目次

  1. 新型コロナのワクチン接種とは 接種はいつまで?
  2. 接種回数と接種間隔
  3. ワクチン接種の対象と注意点
  4. ワクチン休暇とは
  5. ワクチン休暇が必要とされる2つの理由
    1. 祝休日や混雑する時間帯を避けるため
    2. 副反応で体調不良となる可能性がある
  6. ワクチン休暇で考えられる3つの選択肢
    1. 就業規則に規定し恒常化した休暇規定とする
    2. 時限的なものとして就業規則に規定しない
    3. 休暇ではなく業務命令での接種とする
  7. ワクチン休暇を表明した企業の事例
  8. 特別有給休暇を設けるときの注意点
  9. 東京都は中小企業に専門家を派遣
  10. ワクチン休暇の助成金

 厚生労働省の公式サイトによると、新型コロナのワクチン接種は医療従事者から始まり、高齢者、基礎疾患のある人や高齢者施設で働いている人へと順次対象を広げています。

 高齢者への接種は、一部の市町村で2021年4月12日に始まりました。政府は国民全体の接種期限を2022年2月28日までと説明しています。

 国内で薬事承認を受けたワクチンは、ファイザー社のワクチンです。ファイザー社のワクチンでは、2回の接種が必要で、通常では1回目の接種から3週間後に2回目の接種を受けます。

 このほか、政府はモデルナ社、アストラゼネカ社からも、ワクチン供給を受ける契約を結んでいます。厚生労働省はモデルナ社製のワクチンは製造販売について特例承認した上で、公費接種の対象とすることを決めました。東京都や大阪府などに設置する大規模接種センターで、5月24日から使います。

 一方で、アストラゼネカ社製の新型コロナウイルスワクチンについて、製造販売は特例承認しましたが、公的な接種は当面見送ることを決めました。海外では接種後まれに血栓ができる例が報告され、接種年齢を制限している国もあるためです。国内でも年齢制限をするかどうかという議論がさらに必要だと判断したといいます。

 接種する日に16歳以上の人が対象になります。妊娠を考えている人や妊娠中の人、授乳中の人も、ワクチンを受けることができます。ただし、企業は予防接種不適当者や予防接種要注意者にあたる人には接種を勧めることがないよう十分に注意してください。詳しくは、厚労省の「新型コロナのワクチンQ&A」を参照してください。

 厚労省は「職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていない人に差別的な扱いをすることのない」よう呼びかけています。

 政府はワクチンを勧めていますが、強制ではありません。そのため、医療や高齢者施設の関係者を除き、ワクチン接種を受けたことで健康被害が生じても労災保険給付の対象にはならないといいます。

 ワクチン接種が始まるなか、河野行政・規制改革相は2021年5月13日、経団連などにワクチン休暇の導入の検討を要請しました。

 ワクチン休暇に統一された制度はありませんが、従業員が新型コロナのワクチンを接種しやすいよう接種日や副反応が出たときに特別有給休暇などを認めている企業が増えています。このほかにも、家族のワクチン接種の付き添いや体調不良の看病に対応している企業もあります。

 ワクチン休暇が必要とされる理由は主に2つの理由です。

 平日の日中にワクチン接種ができないと、祝休日や終業後に接種希望が殺到する可能性があります。そのため、政府は経済団体に職場での接種の検討も求めています。

 ファイザー社の新型コロナワクチンでは、接種後に注射した部分の痛み、疲労、頭痛、筋肉や関節の痛み、寒気、下痢、発熱などがみられることがあります。こうした症状の大部分は、接種後数日以内に回復しますが、厚労省の接種後の健康状況調査によれば、1回目接種よりも、2回目の接種で頻度が高い傾向がみられました。

 また、年齢が上がると頻度が低くなったり、男性より女性の方が頻度がやや高かったりと個人差を考慮する必要があることがわかっています。

ファイザー製ワクチンの副反応の発現頻度(厚労省の新型コロナのワクチンQ&Aから引用)

 企業が取りうるワクチン休暇の選択肢について、社会保険労務士法人の岡佳伸代表は、有給休暇または業務命令を前提に3通りが考えられると説明しています。

 就業規則に「ワクチン休暇」を明記する方法です。

 たとえば「新型コロナウイルスまん延予防のためのワクチンを接種する日については、特別休暇として有給とする。原則、接種日のみするが副反応等で就業が難しい場合については、接種日翌日についても休暇とする」という規定です。

 ただし、新型コロナウィルスが一般化した場合やインフルエンザワクチンなど、ほかのワクチンとの扱いの差が課題として残ります。また、ワクチン休暇を廃止しようとしても、従業員の同意なしに就業規則を不利益な変更をすることはできないので注意が必要です。

 就業規則に規定せず特別休暇としてしまうことです。就業規則などで会社がやむ得ないと認めた場合は、特別休暇を与える規定があるのであれば、それを活用することが考えられます。就業規則の変更が不要のため、素早く対応できるメリットがあります。

 ただし、本来的には労働基準法上で就業規則に休暇は必要記載事項なので課題は残ります。

 業務命令での接種とするメリットとしては副作用等の場合にも労災が適用される選択肢があることです。業務命令上の必要性などの問題が出てきますが、医療職や接客業であれば妥当と判断されやすいでしょう。

 ただし、予防接種不適当者や予防接種要注意者への対応は十分に注意してください。

 政府や経済団体より先にワクチン休暇の導入に動き出している企業も複数あります。
久保井インキ(本社・大阪市、従業員30人)は、2021年3月12日、社員がワクチン接種を受ける日に特別有給休暇を設け、接種を終えた社員に奨励金を支給することを決めたと発表しました。副反応が出た場合の対応についても検討しています。

 他社から問い合わせも寄せられているといい、久保井伸輔社長は「安心して接種を受けられる環境を1社だけではなく社会全体に広げていきたい」と話しています。

 山口県や九州地方で「資さんうどん」を展開する「資さん」(本社・福岡県北九州市)も常勤従業員約700人に「ワクチン休暇」制度を導入したと発表しました。ワクチン接種日や副反応による体調不良があれば翌日も特別有給休暇を取ることができます。

資さんの佐藤崇史社長(中央)ら(資さんのプレスリリースから引用)

 このほかにも、次のような企業がワクチン休暇の導入を発表しています。

 厚労省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」によると、有給の特別休暇制度は労使の話し合いで設けることができます。「労働者が安心して休めるよう、就業規則に定めるなどにより、労働者に周知していただくことが重要です」と説明しています。
 具体的な相談は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)(PDF方式:164KB)の「働き方・休み方改善コンサルタント」で受け付けています。

 東京都は2021年6月16日から2022年2月10日まで、ワクチン休暇の整備に取り組む中小企業に、社労士を派遣する事業を始めます。1社あたり最大5回まで無料です。詳しくは東京都の公式サイトで確認してください。

 政府はこれまで、小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援のための新たな助成金などは設けていますが、5月17日時点でワクチン休暇に関する政府の助成金の発表はありません。

 一方で、山梨県は2021年4月、ワクチン接種の副反応と思われる症状で休業を余儀なくされ、有給休暇が取得できないなど給与や事業収入が減る人に対して、1日4000円(ただし接種1回につき連続する2日が限度)を助成する制度を設けると発表しました。6月からの申請受け付け開始を目標に準備を進めています。