リーマン・ショックを機に新分野 全国の製造現場へ技術者派遣
高い技術力を誇っても、リーマン・ショックで大打撃を被った。だが、それを機に新分野に乗り出し、大きな成長を遂げた。「職人の高齢化が進む全国の町工場を、再生させたい」。3代目の井上直之社長(44)は力強く語る。(森直由)
高い技術力を誇っても、リーマン・ショックで大打撃を被った。だが、それを機に新分野に乗り出し、大きな成長を遂げた。「職人の高齢化が進む全国の町工場を、再生させたい」。3代目の井上直之社長(44)は力強く語る。(森直由)
全国を駆け回っていた溶接職人だった祖父・省(たすく)さんが1980年、機械加工会社として創業させた。神戸市に91年、研磨工場を建設。主に川崎重工業のオートバイのハンドルやカバーなど、外観部品を磨いてきた。
「オートバイ部品は厳しすぎるからやりたくない」という同業他社もあるという。だが、そんな非常に高い品質が求められる仕事を進んで引き受けた。職人が研磨機を使い、手作業で丁寧に部品を磨き、技術が鍛えられた。
しかし、2008年のリーマン・ショックで売り上げが約12億円から約7億円に減った。当時は専務だった井上社長は「ずっと安定していた大企業からの受注が、まさか大きく崩れるとは思わなかった。今のままではいけないという恐怖、危機感を抱いた」。
そこで、製造業への派遣事業に目をつけた。航空機事業に力を入れていた川崎重工岐阜工場から、11年に依頼を受け、技術者の派遣を開始。ピーク時には、同工場を含めた航空機関連事業へ約100人を送り出した。
その後も福島県から鹿児島県まで、大企業など約250社へ派遣した。今も約1300人が全国で様々な事業に関わっている。
これが当たった。現在はこうした人材派遣が売り上げの約8割を占める。20年2月期は約72億円、21年はコロナ禍の影響で約58億円だったが、22年は約70億円に戻る見通し。「技術者の採用力が評価された」と感じている。
18年には、後継者がいなかった近くのレーザー加工会社「サンテック」を買収。数人の職人を送り、現場リーダーの役割も担った。買収時に約1100万円の赤字だった同社は21年、約780万円の黒字に転換。三陽工業はこれまでに計5社を買収してきた。
「本業」だった研磨も成長を続けている。17年ごろから、産業用ロボット部品や美容医療機器、建築用工具など、扱う分野が多岐に広がった。鉄やアルミの表面仕上げやサビ取りなど、幅広い要望に対応している。
「ものづくりのノウハウを生かし、若い技術者の育成を進めて、日本の製造現場を元気にしたい」(2022年2月26日朝日新聞地域面掲載)
本社は兵庫県明石市。従業員数は約1500人。株式市場への上場も視野に入れる。兵庫県と福岡県に軟式野球部があり、兵庫の部員は約15人、最高齢は72歳だ。野球歴35年の井上社長は二塁手で、「僕だけはこの2年間、無失策です」と胸を張る。
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