貿易商から始まり、草創期はレーヨン製品を作るためのセラミック部品を扱っていた。レーヨン製品の製造が下火となったことから事業転換を図り、1961年、摩耗に強い世界初のセラミック製ノズルを開発。農薬散布用に広く利用された。これ以降、洗浄、冷却、加湿のための霧を作るノズルやその装置を幅広い分野に供給するほか、鉄の表面を削るための高圧ノズルなども作っている。

 1998年に開発した排煙を冷却してダイオキシンを抑える装置は、全国のごみ焼却場に導入された。現在も、公害対策に力を入れる中国で高い需要があるといい、同社のヒット商品となっている。

 今春、発売にこぎつけたのは、触れてもぬれない霧「ドライフォグ」でトマトなどの野菜を栽培する装置。10年かけて開発した。土よりも早く栽培が可能で、水耕栽培のように大量の水も必要とせず、少ないスペースで安定的に収穫ができるという。

 将来的には宇宙ステーションでの自給自足にも役立てたいと、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同研究もしている。

 宇宙関連ではほかに、ロケットの打ち上げ時の騒音を巨大な霧で打ち消す装置を開発。実際の現場で同社の製品が採用されているという。

 「霧で社会に貢献する」というのが同社の経営理念。2011年の東日本大震災発生後は、夏の電力不足解消のために動いた。火力発電の主力であるガスタービン発電は、暑くなる夏場は発電量が落ちる。他の製品開発を止め、ガスタービンを冷やすための霧を作り出す専用ノズルの開発に注力し、2012年に完成させた。国内のほとんどのガスタービンを使った発電所が導入した。現在はイラン、イラク、メキシコで売れているという。

今秋登場した三重県桑名市の「なばなの里」の雲海(夜空は合成)

 このノズルをもとに、人工的に雲海をつくる装置も開発した。昨年から、東京の高級宿「ホテル椿山荘(ちんざんそう)東京」の庭に雲海をつくるのに使われているのもこの装置だ。今秋からは、イルミネーションで知られる三重県桑名市の「なばなの里」でも使われている。

 技術士でもある中井志郎社長(53)は「小さなノズルの穴で、少しでも人々の暮らしを豊かにしたい」と話す。(2021年11月6日朝日新聞地域面掲載)

いけうち

 1954年創業、従業員数321人。2020年9月期の売上高は57億7000万円。フォグエンジニア「霧のいけうち」として国内に3工場9拠点、海外に2工場9拠点を構える。