目次

  1. 商品さえ買えればいい派 VS. 接客も大事派
  2. 「やまびこあいさつ」万引き防止の意味も
  3. 多い仕事量、安い賃金……現役店員の声も多数
  4. 連載筆者・梅澤聡さんから

 6月3日に公開した連載「毎日4000万人が利用する生活インフラの未来 『コンビニ限界説』に挑む」の第3回記事「『レジは最後のとりで』は本当? コンビニの接客はどうあるべきか」について、ツイッター上などで多くの反響をいただきました。

 読者のみなさまの声をまとめ、改めてコンビニの接客について考えたいと思います。最後に、記事の筆者である梅澤聡さんからコメントをいただきました。

 寄せられたご意見の中で目立ったのが、手厚い接客は不要というものです。程度の差はありますが、商品が買えればそれでいい、という声は一定数見られました。

韓国のコンビニ接客に倣えばいい 客が来なければスマホいじろうが勉強しようが自由 話し掛けられれば客との会話も普通にする 話し掛けられなければ話し掛けることもない そんな接客に誰もクレームなどせず許容する 日本の客は求め過ぎなんだよ甘えとも言える

bizbleコメント欄より

 

 一方、しっかり接客してほしい、店に活気は必要、客と店員の雑談はあっていい、という声も根強いようです。

 

 記事中では、常連客のたばこ銘柄を記憶することが、伝統的な接客術の一つとして紹介されました。一方、「自分に関心を示さないでほしい」というニーズもあると言及したところ、共感する意見が寄せられました。

 また、近年廃れつつある接客の事例として記事中で取り上げたのが、客の入店に気づいた店員が「いらっしゃいませ」と言うと、他の店員が後に続く「やまびこあいさつ」です。読者のみなさんからは、接客面に加え、防犯面からも必要という指摘がありました。

 

 近年導入が進むセルフレジについては、利便性や気楽さを評価する声がある一方、使いこなせない人への配慮が必要だという指摘もありました。店員とみられる方からは、思わぬ副産物について言及がありました。

セルフレジが導入されて、使い方が分からなくて逆ギレするお客様も増えましたが、セルフレジを毎回教える事でコミュニケーションが増えたり、エコバッグに商品を入れるだけで感謝されたりして、最近はお客様との距離が近くなった様な気がしています。勿論、逆ギレするお客様は絶えませんが、最近は優しい会話で対応している日が多くなったように感じます。

bizbleコメント欄より

 また、店員の業務量の多さや賃金の低さに関するコメントも目立ちました。現役店員の実体験とみられる投稿も多く寄せられています。

 

 そして最も多くの意見と共感が寄せられているように見えたのが、客側の態度に関する声です。

いつも店側の接客態度を問題にされますがなぜ客の態度は問題にされないのですか? 携帯電話を片手に商品にぶつかったり、携帯電話で話ながらレジ、そして、聞きかえすとキレル! ごみを大量に捨てる。そして、開けたごみ箱の扉をけとばす。 トイレに尿をまきちらかす、ペーパー泥棒、電気泥棒、居すわりなどなど。 ついには冷蔵庫の扉を回し蹴りして閉める客も。 駐車場も1~2時間は当たり前でとめたまま。 まだまだあります。全部注意するとキレル。

bizbleコメント欄より

 

 コンビニにどの程度の接客が必要か、正解はないように思えます。立地によって客のニーズは変わる、コンビニには地域の見守り役という側面もある、という指摘もありました。

 

 連載タイトルにある通り、コンビニはもはや「生活インフラ」です。そして完全無人の店が当面普及しない以上、接客はなくならないでしょう。客と店員の双方にとって持続可能な接客とは何なのか、立ち止まって考える機会にしたいですね。

 多数のコメントありがとうございます。「もっと接客をしっかりしろ」といった叱咤(しった)激励がほとんどかと思いきや、余計な接客は不要とのご意見の多さに戸惑っております。

 コンビニ黎明(れいめい)期の1972年に中小企業庁が刊行した「コンビニエンス・ストア・マニュアル」には、コンビニの業態定義の一つとして「顧客との密接な人間関係の形成が必要であり、接客精神と技術が重要な意味を持つ」とあります。しかし、半世紀の歳月を経て、お客の側の意識が変容したのでしょう。

 寄せられたコメントからは、そうした変化の一端が見て取れました。

 1つ目はコンビニ店員への配慮。現役店員とみられる方々からは、業務の多さが指摘されました。お客の側からは、店員も忙しいし、接客は二の次でいいといったご意見も。都心部では日本人の働き手が減少し、アジア系外国人が主力になりました。日本語が母語でない方たちも重要な担い手であり、私たちはそれを受容してきたのです。今さら接客に多くを求めない、大人の対応とでも言うのでしょうか。

 2つ目はプライバシー。自分が認知されているコンビニは逆に避けるといったコメントがありました。自分がよく知らない人(コンビニ店員)から話しかけられる緊張感、違和感は、あって当然かと思います。真夜中のコンビニでカウンターを挟んで店員と対面するとき、人によっては警戒心を持つでしょう。 

 3つ目は求めるニーズ。年配客と二言、三言、交わすのはよいけれど、スピード優先の立地もあるとのご指摘がありました。「接客」を意識するのではなく、相手により、場所により、状況により、柔軟な対応が必要だと。ただ、それも広義にとらえれば接客の技術かと思います。

 一方で、笑顔でしゃきしゃきした店員を見るとその店に行きたくなったり、いつものホットコーヒーを注文する前にカップを差し出す店に好感を持ったり、仲良くしゃべりすぎて買ったアイスが溶けそうになったり、というコメントに、古い世代の筆者(私)は安堵(あんど)したりします。

 余計な接客は不要と考える人が増えた背景に、私はコンビニに対する、ある種の信頼感があると考えました。例えば、初めての飲食店に入ったとき、最初の接客が悪いと不安が増大します。料理がまずい、値段が不当、厨房(ちゅうぼう)が不衛生……。「一事が万事ではないか」という疑念がわきます。

 ところが日本のコンビニは大手に集約され、たとえ「いらっしゃいませ」がなくても、商品や価格や衛生管理になんの不安もありません。消費期限の近づいた商品はレジではじかれます。お客からクレームの多い店は、本部から強い指導が入り、改善が見られなければ退場を迫られます。

 現状の接客水準に不満は少ないのでしょう。それでも本部は改善の手を緩めません。進化を続けることがコンビニの使命だと刷り込まれています。

 ただし前提として、店の負担を極力なくすことが必要です。接客の良し悪しも、店が存続して初めて論じられます。店の負担が軽減されず、最寄りのコンビニに撤退されることが、お客にとって一番の痛手なのですから。

 

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年6月11日に公開した記事を転載しました)