感謝の気持ち・家系図・葬儀 後継ぎのエンディングノートで示す経営指針
まだ若い後継ぎ経営者であっても、今から自分自身のエンディングノートを作成することで、経営指針が明確になり、事業成長へのヒントを得ることができるかもしれません。中小企業経営者の相談に乗る機会が多い三世代充実生活研究所所長の髙橋佳良子さんが、エンディングノートの作成方法を伝える記事の後半では、家族・従業員への感謝の気持ち、家系図、葬儀の三つについて、その書き方や書くことが経営に与える効果などを解説します。
まだ若い後継ぎ経営者であっても、今から自分自身のエンディングノートを作成することで、経営指針が明確になり、事業成長へのヒントを得ることができるかもしれません。中小企業経営者の相談に乗る機会が多い三世代充実生活研究所所長の髙橋佳良子さんが、エンディングノートの作成方法を伝える記事の後半では、家族・従業員への感謝の気持ち、家系図、葬儀の三つについて、その書き方や書くことが経営に与える効果などを解説します。
エンディングノートの中でも、経営者にぜひ書いてほしいのが、家族や社員、取引先へ感謝の気持ちです。
ある60代の経営者から、家族や従業員、取引先一人ひとりに過去の様々な出来事を思い出しながら感謝の気持ちを手紙に書いて、エンディングノートに挟んでいるという話を聞きました。自身でも気づかなかった想いに気づき、感謝の気持ちを文章に残すことができます。感謝の気持ちがわいてくると、その気持ちが態度に表れ、相手への行動が変わるということです。
前回お伝えした「会社年表&自分年表」を作成することで、自社に関わる人々を思い出しながら、改めて関係性を考えることでしょう。まだ若い後継ぎ経営者であっても、 日ごろ伝えられないこと、忘れてはならないことなどを、その人をイメージしながら感謝の気持ちとして書くことをお勧めしています。まとめて一気にというより、折に触れて書いておくことです。
この手紙は、ご自身が亡くなった数カ月後に、周囲が落ち着いたころ、手紙を受け取った人が見返したときに、思い出に浸ることができるはずです。関係性が近いほど、あなたが亡くなった寂しさを埋める手紙になるようです。
一人ひとりの顔を思い浮かべながら伝えたいことをしたためていると、一人ひとりがいとおしくなり、その後、家族や従業員への接し方が変わり社内の雰囲気が良くなったというお話を聞きました。社員が多ければ、役員など日ごろ接している方々だけにでも書かれてはどうでしょうか。
ただ、書いてはいけないこともあります。
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それは、一時の感情による悪口や不満、嫌みです。書いた後で状況が変わっても書き直しができないこともありますし、そもそも亡くなった方から恨みや嫌みの書かれた手紙を受け取りたくなどありません。周囲に感謝の手紙を書く対象がいない経営者(後継ぎ)の会社というのも寂しいもの。自身が変化しなくてはならないと気づくきっかけになるのではないでしようか。
手紙を書く際のポイントを下記にまとめます。
次にお勧めしたいのが「家系図」を作ることです。一般のエンディングノートにも家系図を記入する欄が必ずあります。
経営者が家系図を作成する理由は、親戚縁者を特定して子や孫世代にも伝えること、そして法定相続人を特定させることが挙げられます。
また、知り合いの医師からは、家系図に先祖の享年や死亡理由を記載すると主治医や介護関係者の役に立つと勧められました。本人に関連した寿命や病気などを推測できるからだそうです。
筆者の経営者仲間に家系図制作を仕事にしているデザイン会社の経営者がいます。その方が言うには、経営者には家系図に興味を持っている方が多く、数多く手がけているというのです。
経営者(後継ぎ世代)にとって家系図を作ることは、先代や先々代などからの経営に対する想いや活動を知ることになり、経営の軸や理念が明確になってきます。
たとえば、誕生や没年がわかるので、どのような時代背景の中で創業者が事業を始めたのか、そのときの想いを知ることで先祖を大切にする心が芽生え、次世代にどう伝えていくのかを考えるきっかけになります。
さらに、事業承継の重圧が大きいと感じている後継ぎにとっては、先祖とのつながりを意識することで、自身の立ち位置を確認でき、経営への想いを深めることにつながるはずです。
ただし、現在取得できる最も古い戸籍は明治時代のものです。明治の戸籍には江戸末期に生まれた先祖が記載されているので、戸籍で把握できる家系図は基本的に江戸末期から現在までのものとなります。
家系図を作成するにあたり、先祖の戸籍・除籍簿という資料が必要になりますが、現在、この戸籍簿・除籍簿は戸籍を管理する各自治体(市区町村役所)で150年保管することが法律で決められています。それ以前の戸籍の廃棄は各自治体に任され、中には、籍が早々に廃棄されている自治体もあるそうです。
そこで、家系図を制作している知人の経営者は、さらに古文書や石碑などを調べて家系図を作り上げていきます。夫婦でキャンピングカーに乗って戸籍や古文書に載っている地域を訪ねて調査を行うそうです。
場合によっては、千年以上前の先祖までさかのぼれるということで報告を受けた依頼者からとても喜ばれるようです。
家系図は縦だけでなく横のつながりもわかるため、思いもよらない人と親戚だったということもあるそうです。作成した家系図をもとに、生存している親類縁者に話を聞きに行く方もいて、ご先祖様の話で大いに盛り上がったと聞いたことがあります。
自分自身で家系図を作ることは大変な作業ですが、中小企業では同族経営も多いので、親類縁者と共に家系図を共有しながら、今後の事業継承について話をする機会を持つのも良いかもしれません。
最後は経営者(後継ぎ)自身の葬儀についてです。エンディングノートには、どのような葬儀を行ってほしいかという希望を書くことができます。
まずは、最近の葬儀事情からお伝えします。
10年ほど前から、経営者の場合でも葬儀は近親者の密葬で済ませ、対外的な社葬は行わないケースが多くなってきました。
かつて社葬といえば、数百人が参列する大規模なものが主流でしたが、近年は、企業主催でも自由なスタイルで、参列者100人程度のお別れ会、偲ぶ会という形が多くなりました。場所はホテルなどを利用し、形式ばらず故人の生き様や仕事で得た哲学などを伝え、次世代へ継承するという目的で行うようになりました。
密葬後ということもあり、平服での参加を促し、読経やあいさつなどもなく、献花で故人とのお別れをすることが多くなりました。
対外的な社葬(偲ぶ会・お別れの会を含む)は、四十九日までの間に行います。
そもそも社葬は、創業者や社長、会長といった経営陣など、その会社の発展に大きく貢献した人が亡くなった際に行うものです。遺族や近親者が喪主となる通常の葬儀と異なり、故人が属していた会社が運営します。
そのため、費用は原則、会社が負担します。この場合、葬儀にかかる費用の大部分を「福利厚生費」として計上できますが、「社葬取扱規程」を役員会の合意を得て事前に策定しておくことをお勧めします。
この規程は、社葬の対象者、会社が負担する費用、葬儀委員長など基本的な事項を決め、社内の共通認識としたものです。社葬取扱規程の作成によって、規模、葬儀社の選定、式場・日程、概算予算、形態など具体的な方針が決まります。
社葬や偲ぶ会・お別れの会は、社内外に故人の功績をたたえ、故人の会社に対する想いを引き継いでいくという意思表明の場です。後継者にとっては、取引先や社員などに対して事業の承継を宣言する場でもあります。
そのため、今後の体制が盤石であるということを示すためにも、社葬などを行う場合には滞りなく運営することが重要です。
自身の場合であっても、どのようなスタイルで社葬など行うか、社員と共に事前に決めておくことが望まれます。その際に、後々困らないように「社葬取扱規程」を作成しておけば、万一の時も家族や社員が悩むことなく進めることができるからです。これも、自身のエンディングノートにも書いておくと良いでしょう。
経営者(後継者)だからこそ、ご自身や家族、従業員のために「経営者のためのエンディングート」をご準備ください。ご自身のこれからにも役立つことは間違いありません。
※連載【後継ぎのための「ポジティブ終活」】は今回で終了します。
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