台湾有事、2024年の総統選挙が一つの焦点 日本への影響も解説
台湾有事をめぐる緊張が続くなか、筆者は2023年7月以降、各地の中小企業や、台湾に駐在する日本人社員らと意見交換を繰り返してきました。もし軍事的緊張が走ったら、駐在員とその家族を同時に帰国させる、もしくは帯同家族だけでも先に帰国させるといった一歩早い行動をとれるよう検討を進めている様子が明らかになってきました。
台湾有事をめぐる緊張が続くなか、筆者は2023年7月以降、各地の中小企業や、台湾に駐在する日本人社員らと意見交換を繰り返してきました。もし軍事的緊張が走ったら、駐在員とその家族を同時に帰国させる、もしくは帯同家族だけでも先に帰国させるといった一歩早い行動をとれるよう検討を進めている様子が明らかになってきました。
目次
2022年8月はじめ、当時米下院議長を務めていたナンシー・ペロシ氏が台湾を訪問したことがきっかけで、これに強く反発した中国は台湾本土を包囲するように前例のない規模の軍事演習を実施し、大陸側からは台湾周辺海域に向けて複数のミサイルを発射しました。
その一部は日本の排他的経済水域にも落下し、大韓航空やアシアナ航空は韓国台湾便のフライトを一時停止するなど、これまでになく緊張が高まりました。
それからちょうど1年が過ぎましたが、今日までのところそれ以上の緊張は走っていません。
しかし、中国軍機が中台中間線を超え、台湾の防空識別圏に侵入するなど中国による軍事的威嚇は既に常態化しており、台湾社会の中でも有事に備える動きが進んでいます。
台湾政府は兵役義務を4ヵ月から1年に変更し、元兵士の女性が予備役に登録することを認め、市民の間では軍事訓練や避難訓練を受講する動きが拡大するだけでなく、外国へ移住する人が増えています。
今後のポイントになるのは、2024年1月の台湾総統選挙です。ここで中国との関係を重視する指導者が誕生すれば、現在の政治的、軍事的緊張は収まっていく可能性があります。
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しかし、現在の蔡英文氏の後継者が選挙で勝利すれば、その後継者の政策にもよりますが、中国の台湾への圧力はいっそう強まり、緊張の度合いもさらに増す可能性があります。
有事リスクという視点では、中国は台湾総統選挙の行方を注視していますので、2023年年中に有事が勃発する可能性は限りなく低いですが、2024年以降の4年間は動向が懸念されます。
そして、日本の中小企業にとっても対岸の火事ではありません。大企業ほどではありませんが、中小企業の中でも台湾に駐在員を派遣する、台湾に社員を出張させる企業も少なくなりません。
そして、台湾と貿易面で何らかの関係を持つ企業はかなりの数になるでしょう。地政学リスクの視点から企業へアドバイスをしている筆者にも、台湾情勢について地方の中小企業からの問い合わせは最近かなり増えているように肌で実感します。
懸念の一つとして、「台湾へ社員を出張させて問題ないか」を心配する企業が増えています。
この懸念に対して、有事が年内に勃発する可能性は限りなく低いので、筆者は現時点で出張に問題はないと答えています。
しかし、2024年以降の長期出張などでは、やはり情勢が極めて不透明であることから、その時の情勢を見極め慎重に検討するよう呼び掛けています。
もう一つの懸念は、社員の安全という視点から、「台湾に駐在させる社員を避難させるタイミングはいつか」です。
この質問は、企業規模を問わず聞かれます。企業からはウクライナ戦争と台湾有事を比較する話が聞かれますが、ロシアによる侵攻によって多くのウクライナ人がポーランドなど隣国に避難することができた一方、台湾では陸路による避難は考えられず、唯一の安全な退避手段は民間航空機となります。
つまり、海に囲まれる台湾からの避難はウクライナの比ではなく、武力行使の段階で唯一の安全な退避手段である民間航空機の運航がストップすれば、即篭城となり、台湾に点在する防空壕での生活を余儀なくされる可能性もあり、一歩早い段階で帰国させることが企業に求められています。
1つの参考になるのが、冒頭で挙げた2022年8月の状況です。あの時、中国軍はペロシ訪問への報復として8月4日に大規模な軍事演習を行いましたが、韓国のアシアナ航空は5日にソウルと台北を結ぶ運航を停止し、大韓航空も5日と6日の台湾便の運航を取りやめました。
つまり、そのレベルの緊張になれば、唯一な安全な退避手段はストップする可能性があるということです。一時的な緊張であれば、民間航空機の運航停止も一時的なものになるでしょうが、有事となれば無期限の停止になることは想像に難くありません。
ロシアがウクライナに侵攻する直前、オランダKLMやエールフランス、ルフトハンザなど欧州各国の航空会社は相次いでウクライナ便の運航を停止しました。台湾有事となれば、JALやANA、エバー航空など日本と台湾を結ぶ運航は停止になるでしょう。
こういった事情から、企業の間では2022年8月のような軍事的緊張が走ったら、駐在員とその家族を同時に帰国させる、もしくは帯同家族だけでも先に帰国させるといった一歩早い行動を検討する動きが広がっているように思います。
一歩早い行動をとるために最も重要なのは、台湾情勢についての理解と日頃からの情報収集です。
いつどこで軍事的緊張が高まるかを当てることは難しいですが、2022年8月のペロシ訪台のように国際政治的な動きを把握しておけば、この時期には緊張が高まる恐れがあるなど、ある程度予測することはできます。
今後の情勢からは、“台湾総統選挙の結果、蔡英文氏の後継者が勝利すれば、1月の台湾出張は控えよう”、“蔡英文氏の後継者の勝利が濃厚になった際には、12月下旬に社員の退避是非を一回検討しよう” といったことが考えられます。
台湾有事となれば、その後の対応は政府マターになり、台湾に進出する企業は日本政府と情報を共有しながら社員の安全を確保していくことになるので、企業自身で社員の安全を守るべく、台湾情勢では多少のコストは掛かっても、一歩早く行動に移すことが重要であると考えます。
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