ヒットの陰に地道な戦略 シミ抜き洗剤や豚肉を広めた後継ぎが語る
ツギノジダイが2024年7月17日~19日に開いたオンラインイベント「第4回 日本を変える中小企業リーダーズサミット」(ツギノジダイ、Eight主催)には、中小企業のリーダー層をはじめ、約5千人が参加登録しました。講演の中から、ハッシュ(東京都大田区)社長・浅川ふみさん、山西牧場(茨城県坂東市)社長・倉持信宏さんによる「売り上げ向上戦略」をテーマにしたトークセッションの模様を振り返ります。
ツギノジダイが2024年7月17日~19日に開いたオンラインイベント「第4回 日本を変える中小企業リーダーズサミット」(ツギノジダイ、Eight主催)には、中小企業のリーダー層をはじめ、約5千人が参加登録しました。講演の中から、ハッシュ(東京都大田区)社長・浅川ふみさん、山西牧場(茨城県坂東市)社長・倉持信宏さんによる「売り上げ向上戦略」をテーマにしたトークセッションの模様を振り返ります。
家業のクリーニング店の後継ぎでもある浅川さんは2008年、衣料洗剤の製造販売などを手がけるハッシュを創業しました。酵素の力でシミを分解するオリジナルの洗濯洗剤「スポッとる」がECなどで評判を集め、累計70万個のヒットになりました。
山西牧場は1992年に創業し、6千頭の豚を育てています。父から後を継いだ3代目の倉持さんは生産から、豚肉を使ったレトルトカレーや、豚のレザーを生かしてバッグなどを製造する「三右衛門/3 é mon」というブランドの開発へと手を広げ、ECなどで売れています。
両社とも従業員規模は10人ほどですが、メディアの取材を受ける機会も少なくありません。中サミのトークセッションでは、価値ある商品をどのように広めたのかに迫りました。
ハッシュの浅川さんは、家業のクリーニング店で取り組んだシミ抜きの技術を生かして「スポッとる」を開発し、2008年から発売を始めました。
「クリーニング店なので販売するすべがなく、大手ECモールに出店しました。最初は全然売れません。広告戦略に力を入れ、月1千万円の売り上げを記録することもありましたが、中小零細では体力が持ちません。あるとき広告から広報戦略にスイッチしました」と言います。
広報で重視したのは、社会課題の解決にフォーカスしたPRでした。「『スポッとる』を使うことで、(シミが付いた)衣服を捨てずによみがえらせることができるという点を広めました。社会課題について話をすることで、だんだんとメディアに取り上げられるようになる。そんなシステムを勉強しました」
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結果、スポッとるは累計70万個のヒットになりましたが、浅川さんは、泥臭く地道な販促の積み重ねといいます。「実演販売で誰も買ってくれない日があってもめげず、次の日頑張るという気持ちで、できるまでやることを意識しました」
山西牧場の倉持さんは「豚肉はスーパーなど様々な場所で売られるコモディティー商品。自分たちの豚を認知してもらう機会が少ないのが課題でした」と言います。
「食べられる名刺」として開発したのが、山西牧場の高品質な豚肉を使ったレトルトカレーでした。「東京などで販売すると、豚の生産者に会える機会は少ないので、強いインパクトを残すことができます。いざバーベキューなどをするときに、山西牧場が想起される存在になりました」
倉持さんはネット戦略も重視しています。「ECサイトは当初、大学の後輩に頼んで手づくりしてもらい、カメラも教えてもらって自ら商品を撮影しました。かっこわるくても、まずは始めることが大事です」
倉持さんはX(旧ツイッター)で1万人近いフォロワーを抱え、商品紹介や仕事の様子などをこまめに投稿しています。「ただ発信してもユーザーは止まってくれません。知り合った人と一人ひとりつながり、手触り感のある関係を軸にSNSを広げました」
両社とも顧客の声を商品開発や改良に生かしています。
ハッシュが出店する大手ECモールには、1万5千件ものレビューが付きますが、浅川さんはすべてに目を通し、開発や改良に生かしているそうです。ただ「お客様の声が全てではありません。ニーズの中に隠れたウォンツを探したい」とも言います
そうした「ウォンツ」をつかみ、2023年に開発したのが、旅行用洗剤の「ルーシーミスト」になります。備え付けの折り畳みハンガーに服を吊るし、スプレーを吹き付けて、バスルームのシャワーですすぎ流して汚れを落とす商品です。
誕生のきっかけは、コロナ禍でのオンラインミーティングでした。「台湾出張中の参加者がコロナ禍で部屋から出られず、後ろに洗濯物を吊るしていました。旅行用洗剤のウォンツを感じ、ルーシーミストにつながりました」
山西牧場の倉持さんはSNSの反応を、商品改良に生かしています。例えば、500グラムの豚肉は、ジッパー付きの袋に入れるようにしました。
「『豚肉を食べきれなくて袋に入れた」という声をSNSで拾いました。話聞くと、ジッパーついていたらうれしいという要望だったので、対応しました」
このほかにもSNSの声を受け、豚肉を極薄に加工して販売するなどしています。倉持さんは「小さい会社だからこそ、フットワーク軽く動けます。やってみたら意外と反応が良かったということもあります」と話しました。
トークセッションでは視聴者から、2人に質問が寄せられ、その一部に回答しました。
「お二人とも競合商品が多いと思いますが、どのように差別化したのでしょうか」という質問には、それぞれ次のように答えました。
「大企業などと競争すると絶対に負けます。私の場合、競合を見据えて施策を打つのではなく、あくまでお客様のニーズやウォンツを見て、商品を開発するようにしています」(浅川さん)
「豚肉は日常食ですが、山西牧場では誕生日など特別な機会に食べてもらうおいしい豚肉を提供することで、できるだけ大手とぶつからない土俵で戦うことを目指しています」(倉持さん)
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