石川県の復興米で信玄餅を作ったら 購入者から金精軒へ「ありがとう」
1902年(明治35年)創業の老舗和菓子店「金精軒」(山梨県北杜市)が、令和6年能登半島地震で被害を受けた米農家を支援しようと、原料に石川県産の復興米を使った新しい信玄餅を作りました。初めて使うもち米に製造現場が戸惑うこともありましたが、購入者から「ありがとう」と言われる機会が増えたといいます。何のために和菓子を作り続けてきたのか、原点に立ち戻るきっかけとなりました。
1902年(明治35年)創業の老舗和菓子店「金精軒」(山梨県北杜市)が、令和6年能登半島地震で被害を受けた米農家を支援しようと、原料に石川県産の復興米を使った新しい信玄餅を作りました。初めて使うもち米に製造現場が戸惑うこともありましたが、購入者から「ありがとう」と言われる機会が増えたといいます。何のために和菓子を作り続けてきたのか、原点に立ち戻るきっかけとなりました。
金精軒は1902年、甲州街道41番目の宿場町として栄えた台ヶ原宿の旅籠が菓子店となったのが始まりで、初代小野小源太氏から地元の水、味、歴史をお菓子で表現しようと試行錯誤してきました。
近年の売れ筋商品の一つは、山梨名物「信玄餅」です。通常の信玄餅も販売していますが、地元産にこだわった「生信玄餅」を2009年から販売し始めました。
生信玄餅は、食味ランキングで特Aを連続で獲得した、地元ブランド米「梨北米」の素材の味を最大限生かせるよう極力砂糖を減らし、さらに、地元・北杜産の大豆でつくったきな粉とあわせて、米本来のおいしさを生かした商品です。
砂糖を減らしたため、消費期限が3日と短く、お土産としての弱点がありますが、金精軒では、信玄餅の売り上げ全体の3割を占めるまで広がってきました。
2024年1月1日夕方、石川県能登地方を震源とする「令和6年能登半島地震」が起きました。美しい風景で知られる能登半島の棚田は隆起したり、地割れができていたりするなど大きな被害を受けました。
地震直後から、石川県宝達志水町にある米卸売業「中橋商事」の副社長中橋枝里子さんが被災しつつも復興、復旧に向けて活動を始めました。金精軒4代目代表取締役小野光一さんの長女で、経営企画を担う清水珠央さんとは、同じ「跡取り」として悩みを語り合ってきた仲間です。
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「行き場を失ったお米たちを復興米として販売します」
中橋商事は、地震で保管倉庫が一部倒壊し、フレコンバッグが倒れて石川県産の複数銘柄の米が混じったため、小売店向けに販売できなくなりました。そんな米を無駄にしないよう、震災で機械や田んぼも失った農家を応援しようと「復興米」と名付けて販売し始めました。
そんな取り組みを知った清水さん。しかし、家族で食べる分を注文しても、購入量は限られています。そんなとき「生信玄餅の原料として使えないか」とひらめきました。さっそく、清水さんは金精軒の代表を務める父に相談すると「倉庫にあるだけ買っていい」と返事がありました。
清水さんは、中橋さんと相談したうえで、石川県産のもち米「カグラモチ」を600kg購入することにしました。
新商品の開発は簡単ではありません。まず、購入したもち米を製粉してくれる協力先を探すことから始まりました。つぎは、自社の製造現場です。生信玄餅は、これまで地元産にこだわり、地元産の素材を最大限生かせる方法を工夫してきました。
「素材の味を生かすのが生信玄餅です。素材が変わってしまうと、品質も変わってしまい。同じ商品ではなくなってしまうのでは……」と慎重な意見も出ましたが、清水さんは「どうしてもやらせてほしい。失敗してもいいからまずは試作品を作ってください」と説得しました。
とはいえ、おいしくできなかったら600kgが無駄になってしまう……。そんな清水さんの心配をよそに、できあがった生信玄餅は、味も歯ごたえも地元産の生信玄餅とは全然違うのに「おいしかった」のです。
「地元の梨北米で作る生信玄餅は、つきたてのおもちのようにやわらかくて、お米本来の甘味が感じられます。一方、石川のカグラモチの生信玄餅は、歯ごたえがありつつも、すっきりとしたのどごしでした」
原料の米が違うだけで、こんなにも味が変わるのかと、社内でも盛り上がりました。
売り場にも変化が生まれました。石川県の復興米を使った生信玄餅と、山梨県の素材を使った生信玄餅を食べ比べるために両方購入する人が増えてきたのです。
「食べることで石川を応援できるなら」「(応援できる商品を作ってくれて)ありがとう」などと購入者から声をかけられるようになったと、現場の日報にはつづられています。
そんな温かい言葉に目にした清水さんは「私たちこそお客様にお礼を伝えなければいけません。経営理念では『感謝を形にしたお菓子を造りたい』と掲げてきましたが、その大切さに改めて気づかせていただくきっかけとなりました」と涙ぐみました。
石川県産もち米100%使用した極上生信玄餅は、合計で約1.4万箱製造する予定です。オンラインショップや店頭で販売しており、売り上げの一部は石川県の被災した米農家の復興に還元する予定です。原料がなくなり次第、販売終了となります。
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