足場の点検者の指名を義務付け 厚生労働省が2023年10月から
建設業での労災事故を減らそうと、厚生労働省は2023年10月1日から足場の点検時において点検者の指名を義務付けます。足場の組み立て、一部解体、変更などによる点検後に、点検者の氏名の記録・保存も必要です。元請けと下請けで費用負担をどう話し合えばいいかなど、注意しておきたいポイントを整理しました。
建設業での労災事故を減らそうと、厚生労働省は2023年10月1日から足場の点検時において点検者の指名を義務付けます。足場の組み立て、一部解体、変更などによる点検後に、点検者の氏名の記録・保存も必要です。元請けと下請けで費用負担をどう話し合えばいいかなど、注意しておきたいポイントを整理しました。
目次
厚労省が毎年発表している「労働災害発生状況」によると、2022年の死亡者数は774人と、過去最少となったものの、このうち「墜落・転落」が234人を占めています。
とくに、建設業の「墜落・転落」の死亡事故は116人。例年100人前後に上り、ここ2年は増加傾向にあります。
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
---|---|---|---|---|---|---|
墜落・転落 | 135 | 136 | 110 | 95 | 110 | 116 |
はまれ・巻き込まれ | 28 | 30 | 16 | 27 | 27 | 28 |
崩壊・倒壊 | 28 | 23 | 34 | 27 | 31 | 27 |
追突され | 23 | 18 | 26 | 13 | 19 | 27 |
交通事故 | 50 | 31 | 27 | 37 | 25 | 24 |
飛来・落下 | 19 | 24 | 18 | 13 | 10 | 16 |
墜落・転落事故を減らそうと、厚生労働省は足場に関する法定の墜落防止措置を定める労働安全衛生規則を改正し、足場からの墜落防止措置を強化することにしました。
改正のポイントは3つです。このうち2つは、2023年10月1日から施行され、残りの1つは2024年4月1日からとなります。
2023年10月1日からは、事業者または注文者が足場の点検を行うとき、点検者を指名しなければならなくなります。
点検者の指名の方法として、厚労省は「書面で伝達」「朝礼等に際し口頭で伝達」「メール、電話等で伝達あらかじめ点検者の指名順を決めてその順番を伝達」などの例を挙げています。
いずれの方法でも「点検者自らが点検者であるという認識を持ち、責任を持って点検ができる方法」であることを求めています。
この時、指名される点検者は、以下のような知識・経験を持つ人が望ましいとされています。点検時には「足場等の種類別点検チェックリスト」(PDF方式)が活用できます。
2023年10月からは、事業者または注文者が行う足場の組立て、一部解体または一部変更の後の点検後に指名した点検者の氏名を記録及び保存しなければならなくなります。
2024年4月から、本足場を使用するために十分幅がある場所(幅が1m以上の場所)では、本足場の使用が義務付けられます。幅が1m未満の場合でも厚労省は「可能な限り本足場を使用することが望ましい」と説明しています。
狭い場所で使われる一側足場は構造上、安衛則に定める手すりの設置等の墜落防止措置が適用されないのですが、改正の背景として、2019年~2021年に起きた足場からの墜落・転落による死亡災害56件のうち、8件が一側足場からだったことがあります。
ただし、つり足場を使用するとき、または障害物の存在その他の足場を使用する場所の状況により本足場を使用することが困難なときは、この限りではないといいます。
厚労省によると、労働安全衛生法は元請けと下請けに労働災害防止対策を義務づけています。労災防止にかかる経費は元請けと下請けが義務的に負担しなければならない費用で、建設業法が定める「通常必要と認められる原価」に含まれると説明しています。
そのため、建設工事請負契約はこの経費を含む金額で締結することが必要です。厚労省は、労働災害防止対策の実施者と経費負担者の明確化の流れを以下のように説明しています。
元請けは、見積条件の提示の際、労働災害防止対策の実施者と、その経費の負担者の区分を明確化し、下請けが自ら実施する労働災害防止対策を把握でき、かつ、その経費を適正に見積もることができるようにしなければならないとしています。
下請けは、元請けから提示された見積条件をもとに、自らが負担することとなる労働災害防止対策に要する経費を適正に見積った上、元請けに提出する見積書に明示する必要があります。
元請けは、「労働災害防止対策」の重要性に関する意識を共有し、下請けから提出された「労働災害防止対策に要する経費」が明示された見積書を尊重しつつ、建設業法第18条を踏まえ、対等な立場で契約交渉をする必要があります。
元請けと下請けは、契約内容の書面化にあたり、契約書面の施工条件などに、労働災害防止対策の実施者と、労災防止にかかる経費の負担者の区分を記載し、明確化するとともに、下請けが負担しなければならない労働災害防止対策に要する経費については、他の経費と切り離し難いものを除き、契約書面の内訳書などに明示することが必要です。
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