異色のコンビニ「セイコーマート」が北海道でめっぽう強い3つの理由
私たちの暮らしに欠かせないコンビニ。優れた商品や便利なサービスを次々に提供する一方、各チェーンは人件費の高騰、食品廃棄、24時間営業の維持など新たな問題も抱えています。「月刊コンビニ」元編集長の梅澤聡さんが、コンビニが描く新しい未来を、50年の歴史を踏まえて解説します。今回のテーマは「異色のコンビニ『セイコーマート』が北海道でめっぽう強い理由」です。
私たちの暮らしに欠かせないコンビニ。優れた商品や便利なサービスを次々に提供する一方、各チェーンは人件費の高騰、食品廃棄、24時間営業の維持など新たな問題も抱えています。「月刊コンビニ」元編集長の梅澤聡さんが、コンビニが描く新しい未来を、50年の歴史を踏まえて解説します。今回のテーマは「異色のコンビニ『セイコーマート』が北海道でめっぽう強い理由」です。
目次
コンビニ大手3チェーン(セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン)の店舗数は2021年12月末時点で5万2535店で、コンビニ全体の9割以上を占める。都道府県ごとに見ても、大手3チェーンのいずれかが店舗数トップを占める。
唯一の例外が北海道のセイコーマートだ。北海道ローカルで支持され、道内隅々まで店舗網を築いている。中堅チェーンの撤退が相次いだコンビニの歴史に反して、セイコーマートはなぜ強いのか、考えてみたい。
日本最北端のまち、稚内市の南隣にある豊富町(とよとみちょう)。主な産業は酪農と林業、観光で、2021年12月末時点で1954世帯、3756人が暮らしている。1960年前後には人口1万人に達したが、炭鉱の閉山により徐々に減少。単身化と高齢化が進んでいる。
ここにセイコーマート(以下、セコマ)は2店舗を構える。国道沿いに並ぶ商店や住宅を挟むかたちで、町の北と南に1店舗ずつ配置。他にコンビニはなく、小型の食品スーパー2店舗とともに、町の食生活を支えている。
コンビニは社会のインフラ、人々のライフラインと呼ばれている。食品スーパーが19時までに閉店する一方、セコマは2店舗とも23時まで営業、朝は6時~6時半に開店する。セブン-イレブンのかつてのキャッチフレーズ「開いててよかった」を提供している。
筆者は1月中旬、そのうちの1店舗「セイコーマートとよとみ店」を訪れた。時間はランチタイム。店舗前に止めた車の中で、ドライバーが弁当を食べたりコーヒーを飲んだりしてくつろいでいる。
店内のカウンターには2人の従業員。他に「HOT CHEF(ホットシェフ)」と名付けられた、店内製造の弁当やおにぎり、フライドポテトなどを扱うキッチンでは、男女2人が調理していた。
人の気配がしない町中とは対照的に、店内は車で来た客が出入りしてにぎやかだ。車を止めやすく、短時間で買い物ができるコンビニの機能を発揮している。
豊富町では現在、風力発電施設を建設中で、数百人の作業員が宿舎で寝泊まりしている。朝晩の食事と昼の弁当は宿舎から提供されるが、飲み物や菓子、夜のアルコールとつまみは自前だ。町の人に聞くと、作業員が増えた分、コンビニは繁盛しているという。
この豊富町のセコマから最も近いコンビニの競合チェーンは、車で100キロ以上南下した美深町(びふかちょう)のセブン-イレブンになる。セブン-イレブンは、旭川市(人口約32万8000人)に67店舗、士別市(約1万8000人)に3店舗、名寄市(なよろし=約2万7000人)に6店舗を展開。その北の美深町が現時点での北限だ。
セブン-イレブンは、旭川から士別、名寄、美深、それ以外の周辺の町村も含め、店舗を高密度に集中させている。セブン-イレブンが出店政策の基準とする「高密度集中出店」を実現している。
他方、北限の美深町から北に向かって稚内市(約3万2000人)までは140キロ離れ、その間は寒村が続く。高密度に集中出店するにも、そもそも人口が非常に希薄な地域だ。セブン-イレブンにとって、出店を重ねるには非効率なエリアであり、おそらく北上作戦をためらう理由になっているのだろう。
セコマはそうした寒村に沿って出店し、稚内市に18店舗と多店舗化。さらに離島の利尻島(約5600人)に3店舗、礼文島(約2400人)に1店舗を出店している。
もともと、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンの大手3チェーンは大都市圏から出店を始めた。現在は3チェーンとも全47都道府県に展開しているとはいえ、ビジネスモデルは都市型で、コスト高になりやすい。
それに対しセコマは、全1176店舗中、道内が1084店と92%を占める。人口の希薄な北海道の市町村でチェーンストア経営を実現するため、低コストで運営できる店舗経営と、効率的なサプライチェーン(製造や調達、在庫、配送、販売といった一連の流れ)を築いてきた。簡単に言えば、売上が少なくても、店舗を維持できる仕組みをつくってきたのだ。
ここで歴史を振り返ってみよう。実質的な創業者である故・赤尾昭彦氏は、1971年8月、札幌市北区にセコマ1号店を立ち上げた。鈴木敏文氏がセブン-イレブンを設立する3年も前であり、この店舗は現存する日本最古のコンビニだ。
始まりは、酒類中心の食品卸会社の社員だった赤尾氏が、取引先の食料品店をコンビニに業態転換させたこと。当時は、ダイエーやイトーヨーカドーが店舗展開を強め、食品スーパーもチェーン化を進めていた。小さな食料品店を近代化させないと、食品卸の自分たちも駄目になる、という危機感があった。
赤尾氏は、すでにコンビニチェーンが確立されていたアメリカに渡り、通訳を雇ってオーナーや店長の話を聞くなどして、チェーンストア理論の研究を重ねた。特に慧眼(けいがん)だったのは①物流網の整備、②自社製造体制の確立、③店内調理事業、の3点を基本に据えたことである。順に解説する。
最初に①物流網の整備について。赤尾氏は創業時から物流網の重要性に着目し、1990年代初頭には北海道全域への配送体制を築き上げた。さらに1997年から5年かけ、100億円を投じて現在の自社物流体制を確立した。
これにより、道内179市町村のうち175市町村に店舗を構え、人口カバー率は99.8%に上った。前述したように、旭川から北上して名寄、豊富、稚内、利尻島、礼文島といった人口の少ない地域への出店を可能にしている。
次に②自社製造体制について。セコマは食品製造会社を立ち上げたり、水産加工会社や乳業会社を傘下に収めたりして、原材料の確保、商品の製造に力を注いでいる。
例えばセコマの牛乳やヨーグルトは、冒頭の豊富町にある製造工場にセコマが資本参加して開発したオリジナルブランドだ。豊富町内で毎日搾った生乳を工場に直送し、ヨーグルトも同じ町内で製造している。牧場と工場が同じ町内にあるため、新鮮な状態で生乳を工場に運べる。
セコマは、食品製造メーカーとしての機能を強化してきた。近年は自社ブランド商品を道内のセコマで販売するだけでなく、本州のスーパーマーケットやドラッグストアに提供している。訴求ポイントは「北海道の食材」である。
需要が伸びているサワー類は、北海道のイメージの強い、トマトやミント、メロンなどを使ったオリジナル商品を開発。カップ麺は首都圏の工場で製造するが、北海道のイメージを巧みに取り入れたオリジナル商品に仕上げている。
セコマは自社を『北海道の食のインフラとして、道内最大手のコンビニエンスストアチェーンを持つ「総合流通企画会社」』と位置づけている。既存のチェーン本部の枠内に収まることなく、次世代の企業のあり方を追求している。
最後に③店内調理(ホットシェフ)事業について。店内調理は一見すると不利に思える。人手不足が叫ばれる中、コンビニ業界では店内作業を減らす傾向にあるからだ。全国で店舗数1位のセブン-イレブンと2位のファミリーマートは、一部のカウンターフーズを除き、おにぎりや弁当などの店内調理機能を導入していない。
しかしセコマは店内調理で成功している。要因は3つある。
セコマは1994年にホットシェフ事業を立ち上げ、今や道内800店舗以上にキッチンを構える。立ち上げ当初は、全ての店舗で同じ味と仕上がりを求めたため、難しいチャレンジと見られていた。しかし、製造機器の進化や食材供給体制の整備により、商品のブレを根気強く解消した。これが1つ目の成功要因。
2つ目の成功要因は、北海道の立地特性にある。セコマの出店地周辺には、飲食店が存在しない地域も多い。そのため、作りたてのおにぎりや弁当を、店内のイートインコーナーで食べ、あたかも飲食店のように店を利用するお客が多い。知り合い同士で食事やお茶を気軽に楽しむ場所にもなっている。そうした期待に応えることで、地域になくてはならない店として地歩を固めているように見える。
3つ目の成功要因は、長距離輸送の弱点を補ったこと。物流網を整備したとはいえ、製造から納品まで時間のかかるへき地や離島では、定温(20度前後)の米飯弁当、おにぎりなどは店着後の販売時間が非常に短くなる。販売時間が短くなると、販売数量を読みにくくなる。天候の急変で客足が途絶えると、廃棄を多く出してしまう。
その解決策が、当日の客足を見ながら臨機応変に調理できるホットシェフを「主」とし、定温の米飯弁当やおにぎりを「副」にする戦略だ。これなら廃棄ロスも出さずに、効率的な販売ができる。なじみ客であれば、調理中でも待ってくれるだろう。
離島では海が荒れて船が止まってしまうことも多い。物流が止まっても、ホットシェフは冷凍食材が多いので、あとは炊飯すれば最低限の品ぞろえを用意できる。さらに電気や都市ガスが止まっても、プロパンガスを備えているので、炊飯しておにぎりを提供できる。
このホットシェフ事業の売上は推定150億円を超える。これを道内の「外食産業」に分類すると、トップクラスだ。
コンビニの商品には地域性があり、個店オーナーの発注も立地に左右される。同じ看板のチェーンでも、東京の店舗と北海道の町村の店舗とでは、求められる品ぞろえは異なるはずだ。
しかし、大手3チェーンは、大都市圏に膨大な数の店舗を抱えている。商品特性は都市型にならざるをえない。
一方のセコマは、北海道の平均的な客層を前提にするため、おのずと大手3チェーンとの差別化ができる。具体的に言うと、食品スーパーの代わりになる店舗も多いため、野菜や日配品が充実している。自社工場で製造する冷凍食品のほか、コンビニでは扱いづらい精肉を冷凍肉で用意するなど、地域密着の品ぞろえを拡充している。
その極めつけが、数十アイテムに及ぶ、1人用の総菜だ。価格は110円程度で、毎日食べても飽きない和総菜がずらりと棚に並ぶ。1品110円でも店の利益に貢献できる、セコマ本部との契約形態も、このラインナップを可能としている。大手3チェーンとの明らかな差別化商品として定着している。
なお、2021年12月末の北海道内の店舗数は次の通りで、増減はあまりない。
セコマの現在の社長である赤尾洋昭氏は筆者の取材(2020年9月)に次のように答えている。「今後の成長を見据えたときに、北海道内の商勢圏(ドミナント)をしっかりと守りながらも、海外を含めた北海道外で、どれだけ売上を増やせるのかが鍵になるかと考えています。道外の食品スーパーや量販店に商品を扱っていただき、売上を伸ばしていくのも戦略の1つと考えています」
北海道食材のブランド力は向上している。内に向かっては、道民の生活をしっかりと支える。外に向かっては、自社商品の販路を広げる。コンビニで培った商品開発力で、この先も攻勢をかけるだろう。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2022年2月8日に公開した記事を転載しました)
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。