後継ぎもエンディングノートの作成を 事業成長に役立つ項目を解説
終活の一環として、エンディングノートを作成する方が増えています。後継ぎ経営者のほとんどは終活を意識されていないと思いますが、この段階から、経営に関する項目を盛り込んだ自身のエンディングノートを作っておけば、これからの経営指針がはっきりして、事業成長につながります。中小企業経営者の相談に乗る機会が多い三世代充実生活研究所所長の髙橋佳良子さんが、エンディングノートの作成方法や経営にもたらすメリットを解説します。
終活の一環として、エンディングノートを作成する方が増えています。後継ぎ経営者のほとんどは終活を意識されていないと思いますが、この段階から、経営に関する項目を盛り込んだ自身のエンディングノートを作っておけば、これからの経営指針がはっきりして、事業成長につながります。中小企業経営者の相談に乗る機会が多い三世代充実生活研究所所長の髙橋佳良子さんが、エンディングノートの作成方法や経営にもたらすメリットを解説します。
目次
「もしこの後、経営者のあなたが帰宅途中に亡くなったら、家族や会社の従業員はそれを受け入れて、どのように行動すべきか決めていますか」
筆者は先日、事業承継を行ったばかりの製造業の若手経営者(40代前半)と話をする機会があり、失礼とは思いながらも尋ねてみました。
その経営者は様々な事業を立ち上げ、意欲的な経営を進めています。「今までそんなことは一切考えたことはないし、まだまだ大丈夫ですよ」。そう答えながらも、少し考えたのちに「それって、ある意味BCP(事業継続計画)の一環ですね」と話しました。
中小企業庁はBCPについて、次のように説明しています(原文ママ)。
BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。
緊急事態は突然発生します。有効な手を打つことができ無ければ、特に中小企業は、経営基盤の脆弱なため、廃業に追い込まれるおそれがあります。また、事業を縮小し従業員を解雇しなければならない状況も考えられます。
緊急時に倒産や事業縮小を余儀なくされないためには、平常時からBCPを周到に準備しておき、緊急時に事業の継続・早期復旧を図ることが重要となります。こうした企業は、顧客の信用を維持し、市場関係者から高い評価を受けることとなり、株主にとって企業価値の維持・向上につながるのです。
中小企業庁ホームページ
これから解説する「経営者のためのエンディングノート」は、まさにBCPの一環として作成するものです。ただ、一般の方のエンディングノートとは違い、事業継続や承継に関することが含まれるのが特徴です。ノートの作成は、従業員や取引先を安心させるだけでなく、株主にとっての企業価値の向上にもつながる重要なツールと言えるでしょう。
連載1回目(後継ぎを襲う危機に備える「ポジティブ終活」 経営リスクを減らす方法)でも、「経営者の死」によって社内にどのような混乱が予想されるのか、そして信用を落とさず会社を存続させて(状況によっては廃業や売却も)、家族や社員が路頭に迷わないための道筋をつけておくことが、後継ぎ世代の使命となるという点を説明しました。
今回は、経営者や後継者(候補も含む)である読者の皆様が、「経営者のためのエンディングノート」の作成を通じて、過去を振り返りながら、今後の経営者人生を計画するための道標として活用して頂ければ幸いです。次章から具体的な作成方法、作成によるメリットなどを詳しく解説します。
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エンディングノートとは、人生の終わりに向けて、どのように生活し、万が一の認知症や病気に備えるか、そして自身の死後の墓や葬儀、財産の振り分けをどのようにしたいのか、あるいはして欲しいのかを書き記すものです。書き進めるうちに自身の気持ちが整理され、これからの人生の指針ができ、やるべきことが明確になります。
経営者がエンディングノートを作成するメリットには、以下のようなことが考えられます。
何より大切なのは、結果だけでなく、様々な選択を行うための考え方やプロセスになります。
エンディングノートの優れたところは、自身の気持ちや考え方が変わった時に何度でも自由に書き直せる点です。社会情勢や会社の事情が刻々と変化すれば、それに合わせて書き直す必要が出てくるからです。
書き直すにあたって家族や会社に大きく影響するようなら、方針の変更を伝えなければなりません。知らなかったではすまされないトラブルにならないように気を付けましょう。
エンディングノートには遺言書のような法的効力はありません。遺産分割に関する記載もできますが、経営者(後継者)には法的に効力のある「公正証書遺言」の作成をお勧めします。
その際に気を付けて頂きたいのは、相続人はいったん、目にした内容は忘れないということです。エンディングノートと遺言書で、遺産分割の内容が食い違っていたことで後々家族でトラブルにならないように対処してください。
遺言書は日付が一番新しく法的に有効なものが正式となります。ご自身で書く自筆証書遺言は、書き方や記載内容が法律にのっとっていなければ、法的には無効となりますのでお気を付けください。
エンディングノートは、様々な種類が売られており、ご自身に合ったものを選ばれるといいでしょう。ネットでダウンロードできるもの、使いやすくカスタマイズできるものもあります。
ここからは、一般的なエンディングノートの項目をもとに、経営者に必要となるノートの作成方法をお伝えします。
経営者の皆様は、まずエンディングノートで自身の基本情報を書いていただきます。具体的な項目は「今まで歩んできた道」と「これからの人生でやりたいこと」です。
創業から現在までを振り返りながら、会社と自身、家族の出来事を視覚化し、現在から将来あなたが亡くなった後までの未来を創るのが目的です。
その際に作っていただきたいのが、「会社年表と自分年表」になります。具体的には以下のイメージです。
創業以来の出来事やデータの推移を振り返ることで、時々の経営課題に対して、どのように手を打ってきたかを知ることができます。
例えば、図表の左から3番目の欄では、決算書で読み取れる数字を記入することで、当時の支払い能力や資金効率、労働効率、成長力などが把握できます。
中でも、自己資本比率(自己資本〈純資産〉÷総資本〈総資産〉×100%)を上げるには長期的に利益を積み重ねることが大切になるため、創業以来の事業活動の総決算ともいえる数値です。
こうした数字を残しておくことは、過去の経営状況や経営判断を知るうえで大いに役立ちます。経営の歴史と、ご家族やご自身の歩みを照らし合わせることで、後継ぎとしての気付きを得られるはずです。
特に、後継ぎや後継ぎ候補の皆様は、自身のエンディングノートを作る際に、先代や創業者から創業理由や社名の由来、自社の歴史や自社に対する思いを聞いて、自分事として経営に生かしていただければと願います。そうすれば、先代や古株の社員とのコミュニケーションと理解を深められるはずです。
ある後継ぎ経営者はエンディングノート作成を通じて「息子たちが継ぎたいと思う会社にしていかなければと思った」と話していました。この年表を家族と共有した時、次世代の子どもたちが「今度は自分たちがこの会社を継いで、発展させていく」と思えるものにしておきたいですね。
また、社員たちにも自社の歩みと社員自身の歩みを年表に書いてもらうと、会社との結びつきがより太くなるのではないでしょうか。
こちらは次回でお伝えします。
万一の際の今後の暮らしや相続に際して常に確認しておくべきものです。負債や保険なども含めて本人だけでなく、残されるご家族が知っておかなければならない項目となります。
こちらは次回お伝えします。
万一の際に家族・親族・友人・知人だけでなく、会社経営者の場合は誰にどのようなタイミングで連絡するのかを確立しておくことが必要です。
余命いくばくもない場合、認知などで介護が必要になった場合の過ごし方について記しておきます。現役の会社経営者の場合は、だれに任せるのかなど万一を想定して考えて本人に伝えておく必要があります。
葬儀に関しては、次回お伝えします。
自社株などを含めて、会社の経営やその他の資産をどのように遺産分割すべきかは、経営者として元気なうちから準備しておくべきものです。相続トラブルを避けるためにも法的に有効な遺言書を作成しておくことも必須で、すべて周囲がわかるように準備しておきます。
ご自身の思い出の写真を、いくつかエンディングノートに残しておくことをお勧めします。コメントと共に残しておくと、それをご覧になった方もあなたが心に残っている瞬間を共有できます。
また、前述したご自身や会社の年表に写真もあると、より充実したものになるでしょう。家族や従業員に共有することができます。
遺影は、故人を偲び、お通夜や葬儀の際に祭壇などに飾る写真であり、法要まで長く大切に使うものです。
筆者にも経験がありますが、父が亡くなった際、亡くなった当日の夜までに遺影用の写真を準備するように葬儀社から依頼されました。母は旅行に出かけており、実家にはしばらく行っていなかったのでどこに写真があるのかわかりません。母も父が急に亡くなったことに動揺してそれどころではありませんでした。
結果、ゴルフをしているときの笑顔の写真しか見つからず、後悔したのを忘れられません。
経営者ともなれば、葬儀の写真は重要です。
近年、終活に取り組む人が増え、遺影を生前に撮影して準備する方が増えています。いつ人生の終わりが来るかわからない昨今、最高の自分の写真をいつも用意しておくことをお勧めします。
わざわざ遺影写真を撮影するというよりは、通常のプロフィル写真を撮るついでに遺影にも使える写真を撮っておくといいでしょう。「〇〇さんはこういう人だった」としみじみと言ってもらえるような写真を準備したいものです。
中小企業の社員の中には、「社長に何かあったら会社や自分たちはどうなるのか」、「事業承継はいつごろ行われるのか」を気にしている人もいるはずです。「社員を雇ってやっている」という感覚の経営者もいるかもしれませんが、社員の立場から見れば、この会社に大切な人生を預けていいのか、常に吟味しているはずです。
それは、転職の予定はなくても転職サイトに登録している方が多いことでもわかります。転職が当たり前のようになれば、優秀な人材ほど会社や経営者の動向を注視しているものです。
先日インタビューした50代の後継者に「事業承継の予定はいつか?」と聞いたところ、79歳の父親が従業員の前で「死ぬまで社長を続けるからそのつもりで」と宣言し、やる気をなくしたと話していました。それでは、社員も先行きに不安を感じることでしょう。
ここまで経営者のためのエンディングノートの作成方法を説明しました。創業から現在までを振り返りながら、会社と自身、家族の出来事を視覚化し、現在から将来あなたが亡くなった後の未来までを創る作業を通じて、創業以来の会社の出来事やデータの推移を振り返ることができます。先代が、そしてご自身がその都度どのような経営判断を行ってきたかを再確認できるのではないでしょうか。
歴史は繰り返すと言いますが、これからも次々に会社やご自身が困難に襲われたときも、何とか切り抜ける指針を確認されたことと思います。
さらに、これからを考える際にはご自身の進退や事業承継を視野に目標を立てることができるはずです。
たとえば、エンディングノートを書くことで、事業承継の時期が明らかになったのであれば、経営のバトンを渡す時期を決めて決算発表時に社員たちの前で発表できるでしょう。
また、会社年表と自分年表を幹部とともに作成して今後の目標を共有し、お互いに今後なすべきことを確認する。あるいは社員にも作成を勧めるなど会社経営を進化させるためのツールとしても活用できます。
エンディングノートの作成は、一般の方でも手間がかかります。数日で書き上げるのは難しいので、折に触れて必要な箇所を書き進めていきましょう。
筆者も最初に作成したエンディングノートを、折に触れて書き直しています。書けば書くほど知識が増えて内容を更新せざるを得ないからです。後継ぎの皆さんもぜひ始めてください。
次回は「経営者の為のエンディングノート」の後半です。家族/従業員への日頃は伝えられていない感謝の気持ち、家系図、葬儀について書くことによる効果や効用についてお伝えします。
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