目次

  1. 中央酪農会議とは
  2. 指定団体で受託している酪農家の戸数の推移
  3. 酪農家236人への調査結果 半数が離農を検討
  4. 酪農家の経営改善どうする?小林国之北海道大准教授のコメント
  5. 酪農家の経営状況改善に活用できる政策
    1. 円滑な価格転嫁に向けた適正取引推進・消費者理解醸成対策事業
    2. 乳用牛長命連産性等向上緊急支援事業
    3. 国産飼料生産・利用拡大緊急対策
    4. 国内肥料資源利用拡大対策事業

 中央酪農会議の公式サイトによると、中央酪農会議は、1962年8月、酪農関係の全国機関によって設立されました。

 1966年の加工原料乳生産者補給金等暫定措置法の発足に伴い設立された指定生乳生産者団体と酪農関係全国機関により構成される酪農指導団体です。2013年から、一般社団法人へ移行しています。

 中央酪農会議のプレスリリースによると、指定団体で受託している酪農家は2019年4月に1万3384戸でしたが、2024年10月に初めて1万戸を割り、9960戸にまで減少しています。
 前年同月比増減率をみていくと、202年以降に、酪農家戸数の減少が加速しています。

 原因について調べるため、中央酪農会議は2024年11月15~25日、インターネット・FAXでアンケートを実施し、236人の酪農家から回答を得ました。

 回答した酪農家の58.9%が、9月の経営状況は赤字と回答し、酪農家の47.9%が離農を検討しているという結果だったといいます。

 回答によると、経営悪化の要因として、多くの酪農家が「円安」「原油高」「ウクライナ情勢」を挙げています。上昇を感じる生産コストとしては「濃厚飼料費(配合飼料等)」「農機具費」「光熱水料・動力費」。

 その一方で、「牛販売の収入」をはじめとする収入は減少しています。

 中央酪農会議のプレスリリースのなかで、北海道大の小林国之准教授は次のようにコメントしています。

2010年過ぎまで、全国的に酪農経営の状態は良いものではありませんでした。酪農家戸数の減少が大きく進んでいた中で、酪農経営は省力化技術を導入した規模拡大、購入飼料による一頭あたり乳量の増加という方法でビジネススケールの拡大を図り、収益の確保を進めました。堅調な個体販売も相まって、適切な収益の確保できる経営になりかけたその矢先に、飼料価格だけではなく、様々な資材価格が高騰するといういまの酪農危機がやってきました。
酪農危機は複数の要因によってもたらされていますが、穀物や資材価格の高止まりなどの要因は、ニューノーマルになると想定されます。つまり、高コスト時代の酪農経営のあり方への転換が、今求められているといえるでしょう。
こうした転換はすぐにはできません。農業の中でも特に酪農は転換に時間が必要です。仔牛を育ててから生産が始まるまでのタイムラグ、さらに施設・機械への投資が多額となり、回収期間も長いという特徴が有ります。短期間で構造を変えることが難しいのが酪農経営ですので、中期的なビジョンをもって取り組みを進めていく必要があります。
個別の酪農経営として、現状の中でも対応できることはあります。他の経営でうまくいっているところから学び、それを経営に取り入れ改善するなどもその一例です。しかし、そうした個人では対応できない課題もあります。現状で厳しい状況におかれている酪農家が、さらにこうした課題に取り組んでいこうという意欲を持つためにも、酪農家はもちろん、関係団体、さらには消費者の人達とともに、これからの日本酪農の存在理由とそのあり方について対話、コミュニケーションをおこない、理解の醸成を進めていくことが不可欠です。

日本の酪農家が1万戸割れ(中央酪農会議のプレスリリースから)

 経営危機に対し、酪農家向けの支援策が政府の2024年度補正予算に計上されています。

 まず、食品の価格転嫁には、消費者の理解が欠かせません。

 食品の生産・製造・流通コストの上昇分を円滑に価格転嫁するための価格形成の仕組みや消費者への理解醸成を図る必要があるとして、農水省は2024年度補正予算案に関連予算6億円を計上しています。

 コスト指標の作成や消費者の理解醸成を促進するため、農産物や食品を対象に、食料システムの各段階のコスト構造や取引価格の調査等を実施したうえで、食料の生産・製造・流通に関わる実態や、コスト構造及びその背景事情等について情報発信し、消費者や事業者の理解醸成を図ることを計画しています。

乳用牛長命連産性等向上緊急支援事業
乳用牛長命連産性等向上緊急支援事業(農水省の公式サイトから https://www.maff.go.jp/j/budget/r6hosei.html)

 1回あたりより多くの牛乳がとれる牛から、より多くの子牛を産み、より長い期間にわたり牛乳がとれる乳牛への転換を図るための「乳用牛長命連産性等向上緊急支援事業」も2024年度補正予算に計上されています。

 長命連産性の能力の高い乳用種雄牛の交配推進支援などがおもな柱です。

 輸入飼料への過度な依存から脱却し、国内の飼料生産基盤に立脚した畜産へ転換するため「国産飼料生産・利用拡大緊急対策」も2024年度補正予算に盛り込まれています。

国産飼料生産・利用拡大緊急対策
国産飼料生産・利用拡大緊急対策

 具体的には、飼料生産組織を核に、地域ぐるみでの青刈りとうもろこし等の飼料作物の持続的な生産・利用のモデル実証を支援したり、飼料生産組織の機械導入等や作業規模の拡大を支援したり、流通体制や流通拠点の整備を支援したりすることを予定しています。

 2018年度が25%だった飼料自給率を2030年度までに34%まで引き上げることを政策目標としています。

 肥料の国産化に向けて、畜産業由来の堆肥や下水汚泥資源などの国内資源の肥料利用を推進するため、肥料の原料供給事業者、肥料製造事業者、肥料利用者の連携づくりや施設整備等を支援する「国内肥料資源利用拡大対策事業」も2024年度補正予算に計上されています。

国内肥料資源利用拡大対策事業
国内肥料資源利用拡大対策事業(農水省の公式サイトから https://www.maff.go.jp/j/budget/r6hosei.html)

 畜産業由来の堆肥をもつ原料供給事業者に向けては、堆肥化処理施設や乾燥施設・臭気設備の整備を支援したり、資材購入費・成分分析費を支援することで資源化を後押ししたりしようとしています。