AppSheetアプリで紙の製造日報や在庫管理をデジタル化 ノムラ化成
樹脂押出成形メーカー「ノムラ化成」で、従業員約350人が働くタイ法人は、Googleのノーコードツール「AppSheet」を活用し、紙とエクセルで手間のかかっていた在庫管理や作業日報を電子化することに成功しました。「AppSheetはできたらいいなを自前で実現できるツール」だと実感したというタイ法人代表の野村亮太さんに具体的な使い方や導入前に知っておきたい注意点について聞きました。
樹脂押出成形メーカー「ノムラ化成」で、従業員約350人が働くタイ法人は、Googleのノーコードツール「AppSheet」を活用し、紙とエクセルで手間のかかっていた在庫管理や作業日報を電子化することに成功しました。「AppSheetはできたらいいなを自前で実現できるツール」だと実感したというタイ法人代表の野村亮太さんに具体的な使い方や導入前に知っておきたい注意点について聞きました。
目次
AppSheetとは、Googleが提供しているサービスの一つで、プログラミングの知識なしでもノーコードで業務アプリを開発できるプラットフォームです。
大規模基幹システムのように広い範囲をカバーするには不向きですが、様々な部門や業務のなかにある「できたらいいな」を実現するツールとして非常に魅力的です。
高度なアプリを作るためには多少のプログラミングを必要とする「ローコード」ツールが多いなか、AppSheetはコードを書かないで済む「ノーコード」ツールです。
多くの中小企業にとって自社でシステム開発専任者を雇ったり、外部のプロ人材にお金を払い続けたりすることは簡単ではありません。しかし、AppSheetなら中小企業でも自社で養成できると考えています。
具体的に、中小企業向けには次のような業務アプリが作れると考えています。
タイ法人で実際に開発しているものは、開発中も含めると、チューブ在庫管理アプリ、カイゼン活動アプリ、仕様書作成アプリ、残業申請・承認アプリ、生産実績管理アプリ、勤怠管理アプリなどがあります。
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業務をデジタル化する取り組みは、押出成形でつくるプラスチックマグネットの原材料管理から始まりました。プラスチックマグネットの資材は、アジア諸国や欧州から輸入しています。
これまでは、倉庫にいまいくつあるのか在庫状況を確認し、Excel(エクセル)に打ち込み、そのデータをもとに購買担当が発注をかけるという作業が発生しており、リアルタイムで状況を把握できない課題が起きていました。
そこで、在庫量をGoogleフォームに打ち込むとリアルタイムで表やグラフに反映される仕組みを作りました。
この成果をきっかけに、タイ法人ではデジタルツールの活用が広がり、プログラミング知識なしでも業務用アプリをつくれるAppSheetにたどりつきました。
それでは、AppSheetを具体的にどのように活用しているかを紹介します。
たとえば、PVC(ポリ塩化ビニル)チューブ製品の製造部門では紙帳票と日報を、倉庫部門では在庫管理をAppSheetでアプリ化しています。
押出成形で製造する家電や自動車のワイヤーハーネス向け保護チューブは、材料や仕様、サイズや色が多岐に渡るため、製品管理が非常に重要な仕事なのです。
そのため、製造部門は元々、200mや300mという単位の完成品ロール一つひとつの製造記録を紙に残しています。
ただし、ロールごとの記録、それをまとめた日報、機械の設定条件の記録など3種類の紙が存在し、さらに3種類の紙をエクセルに打ち込んで月次のレポートに加工する必要がありました。今回、AppSheetでアプリ化してひとまとめにすることで、大幅な工数削減につなげることができました。
具体的には、チューブ完成品には、元々在庫管理システムのためのQRコード付き製品ラベルを貼り付けていたため、これを製造の日報にも活用する形にしました。
アプリ上で、作業者に、数量だけでなく製造日報に必要な押出機の条件設定なども同時に記録してもらうことで、入力の手間を最小限にしています。また、この入力データをもとに、表やグラフで可視化できるLooker Studioを利用して、寸法と仕様別に生産状況も確認できるようになっています。
またこの完成品の入出庫時には倉庫側で在庫管理アプリを使用しています。
開発した業務アプリのなかで、一番手が掛かっているのは勤怠アプリです。部門や職級によって多岐にわたる有給休暇の承認ワークフローを組まなければならず、かつ一度出来上がっても運用でエラーや修正が沢山見つかってきます。
そのため、しばらくの間、紙による勤怠申請(遅刻や欠勤、有給の申請と承認)と同時並行で管理していましたが、2023年12月からはAppSheet一本に切り替えました。
勤怠アプリのデータをもとに部門長や経営陣が今日と明日の出勤状況を確認できるようなダッシュボードを準備中です。
人数の多い製造部門などではいつ誰が休みを取るかによって配置調整が必要になります。急な増産依頼で出勤が必要になる際など、ダッシュボードがあれば管理者がどこにいても一目で状況を確認できるようになると期待しています。
さらに総務による送迎車の手配が必要になる部門ごとの残業申請にも使われています。今後はこの勤怠管理アプリと顔認証の出退勤システムも連携させて給与計算まで自動化するのが最終目標です。
AppSheetはボタンなどを日本語化することはできるのですが、2024年1月の時点では、アプリの開発をするエディタ画面は英語ベースであるところが日本の中小企業で使う場合のハードルになるかもしれません。
また、アプリ開発には、AppSheet関数と呼ばれる独特の関数を設定する必要があるので、相当頭を悩まされるかもしれません。
しかし、AppSheetにはそれを上回るメリットを感じています。
ITシステムを導入しようとすると、一定の予算と計画、リソースの確保が必要な一大プロジェクトになりがちで、実現までに相当な時間とコストがかかります。
一方で、AppSheetなどノーコード・ローコードツールを使えば、着想から完成までのスピードを飛躍的に上げることができます。
たとえば、在庫管理にバーコードスキャンシステムを入れたいと思うとソフト・ハードや開発業者を探して提案と見積を依頼、ようやく選定が済んでも予算の都合で来年以降に後回しといった話はよくあります。
しかし、AppSheetであれば、慣れた人なら1ヵ月もかからずに最初のプロトタイプを作れます。
外部のプロに依頼すると現場へのヒアリングひとつにもスケジュール調整など時間がかかり、検収後にも修正や機能の追加のため更にコストが発生するのが常ですが、AppSheetなら現場の意見を聞きながら完成版まで仕上げる工程での苦労はありつつも自社内で完結可能、かつ機能追加や修正にコストは発生しません。
また他のノーコード・ローコードツールに比べての最大の利点はやはりGoogleの他のツールとの連携が容易であるところでしょう。
一度データをcsv形式で出力して、加工し直すという作業が必要なツールもあるなかで、AppSheetは、溜め込んだデータをGoogle Sheetsに蓄積できるので、自動化してしまえば、その後は加工する手間をかけずに、リアルタイムでデータ集計ができるようになります。
またGoogle独自のAIツールであるDuet AIによって今後ChatGPTのようにプロンプトだけでより手軽にアプリが作れるようになるポテンシャルを秘めています。
意思決定をするトップ層が実際にAppSheetを触った経験があると、社内の問題に対して「これはアプリを作って解決しよう」「自分でもできたからやれるでしょ」と業務アプリ開発を後押しできるようになります。
だからこそ、社内で導入を考えているのであれば、経営者自身がまず触ってみることをお勧めします。
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