従業員の自主性向上と事業再構築は「企業の成長の可能性」 中小企業白書
後継者が従業員の自主性を高めて事業再構築に挑戦することは、事業承継後の企業の成長を促す可能性がある、と2023年版の中小企業白書が指摘しています。「事業承継した後継者はまず既存事業に専念すべきだ」という意見も根強いなか、事業再構築を軌道に乗せるにはどんな要因があるのか、中小企業白書のなかからポイントとなる要素を探します。
後継者が従業員の自主性を高めて事業再構築に挑戦することは、事業承継後の企業の成長を促す可能性がある、と2023年版の中小企業白書が指摘しています。「事業承継した後継者はまず既存事業に専念すべきだ」という意見も根強いなか、事業再構築を軌道に乗せるにはどんな要因があるのか、中小企業白書のなかからポイントとなる要素を探します。
目次
中小企業庁の公式サイトに公開されている「2023年版中小企業白書」によると、帝国データバンクが2022年11~12月に、従業員5人以上で事業承継後5~9年目の中小企業1万5000社を対象にアンケート調査を実施しました。3551件の回答が得られ、回収率は23.7%でした。
もちろん、この調査だけで確定的なことは言えませんが、そのなかでもいくつかの傾向が見えてきました。
調査によれば、事業承継を機に、「従業員の自主性が十分高まった」、「従業員の自主性がやや高まった」と回答した企業は約68%に上りました。
中小企業白書は「先行研究において、後継者が新たに事業の展開を図る前に、自立型社員の育成・活用などの後継者特有のリーダーシップを発揮し、組織面の改革を行うことの重要性が指摘されるように、従業員の自主性が高い組織を作ることは、後継者の事業再構築の取組に影響を与える可能性が考えられる」と指摘しています。
「従業員の自主性が高まった」企業は、「従業員の自主性が高まっていない」企業と比較して、売上高年平均成長率の水準が「高」、「やや高」と回答した割合が高い傾向でした。
では、従業員の自主性を高めるにはどうすればいいでしょうか?
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事業承継を機に従業員の自主性が高まった企業は、自主性が高まっていない企業と比較して、実施している割合の高い取り組みは次の通りです。
ただし、人事評価・報酬制度の見直しは事業承継直後に実施すると、従業員の反発を招きやすいので慎重に進めた方がよいでしょう。
このほか、中小企業診断士の米澤智子さんは記事「自主性を高める5つの方法とは?具体的な事例とメリットも解説」のなかで、従業員の自主性を高める5つの方法として次のように紹介しています。
このほか、「権限委譲を進めている」と回答した企業は、「権限委譲を進めていない」企業と比較して、「従業員の自主性が高まった」と回答した割合が高い傾向にありました。
こうした結果から、中小企業白書は「従業員の自主性を高める上では、経営理念・ビジョンの共有など従業員へ経営の方向性を示す取組や権限委譲を進める取組等が有効である可能性が考えられる」と指摘しています。
従業員の自主性向上に手がかりをつかめたら、事業再構築についても準備してみましょう。
事業再構築とは、新たな製品を製造、または新たな商品・サービスを提供すること、製品・商品・サービスの製造・提供方法を相当程度変更することを指しており、新商品開発や新規事業と似たような文脈で使われています。
調査結果では、59.7%の企業が事業承継を機に、事業再構築に取り組んでいました。
調査結果によると、事業承継時の経営者年齢が若い企業ほど、事業再構築に取り組む傾向にありました。中小企業白書は「事業承継による経営者の世代交代は企業にとって挑戦・変革の契機になると考えられる」と指摘しています。
事業再構築を実施した理由について尋ねると、「既存事業の将来性に対して危機感を抱いていたため」が54.4%と最も高く、「新しい主力事業を創出するため」が 51.8%と2番目に高く、「顧客・取引先の要請やニーズへ対応するため」(44.0%)、「既存事業の業績が低迷していたため」(30.3%)が続いていました。
事業再構築が、売上高の増加や付加価値額の増加に「大きく寄与した」、「ある程度寄与した」という回答が70%を超えました。
また、従業員数の増加に「大きく寄与した」、「ある程度寄与した」と回答した割合も40%を超えています。
調査では、従業員の自主性の変化及び事業再構築の取組状況別に、売上高年平均成長率の水準も調べています。これを見ると、事業承継を機に従業員の自主性が高まり、事業再構築に取り組んだ企業は売上高年平均成長率の水準が最も高くなっていました。
売り上げへの貢献だけでなく、「取引先の増加」「既存事業とのシナジー発揮」「新しい技術・ノウハウの獲得」などを実感した回答も多く得られました(複数回答)。
また「経営者としての知識・スキルの養成」と回答した割合も31.8%に上っており、後継者が経営者として成長する機会にもなっているとみられます。
中小企業白書は「今回の調査だけでは一概にはいえないが、従業員の自主性を高めた上で、事業再構築に取り組むことが、事業承継後も企業を成長させていく上で重要だと示唆される」と指摘しています。
また事業再構築に取り組む際には、先代経営者の存在にも影響を受けます。主に後継者が意思決定を行っている企業が事業再構築に取り組む傾向にあることを踏まえると、「先代経営者は、後継者が事業再構築に挑戦できるよう、後継者に経営を任せる意識を持つことが重要だ」と述べています。
一方で、事業承継直後の後継者は既存事業に専念すべきとの意見も根強くあります。
そんななか、事業再構築できちんと成果を上げるには、先代経営者とコミュニケーションをとりながら早期の段階から事業再構築の検討に着手しつつ、従業員から信認を得ておくことや自社の強みを認識し活用していくことがカギとなりそうです。
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