「死亡記事」を書いて経営者の覚悟を固める 理念やビジョンを描く手段に
後継ぎ経営者が会社の経営理念やビジョンを描くには、思い切って自分自身の「死亡記事」を書いてみる手段が有効です。記事に盛り込むための実績を考えることで、具体的な会社の理念や目標が思い浮かび、経営者としての覚悟が固まります。「ポジティブ終活」連載6回目は、死亡記事の執筆を経営者に勧めている三世代充実生活研究所所長・髙橋佳良子さんが、記事の書き方や書くことで経営にもたらすプラス効果について、事例をもとに解説します。
後継ぎ経営者が会社の経営理念やビジョンを描くには、思い切って自分自身の「死亡記事」を書いてみる手段が有効です。記事に盛り込むための実績を考えることで、具体的な会社の理念や目標が思い浮かび、経営者としての覚悟が固まります。「ポジティブ終活」連載6回目は、死亡記事の執筆を経営者に勧めている三世代充実生活研究所所長・髙橋佳良子さんが、記事の書き方や書くことで経営にもたらすプラス効果について、事例をもとに解説します。
目次
経営者であるあなたが亡くなった時、自身が何を成し遂げた者なのか、そして周囲はそんな自分をどのような目で見ていたのか気になったことはありませんか。ただ、残念ながらあなたの死亡記事をタイムマシンに乗って見に行くことはできません。
しかし、あなたが「遠い将来、自身が亡くなるときにどのようなことを成し遂げ、周囲からはどのように見られたいのか」という視点を持ち、そのためにこれから何をすべきかを明確にできれば、これからの経営者人生はより良いものに変化していくと、筆者は考えます。
終末期医療の専門家である大津秀一さんは、終末期の患者さんが後悔していた事例から抜粋した「死ぬときに後悔すること25」(致知出版社)という本を書きました。それによると、「単純な話だが、明日死ぬかもしれないと思って生きてきた人間は後悔が少ない」といいます。
同書の中から二つの「後悔」を紹介します。
5.自分のやりたいことをやらなかっこと
我慢し続けて良いことなどこれっぽっちもないと思う。転職したいなら今すべきである。新しい恋に生きたいなら、今すべきである。世の中に名を残したいなら、今からすべきである。
6.夢をかなえられなかったこと
死ぬ前に後悔するのは、夢がかなわなかったこと、かなえられなかったこと、そのものよりも、むしろ夢をかなえるために全力を尽くせなかったことにあるのかもしれない。
人生の最期を前にして後悔することは、「なぜ全力を尽くせなかったのか」、「なぜやらなかったのか」です。
そこで筆者は、後継ぎの皆様が「明日死ぬかもしれない」と仮定して自身の死亡記事を書くことで、やるべきことが明確になれば、今後の人生を変えることができるはずだとの思いに至りました。死ぬときに後悔しないように全力を尽くすべきことが具体的にわかるからです。では、具体的な死亡記事の書き方について、次章から解説します。
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では、ここからは寿命を全うして亡くなると仮定し、そのころには「自身が何を成し遂げた者なのか、そして周囲はそんな自分をどのような目で見ていたのか」を意識しながら、ご自身の死亡記事を実際に書いてみましょう。
たとえば、天寿を全うしたと仮定した筆者の死亡記事はこんな感じになります。
【タイトル】
「終活」の母亡くなる 50歳からの終活を世に広め、皆が安心して幸せな最期を迎える道標を提唱
【本文】
髙橋 佳良子(たかはし かよこ) 三世代充実生活研究所主宰 享年87歳
4月11日、87歳の誕生日に自宅の庭で日なたぼっこをしながら静かに息を引き取った。5年前に夫に先ただれて一人暮らしだった髙橋さんは、たまたま訪ねてきた娘たちに見守られながら息を引き取った。死因は急性心筋梗塞。
娘たちからどんな人生だったかときかれ、「楽しい人生だった。色々なことにチャレンジし、色々な人に出会え、多くの学びを頂けた。お陰様で幸せな時を過ごすことができた。ありがたい」と話したのが最後となった。
人生の後半は親・子・孫が心豊かに暮らすための三世代充実生活研究所の活動に力を注いだ。「終活の母」として、様々な企画を行政や企業に持ち込み、高齢期の人々の暮らしの改善と心構えを提唱。「高橋モデル」として様々な地域で実践された。
晩年は自らが立ち上げた地域の見守り制度を利用しながら山間の小さな家で犬と猫と一緒に暮らしていた。財産らしいものはほとんど残っていなかった。葬儀は家族など近親者のみで行い、小さい頃から慣れ親しんだ瀬戸内海へ既に散骨された。
ここからは、死亡記事を書くにあたってのステップについて説明します。
まずは、あなた自身の死亡記事を書く前提として、できるだけ客観的にご自身をとらえて書いてください。経営者として、後継ぎとして、ご自身や会社の理念やビジョンなどをもとに、それを達成するための具体的な取り組み、その時期などを死亡記事に織り込むと、より具体的な死亡記事が出来上がります。
そのためには、死亡記事に載せるかどうかは別にしてご自身が思い描く人生を書き出してみることをお勧めします。たとえば、次のような項目が挙げられます。
これらをもとに死亡を記事を書くと、ご自身の望む最期を具体的に想定しやすいはずです。
まず、今日亡くなるとしたらと仮定して、死亡記事を書いて下さい。
次に、10年後に亡くなるとした場合の死亡記事を書いて下さい。
最後に、天寿を全うして亡くなったときの死亡記事を書いて下さい。
今日、10年後、天寿を全うした場合の死亡記事をそれぞれ書いて、あるいはこれらを比較して、経営者(後継ぎ)としてどんなことに気づきましたか。例えば以下のように書き込んで下さい。太字は事例です。
そして、10年後に亡くなった場合の死亡記事に書いたことが本当になるように、経営者として成し遂げるべきことを書いたリストを作成します。例えば次のようなものになります。
実際に死亡記事を書いてみて、どのような想いを持たれましたか。死亡記事を完成させるためには、自社の経営理念やビジョンとリンクさせてください。
もし、まだ経営理念やビジョンがなければ、これを機会に作成することをお勧めします。すでに作成しているなら、将来の具体的なイメージを死亡記事に反映させられるでしよう。
たとえば、経営理念とは「企業の目的は何か。何のために経営を行うのか、どのような会社を目指すのか」を形にして、同時に社会に対してどのような役割を果たせるのか、どのような影響を与えられるのかを示すものです。
次にビジョンとは、経営理念を追求する過程における自社の理想的な未来を具体的に表したものです。企業が将来的に達成したい状態や、時期や売り上げなど具体的な到達目標を指します。
死亡記事を書くことは、まさに社長として後継ぎとして、これからあるべき姿を考える「ポジティブ終活」なのです。
筆者が実際に指導した経営者自身による死亡記事の事例も紹介します(※個人が特定されないよう、設定は一部変更しています)。
建設業の後継ぎAさん(40)は、自身の死亡記事を書くことで今まで漠然としていた会社への想いを具体化することができました。
自分で創業した同世代の仲間たちは自身の采配で会社を大きくしており、定期的に経営に関して語り合っています。しかし、そのたびに社長ではない自分にはまだ覚悟が足りないと悩み、経営に本気になれない気持ちを抱えていました。
そこで、自身の10年後の死亡記事を書いてみることを勧めたところ、自分は会社をどうしたいのか、現在の社員が10年たった時に自身との関係性はどうなっているのかなどを具体的に考えるようになったそうです。
事業承継についても、親である現社長(65)と協議し、3年後に社長を交代すると決めて具体的に動き始めたということでした。
当時、彼が書いた10年後の死亡記事は以下になります。
△△株式会社 社長〇〇 □□氏 享年50歳
7年前に父より事業を承継し、会社のリーダーとして社員の育成に力を入れ、従業員との間に「信頼」を築いた。新製品の開発に取り組み年商〇億円を達成。地域復興のための取り組みを率先して行い、また厚生労働省や県より「働きがい認定企業」「女性活躍推進企業認定」をうけるなど、社員の育成と地域貢献に力を注いだ。
死亡記事を書くというワークは様々な効果をもたらします。ここから動くか動かないかはあなた次第です。いずれやってくる人生の最期を前にして、「全力を尽くせた」、「やるべきことをやれた」と、後悔しないために早速行動を起こしましよう。
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