バレーボール界をV字回復へ 川合俊一さんが変えた人材育成とマネジメント
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ツギノジダイが2025年1月に開いたオンラインイベント「第5回 日本を変える中小企業リーダーズサミット」(ツギノジダイ、Eight主催)では、日本バレーボール協会会長の川合俊一さんが、人材戦略とマネジメント改革をテーマに講演しました。不祥事からの再建を託されて2022年に会長に就任。ガバナンスや財政難などの課題があった組織を、川合さんはどうV字回復へと導いたのでしょうか。
ツギノジダイが2025年1月に開いたオンラインイベント「第5回 日本を変える中小企業リーダーズサミット」(ツギノジダイ、Eight主催)では、日本バレーボール協会会長の川合俊一さんが、人材戦略とマネジメント改革をテーマに講演しました。不祥事からの再建を託されて2022年に会長に就任。ガバナンスや財政難などの課題があった組織を、川合さんはどうV字回復へと導いたのでしょうか。
川合さんは現役時代、日本代表主将を務め、引退後はタレント活動やトヨタ自動車ビーチバレーボール部GMなど多彩な経験を積みました。日本バレーボール協会会長として白羽の矢が立ったのは、2022年のことでした。
当時、ビーチバレーの国際大会出場をめぐる不祥事で前会長が解任され、再建を託されたのが川合さんでした。「最初は断りました。しかし、協会の財政を聞いたら『2億数千万円の赤字予算で、このままだと無くなります』と言われ、それは大変だと引き受けました」
就任して驚いたのが、縦割りの組織構造です。会議で「変えたいこと、困っていることはないですか」と尋ねると、若手職員から「私は2年間協会にいますが、会長と話したことがありませんでした」と言われたそうです。
「30数人しかいない組織なのに驚きました。『何かあったら言っていいよ』と伝えると、若手から次々と意見が出たんです」
現役選手やタレントとして人気を博した川合さんですが、職員には「会長が偉いわけではない。新人でもどんどん意見を言ってください」と伝えました。会議の内容などもチャットツールに展開するなどオープンに。「情報というのは共有しないと、生かされません。共有することで組織のつながりが強くなります」
川合さんは、選手強化やマーケティングといった部門間の人事交流を盛んにし、若手を幹部職に抜擢しました。改革の土台には、トヨタ自動車で学んでいるカイゼン思想がありました。
「トヨタでは現状がうまく回っていても、カイゼンをするんです。悪くなったらどうするんだと思うけど、何年か経つとあの時変えておいてよかったという経験がありました。協会内も今のままでいいみたいな雰囲気があったので、組織のカイゼンを試みました」
就任から数カ月後には、傘下の大阪府バレーボール協会で、会計担当理事が約2600万円を着服したという問題が発生。一報を聞いた川合さんは記者会見の開催を指示しました。
「私自身も大阪に出向いて記者会見に出席しました。心がけたのは用意した紙を見ないで話すことです。想定問答や数字などのデータは全て頭に入れた上で、すべての質問に自分の言葉で答えました。迅速なタイミングであったことも含め誠意が伝わったと思っています」
川合さんは組織改革や危機管理だけでなく、トップセールスにも走りました。
「普段から色々な方とお付き合いがあるのですが、皆さんに『協会のスポンサーになってくれるところはありませんか』と声を掛けたところ、それがきっかけで協賛パートナーになっていただいた企業も数社ありました。そんな皆さんの支えが無ければ代表強化も止まっていたと思います」
そうした成果を、日本代表の強化や人気向上にも生かしています。川合さんの現役時代はエコノミークラスで海外に遠征していましたが、会長就任後、往路だけでもビジネスクラスにしました。代表選手には早めに開催地に入ってもらい、時差調整の時間を長めに取るようにしました。
「現役時代は到着して数日はひざが痛いし、筋肉が動かない状態で試合をするので勝てなかった。そういう経験があるので、移動や時差調整にお金をドーンと投入しました」
代表の男子選手とは全員、女子選手は主力級とLINEを交換し、けがの状態などこまめにコミュニケーションを取るのも「川合流」です。
「僕は現役の時、会長と話したことはありませんでした。選手からすれば、会長が気にしてくれるのはありがたいだろうなと思うし、こちらも選手の状態が分かるので現場との距離が縮まります」
人気を高めるための手も打ちました。就任前まで、選手の取材は代表監督がコントロールしていましたが、その権限を協会の広報に移したのです。
「広報に『練習が終わった後は自由にやっていい』と言ったら、試合の舞台裏やトレーニング風景をInstagramで配信するなど、色々な企画が生まれました。(トップ選手の)石川祐希選手や髙橋藍選手が女性ファッション誌の表紙に登場し、バレーボールファン以外の興味も引くことができました」
2024年の国際大会「ネーションズリーグ」では、男女とも2位に入る躍進を遂げました。代表戦や国内リーグは満員の観客で埋まるようにもなり、強化と人気の両輪を回すことができたのです。
川合さんは講演の最後に、組織を率いる立場の中小企業リーダー層に向けて、次のようなメッセージを送りました。
「すごく嫌なことだとしても、これを解決したら面白いだろう、改革したらいいことにつながるといったゲーム感覚で向き合うのも大事かなと思います」
「経営では色々な問題が起きると思いますが、一番簡単な解決策は誠実な対応です。うそをつくと、その後がめちゃめちゃ大変になります。誠実に逃げずに隠さず対応すると、意外と簡単に結果が出るのではないでしょうか」
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