バッグ、ポーチ、ぬいぐるみ、エプロン、マスク。現代的なデザインのものから優しい手作り感のあるものまで、縫製工場には色とりどりの布製品が並ぶ。
 職人たちは女性が中心だ。特殊なミシンで雑貨を縫い上げる音が響くそばでは、裁断機がプログラムされた通り、生地を次々と裁っていく。

 2階建てで、学校の教室を複数合わせた程度の広さしかない工場だが、顧客の要望に応え、複雑な形のバッグなども次々と生み出す。北次孝得(たかのり)社長(48)は「縫製技術に加え、企画から生産まで社内で一貫してするからこそできる」と胸を張る。

 北次社長の祖父が1955年に創業した。当時はマットレスやクッションのカバーをメーカーから受注し生産していた。

 日本の繊維産業は90年代までに、人件費が安い中国などへの移転が進んだ。海外に出る資金力がなかった北次は、国内の少ないニーズをつかむ戦略をとった。多様な種類の布製品の注文に、少ない量でも応じることで、技術を磨いていった。

ミシンで製品を縫い上げていく職人
ミシンで製品を縫い上げていく職人

 その結果、雑貨はもちろん、帽子やバッグといったアパレル、アウトドア製品まで生産できるように。ノウハウを生かし、自社ブランド製品も作るようになった。

 インターネット通販が自社製品の販売を後押しした。手作り感のある幼児向けバッグや、体に合う立体的な形状のエプロンが人気を集める。ドレスなど、顧客の思い出がある布を使い、ぬいぐるみに仕立てる事業も好評だ。最近はマスクも製造している。

 少ない量でもこだわりの製品を作る北次の戦略は、消費者のニーズの多様化にも合致した。昨年度の売り上げは5年前と比べ15%増の約2億9千万円になった。

 ポーチのように立体感のある布製品に仕上げるには熟練の技術が必要だが、現在の北次の職人は50歳以上の人が多く、技術の継承が課題だ。

 北次は地域でのミシン教室などを通じ、縫製業の魅力を伝えている。北次社長は「まずは100年続く企業にしたい。そのためにこれからの時代を担う人を増やしていきたい」と話す。(2020年10月3日付け朝日新聞地域面に掲載)

北次

 従業員47人(正社員7人、パート40人)のほか、80人ほどの内職者が縫製を支える。ウェブサイトで制作事例を紹介しているほか、「町のミシン工房」の名前で楽天市場に出店し、自社ブランド製品を販売している。問い合わせは同社(06・6908・1594)。