目次

  1. 建設業の墜落・転落災害、年間100人が死亡
  2. 厚労省が労働安全衛生規則を改正 墜落・転落事故防止へ
    1. 足場の点検時の点検者の指名の義務付け(2023年10月~)
    2. 足場の完成後等の足場の点検後に記録すべき事項に点検者の氏名を追加(2023年10月~)
    3. 一側足場の使用範囲を明確化(2024年4月~)
  3. 規則改正、費用負担はどうなる?
    1. 元請けによる見積条件の提示
    2. 下請けによる労働災害防止対策に要する経費の明示
    3. 契約交渉
    4. 契約書面における明確化

 厚労省が毎年発表している「労働災害発生状況」によると、2022年の死亡者数は774人と、過去最少となったものの、このうち「墜落・転落」が234人を占めています。

2022年の事故の型別労働災害発生状況(厚労省の公式サイトから https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/001100029.pdf)

 とくに、建設業の「墜落・転落」の死亡事故は116人。例年100人前後に上り、ここ2年は増加傾向にあります。

2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年
墜落・転落 135 136 110 95 110 116
はまれ・巻き込まれ 28 30 16 27 27 28
崩壊・倒壊 28 23 34 27 31 27
追突され 23 18 26 13 19 27
交通事故 50 31 27 37 25 24
飛来・落下 19 24 18 13 10 16

 墜落・転落事故を減らそうと、厚生労働省は足場に関する法定の墜落防止措置を定める労働安全衛生規則を改正し、足場からの墜落防止措置を強化することにしました。

 改正のポイントは3つです。このうち2つは、2023年10月1日から施行され、残りの1つは2024年4月1日からとなります。

 2023年10月1日からは、事業者または注文者が足場の点検を行うとき、点検者を指名しなければならなくなります。

 点検者の指名の方法として、厚労省は「書面で伝達」「朝礼等に際し口頭で伝達」「メール、電話等で伝達あらかじめ点検者の指名順を決めてその順番を伝達」などの例を挙げています。

 いずれの方法でも「点検者自らが点検者であるという認識を持ち、責任を持って点検ができる方法」であることを求めています。

 この時、指名される点検者は、以下のような知識・経験を持つ人が望ましいとされています。点検時には「足場等の種類別点検チェックリスト」(PDF方式)が活用できます。

  • 足場の組立て等作業主任者であって、足場の組立て等作業主任者能力向上教育を受講している
  • 労働安全コンサルタント(試験の区分が土木又は建築である者)等労働安全衛生法第88条にもとづく足場の設置等の届出に関する「計画作成参画者」に必要な資格を有する
  • 全国仮設安全事業協同組合の「仮設安全監理者資格取得講習」を受けた
  • 建設業労働災害防止協会の「施工管理者等のための足場点検実務研修」を受けた

 2023年10月からは、事業者または注文者が行う足場の組立て、一部解体または一部変更の後の点検後に指名した点検者の氏名を記録及び保存しなければならなくなります。

 2024年4月から、本足場を使用するために十分幅がある場所(幅が1m以上の場所)では、本足場の使用が義務付けられます。幅が1m未満の場合でも厚労省は「可能な限り本足場を使用することが望ましい」と説明しています。

一側足場の使用範囲が明確化される2024年4月からのポイント(厚生労働省の公式サイトから https://www.mhlw.go.jp/content/001108426.pdf)

 狭い場所で使われる一側足場は構造上、安衛則に定める手すりの設置等の墜落防止措置が適用されないのですが、改正の背景として、2019年~2021年に起きた足場からの墜落・転落による死亡災害56件のうち、8件が一側足場からだったことがあります。

 ただし、つり足場を使用するとき、または障害物の存在その他の足場を使用する場所の状況により本足場を使用することが困難なときは、この限りではないといいます。

 厚労省によると、労働安全衛生法は元請けと下請けに労働災害防止対策を義務づけています。労災防止にかかる経費は元請けと下請けが義務的に負担しなければならない費用で、建設業法が定める「通常必要と認められる原価」に含まれると説明しています。

 そのため、建設工事請負契約はこの経費を含む金額で締結することが必要です。厚労省は、労働災害防止対策の実施者と経費負担者の明確化の流れを以下のように説明しています。

 元請けは、見積条件の提示の際、労働災害防止対策の実施者と、その経費の負担者の区分を明確化し、下請けが自ら実施する労働災害防止対策を把握でき、かつ、その経費を適正に見積もることができるようにしなければならないとしています。

 下請けは、元請けから提示された見積条件をもとに、自らが負担することとなる労働災害防止対策に要する経費を適正に見積った上、元請けに提出する見積書に明示する必要があります。

 元請けは、「労働災害防止対策」の重要性に関する意識を共有し、下請けから提出された「労働災害防止対策に要する経費」が明示された見積書を尊重しつつ、建設業法第18条を踏まえ、対等な立場で契約交渉をする必要があります。

 元請けと下請けは、契約内容の書面化にあたり、契約書面の施工条件などに、労働災害防止対策の実施者と、労災防止にかかる経費の負担者の区分を記載し、明確化するとともに、下請けが負担しなければならない労働災害防止対策に要する経費については、他の経費と切り離し難いものを除き、契約書面の内訳書などに明示することが必要です。