でも、黒電話を欲しがる現代人はほとんどいませんよね。内向きの経営理念の会社だと、社会のニーズを考えようとせず、外部環境の変化に対応するのが遅くなります。「自分たちの能力や設備でできる範囲内で、こだわりを持って仕事をする」という考えに陥ってしまいがちになるのです。外向きの経営理念を定める会社であれば、時代や環境によって変わっていく社会のニーズにいち早く気づき、変化していけるわけです。
ならば、社員の声を聞き入れて、あるいは社員と一緒に経営理念をつくろうと考える経営者がいるかもしれません。しかし、経営理念とは基本的にトップである社長が、その組織をどこに持っていきたいかという観点からつくるものです。
「この会社はこれを成し遂げていく」、「こういう世の中にしていくために貢献していく」という強い思いが経営者にないからこそ社員と一緒に考えようという考えになるのであり、その発想が出た時点でアウトです。
人は自分で決めたものは自分で変更できると思ってしまう生き物です。経営理念の策定に携わった社員も、「自分が決めたんだ」という意識を抱くようになることでしょう。そういう状態だと、例えば、次のような問題が起きてしまいます。
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「世の中のために仕事をする」という経営理念を定めている会社で、ある社員に「1日に20件テレアポをしなさい」と命じたとします。ところが、その社員が指示通りに電話をかけていたところ、すごく急いでいる顧客に「もう二度とかけてくるな」と怒鳴られました。すると、その社員は「この業務は世の中のためになっていないからやるべきじゃない」と勝手に判断し、指示に従わなくなってしまいます。
このような社員は「自分が経営理念をつくったんだ」という意識があるため、自分なりに解釈しても問題ないという錯覚を起こしてしまっているのです。
そういう誤解を生じさせないために、経営者は社員に対して明確な目標を設定し、そこに向かうことを約束させて管理していくことが必要です。
経営理念を複数掲げている企業も存在します。必ずしもだめというつもりはありませんが、一つにした方がよいでしょう。なぜなら、社長自身を含め迷いにつながる恐れがあるからです。
経営理念が明確になっていると、まず、社長自身が判断に迷わなくなります。行動や決断に迷ったときも、経営理念に沿うかどうかを基準にすれば、ぶれがなくなるのです。
いわゆる「決めの問題」というのは、自分の正義がどこにあるかによって決まってくるものです。社長にとっては、そのよりどころが経営理念であるべきなのです。
しかし、その基準が複数あるとすれば迷わない方が無理というものではないでしょうか。「経営理念のなかでの優先順位が決まっているから問題ない」という意見もあるでしょうが、であれば、それらを全部ひっくるめた一つの経営理念をつくってください。
経営理念は、一度設定したら決して変えてはならないというものではありません。時代にそぐわないと経営者が判断したのであれば変えるべきです。
例えば、代替わりしたときは経営理念を変更するよいタイミングでしょう。新しい経営者は自分が目指すべき姿をしっかりと考え、それが今の経営理念から少しでも離れていると思ったら、つくり変えるべきです。
ファミリービジネスだと、代替わり自体が数十年ぶりという場合も珍しくないでしょう。特に地方には、ファミリービジネスの企業が数多く存在しています。
筆者も経営者から「経営理念は先々代の社長である私の祖父がつくりました」といった話をよく聞きます。
そういう会社は、これまで特に大きな波もなく地域内で事業を続けられ、地域の顧客も途切れず、社員たちと楽しく仕事ができ、形だけの経営理念であっても別に困らなかったのかもしれません。
しかし、変化の激しい現代をこれからも本気で生き抜こうとするのであれば、そのままでは難しいのではないでしょうか。現状維持は衰退と同じです。生き残るための施策が本当に必要になったとき、経営理念が浸透している組織の方が生み出しやすいはずです。
ただし、「経営理念をつくりたいが、どんなものにしたらよいか悩んでいる」という経営者も、深刻に考えないでください。悩む時間がもったいないですし、何より「社会のために何ができるか」という意識がない状態で形式的な経営理念をつくっても、それはうそになってしまいます。誰しもうそのために頑張れる人はいません。
そんなときは「どれくらい稼ぎたいのか」といった目標でも構いません。そこに向かって事業を進めるなかで経験を積み、社会に発揮できる有益性を探していくとよいでしょう。そうすれば、経営理念にすべきものが見つかる可能性が高まります。
我々は「自らの内側から自然に生まれてくる思いこそが本当のモチベーションである」とお伝えしています。
識学上席コンサルタント/開発本部本部長
横浜国立大学経済学部を卒業後、システム開発の会社でエンジニアとしてキャリアをスタート。その後コンサルティング会社、人材紹介の会社を経て識学に入社。2016年に営業部門の課長に就任し、17年には品質管理部門の立ち上げを担当。同年春に部長に就任。以降、マーケティング、インサイドセールス、プラットフォームサービス開発などの責任者を経て、20年からは再び営業部門へ。営業1部の部長を担当したのち、現在は開発本部本部長として活動。
(※構成・平沢元嗣)
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