建設現場の「当たり前」を疑った2代目 タカミヤは次世代足場を突破口に
足場を中心に建設現場の資材のレンタル、開発、販売を手がけるタカミヤ(大阪市北区)は、2代目で会長兼社長の髙宮一雅さん(57)が、長年「当たり前」とされた足場の規格を作業員目線で見直し、次世代の足場を開発して急成長させました。2014年に東証一部(現東証プライム)上場も果たし、オフィスのリニューアルなどで業界のイメージも変えようとしています。
足場を中心に建設現場の資材のレンタル、開発、販売を手がけるタカミヤ(大阪市北区)は、2代目で会長兼社長の髙宮一雅さん(57)が、長年「当たり前」とされた足場の規格を作業員目線で見直し、次世代の足場を開発して急成長させました。2014年に東証一部(現東証プライム)上場も果たし、オフィスのリニューアルなどで業界のイメージも変えようとしています。
目次
タカミヤは1969年、髙宮さんの父・東実さんが創業し、2002年に髙宮さんが代表取締役社長に就任しました。建設現場に「次世代足場 Iqシステム」という看板製品を広げ、仮設機材の製造・販売や、レンタル、海外事業を展開しています。連結売上高(23年3月期)は前期比5.3%増の約419億円、従業員数(連結)は1364人にのぼります。
髙宮さんは1992年、26歳のときタカミヤにいち社員として入社しました。当時は決算書の内容がさっぱり理解できなかったといいながらも、家業で生き抜く過酷さや経営への危機感をひしひしと感じました。
「裏を返せば、常にハングリー精神を抱ける恵まれた環境に身を置けたかもしれません。社内の問題を見つけ、どんどん解決する日々が続きました」
幼いころから後継者として育てられ、父との会話は常に敬語。家でも父を「社長」と呼んでいました。
「自分にも選択肢があればいいのに、と思ったことはたくさんあります。『道はこれしかない』と決めつけられるように育てられたのは、内心すごく嫌だったかもしれません」
しかし、負けず嫌いな性格が幸いし、もやもやをはね返しました。
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髙宮さんは「誰かに指示されて仕事をするのが大嫌い」といいます。とはいえ、20代のころは社内で自分の意見を通すのは難しく、解決案を出す際は周囲からの反対も見越し、まず「相談」という形で先代に話を通し、髙宮さんの意見を発信してもらうことで根回しをしました。
その代わり、終業後、1日に3~4時間をかけてその日あったことを先代に伝えていました。漏れがないように報告したうえで、目に見える成果を求められたといいます。
「この報告時間は、すさまじいストレスと緊張感でした。他人ではなく、親子だからこそこれぐらいやらないと任せてもらえない、と感じていました。協力してもらうなら誠意を見せないといけない、と。業務上の全てを報告するかわりに、好きなようにやらせてもらいましたね」
当時のタカミヤは縦割り社会だったといいます。時にはいがみ合いも起こり、会議もまとまりませんでした。
髙宮さんは古株の社員と積極的にコミュニケーションを取る中で、社内にはびこるあしきルールの存在も把握したといいます。
「『ルールを作った人間なら対策も知っているはず』と、その張本人に声をかけました。それとなく『どうやって直したらいいと思う?』と聞いてみると、やはり対処法もすぐに明かしてくれました。その後は人事で配置換えを進め、新しい空気を吹き込むようにしました」
そのころのタカミヤはまだ関西ローカルの規模で、製品力や品質もライバル会社には及ばなかったといいます。営業担当だった髙宮さんは「圧倒的に高い品質の足場を貸し出したい」と、足場の管理を担う「機材管理部」に異動します。
しかし、足場を管理するセンターに赴くと衝撃を受けました。「管理がずさん過ぎて、次に貸し出す足場や修理すべき足場をすべて混ぜてしまい、区別がつかない状態でした」
当時は足場が汚れたり少しくらいへこんだりしても、その都度整備して長く使う「品質管理」という概念がありませんでした。そしてバブルが弾けて仕入れが止まり、建設現場から機材が戻ると、センター内があふれ返ったのです。
「状態が悪すぎて次のお客さんに貸し出すどころではありません。子どものころから本棚の本が逆さまになったら耐えられない性格なので、信じられませんでした」
全国各地に貸し出していた足場は想像を絶するボリュームでした。修理もスクラップも大きな負担ですが、放置しても無駄になるだけ。髙宮さんは自ら全国のセンターを回り、時間をかけて整備を進めます。
破損した足場は弁償してもらい、直せるものは修理する。今では当たり前ですが、当時は機材管理の仕組みが無かったため、まず基準を作り社員教育も進めました。
1960年ごろ、足場の素材が強度の高い鋼材に変わり、20年、30年と使い続けられるようになりました。足場の頑丈さが増すにつれてレンタル料はどんどん下がり、管理費や人件費の方が高くつくようになります。足場業界も大手より、安価で足場をレンタルし、小回りがきく企業の方が求められるようになりました。
「新しい人材が入ってもすぐ辞めてしまい、このままでは業界全体が終わってしまう。足場だけにこだわっているうちは何も起こらない。イノベーションで新たな付加価値を見つける必要を感じました」
そのころ、足場からの転落事故が多発したことに伴い、安全基準が厳しくなります。作業員の安全を確保するため、足場にオプションで手すりを付ける「先行手すり」という製品も生まれました。しかし、既存の足場にオプションを加えるだけでは、組む際の工程が増えるだけで、安全が確保されるわけではありません。
目先の安全ではなく、足場そのものを時代に合わせ、作業効率をあげる必要があります。2代目社長になっていた髙宮さんが主導し、13年から売り出したのが「次世代足場 Iqシステム」でした。
髙宮さんは常々、業界における足場の基準とされた「170センチ」という高さに疑問を抱いていました。実際、髙宮さんが安全靴とヘルメットを着けて足場に立つと、頭をぶつけそうになり、常に「くの字」の姿勢でいる必要があったのです。
「私自身、腰痛持ちで身体が硬いため驚きました。こんな環境で働かざるを得ないなら、いずれこの業界に人材は来なくなると感じたのです」
米国や欧州の足場の展示会に足を運ぶと、ほとんどが200センチという高さでした。
なぜ日本だけが170センチなのか。調べると、日本で足場が流通し始めた50~60年前は、平均身長が約163センチだったうえ、ヘルメットなどの装備も着用していなかったことを知ります。
「現在の平均身長は170センチを超え、安全靴やヘルメットの分を加えるとさらに約8~12センチは高くなります。なのに、足場の基準は60年前と変わっていませんでした」
タカミヤが開発したのが、高さ190センチの「次世代足場 Iqシステム」でした。マーケティングの結果、190センチだと9割の作業員が頭をぶつけなくて済みます。従来品より20センチ高くなることで足場も1段分減り、コストダウンの効果も見込めます。
当時、180センチの製品はあったものの、190センチの足場はありませんでした。社内外から「そんな高い足場だと、現場で組めなくなってしまう」と反発されたといいます。「営業マンが自信を喪失するほどネガティブキャンペーンを受けました。だけど、そんな悪評はどこかで消えると分かっていました」
発売から10年。23年3月期実績でIqシステムの累計販売額は248億円にのぼり、この3年は右肩上がりです。
バブル崩壊やリーマン・ショックを経験した髙宮さんは「2018年」が、タカミヤのターニングポイントになると確信していました。10年に1度のサイクルで、何かが起こる予感を抱いたからです。ちょうど13年に20年東京五輪の開催が決まり、建設業界の需要が高まった時期でした。
「五輪後は世界的に不景気が起こる傾向にあります。20年以降に何かおかしなことが起こるのでは、と予測したのです」
投資は18年までに終え、以降は投資の回収に徹することを決めました。当初の五輪開催年の20年以降は、状況を見ながら次の手を打つ5年がかりの計画で、「2018年で逃げる、いち早く」というスローガンも立てました。
すると20年に発生したのがコロナ禍でした。「感染症は予想していませんでしたが、『何かが起こるだろう』という読みは当たりましたね」
髙宮さんは自社製品を、従来型の足場から次世代足場へと切り替えていきました。
今、建設業界は多くの会社がハード(足場)を中心に据えた営業で勝負しています。「次世代足場」を伸ばしてきたタカミヤは今後、培った商品力をプラットフォームとして顧客に貸し出し、運用する「ソフト面」に力を入れていくといいます。
建設業界は人手不足が深刻化しています。髙宮さんも「足場のレンタル・製造会社」というだけで、人材を集めることに限界を感じました。
「『タカミヤ=足場』というイメージを壊し、足場を扱う『IT企業』にまでイメージを変えたい。求人サイト刷新やホームページのリニューアルにも力を入れています」
経営者として表に出る際は、スタイリッシュなファッションを意識し、建設業のイメージを変えようとしています。「人間は環境に支配される。オフィスは社員の思考に変革を促す重要な場」と考え、テレワークやフレックスタイム制の導入に加え、各地のオフィスに、オープンスペースやリラックスできる空間を作りました。
「生産性を上げるために休みを増やし、給料が下がらないようにする。これ以上に、最高の人材を集める戦略はありません」
22年度の新卒採用者数は45人(うち女性11人)で、直近5年では最多となりました。
髙宮さんは「創業者から2代目への引き継ぎが1番難しい」と言います。 自ら会社を興し成功を収めた創業者と比べられることもある2代目が、自社のコア事業を否定し新事業を立ち上げるケースもあります。
しかし、髙宮さんは「継承とは先代が残したいいものも悪いものも全てもらうこと」と考えます。
「先代が作り上げたものを、原型がなくなるくらい変えては全否定と捉えられます。まず先代の功績をブラッシュアップし、形を整えていくことができないと、周囲も安心できません」
髙宮さんが目指すのは、徳川幕府の2代将軍・徳川秀忠の生き様です。
「秀忠は『パッとしない将軍だった』というイメージもありますが、次代へのバトンはきちんと引き継ぎました。長く続く徳川幕府のキーマンだったともいえるでしょう。自分もバトンを借りてまた渡せばいい、と目からうろこが落ちる気持ちでした」
「若い世代は、自分の考えをしっかりと持つ人が多いですが、社会に出ると意見を言えない雰囲気の中で仕事をせざるを得ません。どんどん意見を言える環境を作り、時代に合わせた改革を進めたいです」
自身の息子もタカミヤに入社していますが、渋々後を継ぐのではなく、気づいたら自分の意思で継いでいた、という形が一番望ましいと考えています。
「次代への継承は、自分のころとは全く違う形で行っています。息子には日ごろから『やる気があるんだったら頑張ればいいし、そうでなければ無理してやる必要もない』と伝えています」
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