スタートアップ支援、政府が2022年度補正予算案で強化 1兆円規模だが…
政府は2022年度(令和4年度)補正予算案では、政府方針が反映され、スタートアップ支援が明確に打ち出されました。1兆円規模とも言われていますが、基金も多いため、すべてが単年度の補助金で使われるものではありません。経済産業省や文部科学省、内閣府などの予算案資料をもとに紹介します。
政府は2022年度(令和4年度)補正予算案では、政府方針が反映され、スタートアップ支援が明確に打ち出されました。1兆円規模とも言われていますが、基金も多いため、すべてが単年度の補助金で使われるものではありません。経済産業省や文部科学省、内閣府などの予算案資料をもとに紹介します。
目次
政府が閣議決定した「骨太方針2022」によると、スタートアップは、経済成長の原動力であるイノベーションを生み出すとともに、環境問題や子育て問題などの社会課題の解決にも貢献しうる、新しい資本主義の担い手だと紹介されています。政府が掲げる「新しい資本主義」の重点投資分野の一つにも挙げられています。
2022年11月24日には、政府の「スタートアップ育成5か年計画」の原案がまとまりました。首相官邸の公式サイトによると、スタートアップへの年間投資額を現在の約8000億円から2027年度に10兆円規模に引き上げる目標を掲げました。さらに将来にむけて、ユニコーンを100社創出し、スタートアップを10万社創出することを目指します。
目標達成に向けて次の3つの方針を示しています。
スタートアップ育成5か年計画の達成に向けて、国会では2022年度補正予算案が審議されています。各省庁の予算案資料をもとに、2023年に予定されている政策や補助金を紹介します。
経産省の公式サイトによると、2022年度補正予算案には次のようなスタートアップ関連事業が盛り込まれています。
経産省の事業のなかで注目度が高いのが、ディープテック・スタートアップ支援事業で、2022年度補正予算案では、1000億円を予定しています。ディープテック・スタートアップとは、革新的な技術で社会的なインパクトが期待されるものの事業化・収益化までの間が長く、必要資金が大規模な研究開発型の事業に取り組む企業のことです。
ディープテック・スタートアップ支援事業は2023年3月31日から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の公式サイトで公募を開始しました。
事業化に時間や規模の大きな資金を要する「ディープテック・スタートアップ」の革新的な技術の事業化を加速し、事業会社との連携を促すことで製品・サービスへの社会実装につなげていくことを目的とする事業です。具体的には次のような取り組みを予定しています。
試作品の開発、国内外の他事業者等との共同研究開発、海外技術実証、研究開発の成果を活用したF/S調査、初期の生産設備導入を含む生産技術開発等を支援する予定です。
量産化に向けた研究開発や生産設備・検査設備等の設計・製作等に係る費用及びこれらの設備等を設置する建屋の設計・工事費用等を支援する予定です。
政府の課題を元に研究開発テーマを設定し、事業化・成長可能性の高い技術を実現可能性調査から段階的に選抜し、連続的に研究開発事業を支援する予定です。
新型コロナワクチンのように、近年は創薬ベンチャーが開発した新薬が増えています。一方、日本では創薬分野が全般的に資金調達困難であるという課題があります。そこで、これまで感染症に限定されていた補助対象領域を広げ、創薬ベンチャーエコシステムを強化することを目指す事業も予定されています。
具体的には、国などの認定を受けたベンチャーキャピタル(VC)による一定以上の出資を要件として、創薬ベンチャーが実施する、特に前臨床、治験第1相、第2相期の実用化開発等を支援します。2022年度補正予算案では、3000億円と規模の大きいものになっています。
この予算案のなかには、バイオものづくりの中核を担う微生物等改変プラットフォーマーと素材等事業者との共同開発を促進する「バイオものづくり革命推進事業」も含まれています。
経営者保証とは、中小企業が金融機関から融資を受けるときに、経営者やその家族が連帯保証人になることです。経営者保証を締結していると、会社の返済が滞ったときに、経営者自身の個人財産を処分してでも返済する義務が発生します。
創業時に課題となることが多いため、保証上限3500万円とし、経営者保証を不要とする信用保証制度を創設します。
事業者が債務不履行となった場合に発生する信用保証協会の損失の一部などを国が補填します。具体的な制度設計は、2022年内をめどにとりまとめる予定です。
保証限度額 | 1億円 |
保証期間 | 10年以内 |
措置期間 | 5年以内 |
金利 | 金融機関の所定金利 |
保証料(事業者負担) | 0.2%など(補助前は0.85%など) |
要件 | 売上高または利益率の一定程度の減少など |
その他 |
100%保証の融資は100%保証での借り換え可能 経営行動計画の作成 金融機関の継続的な伴走支援 |
地方でのトップIT・起業家人材等発掘・育成の取組の面的拡大を目指し、産業界や学界などにおいて現役で活躍するプロジェクトマネージャーが伴走しつつ、地域独自のトップIT・起業家人材等の発掘・育成プログラムの立ち上げ等を支援する事業です。2022年度補正予算案では、12億円を予定しています。
シリコンバレーなど世界の先端拠点への5年1000人規模の派遣プログラムを実施することにより、イノベーション人材の育成、及び世界をリードする投資家や起業家の招聘による国際ネットワークの強化により、スタートアップの5年10倍増を後押しする事業です。
2022年度補正予算案では、76億円を予定しています。具体的には4つの事業が予定されています。
グローバル展開を目指す国内スタートアップの成長に必要なリスクマネーの供給や海外展開ノウハウの提供を促進し、グローバルメガスタートアップが生まれるのを支援しようという事業です。2022年度補正予算案では、200億円を予定しています。
中小企業基盤整備機構が、資金力や海外展開ノウハウを有する国内外のグローバルベンチャーキャピタルのファンドに出資を行い、ベンチャーキャピタルを通じてグローバル展開を目指す国内のスタートアップに出資します。
現在、普及しつつある第5世代移動通信システム(5G)よりさらに超低遅延や多数同時接続といった機能が強化されたポスト5Gは、工場や自動運転といった多様な産業用途への活用が見込まれており、我が国の競争力の核となり得る技術と期待されます。
ポスト5Gに向けた情報通信システムや先端半導体設計・製造技術の開発を支援する事業です。2022年度補正予算案では、4850億円の事業のなかに含まれています。
円安の環境を利用して、日本企業の海外市場開拓・輸出の拡大、対日直接投資・インバウンドの促進等を支援することを目的とした事業で、「2030年までに中堅・中小企業等の輸出額及び現地法人売上高の合計額を35.5兆円とする」という政府目標の後押しを狙います。
具体的には次のような事業を予定しています。
文科省の公式サイトによると、2022年度補正予算案には次のようなスタートアップ関連事業が盛り込まれています。
大学発スタートアップ創出を支援するため、次のような支援を予定しています。
まず、国際市場への展開を目指すスタートアップの創出に取り組む予定です。具体的には、拠点都市や地域の中核大学などの技術シーズに対し、海外の専門家からのメンタリングなどとセットで国際市場に展開できる可能性を検証するギャップファンドプログラムを創設する予定です。
このほか、大学発スタートアップ創出の抜本的強化に向けて、地域の中核大学等を中心に、地域の金融機関や他大学などと連携して、優れた技術シーズを活用した起業を進めるためのエコシステム形成に取り組むことも予定しています。
スタートアップを担う起業家の量・多様性の拡大を目指し、これまで大学生に限られていたアントレプレナーシップ教育の機会を高校生などへ拡大する予定です。
研究力の向上戦略のもと、地域の中核・特色ある研究大学として機能強化を図る大学による取り組みに対し、オープンイノベーションの創出などに必要な施設の整備を支援する事業です。
アントレプレナーシップ教育に取り組むすべての国公私立高専に対して、高専生が自由な発想で集中して活動にチャレンジできる起業家工房(試作スペース)の教育環境整備などスタートアップ人材育成に資する各高専の戦略的な取り組みを支援する予定です。
内閣府の公式サイトによると、2022年度補正予算案には次のようなスタートアップ関連事業が盛り込まれています。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)の教育研究の成果を社会に還元できるよう新たなスタートアップ創出拠点の整備、次世代高性能計算機(HPC)を格納するデータセンターの整備、量子・バイオ研究設備等の整備を行い、さらなるスタートアップの創出を後押しする予定です。
複数の大学と複数企業の連携による非競争領域の共同研究を、企業が提供するリソースとAMEDの委託費を組み合わせて実施することで、世界最高水準の医療に資する医薬品、医療機器等の研究開発を推進する予定です。併せて、高い技術力と機動力のあるスタートアップ企業の参画も確保する考えです。
スタートアップが提供可能な新技術等を省庁・自治体の調達担当者にプレゼンテーションするイベント(マッチングピッチ)を実施する予定です。
日常的に地域企業と関わり、経営課題や人材ニーズを把握している地域金融機関に加え、スタートアップ企業の実情を把握するVC、スタートアップ専門の職業紹介事業者などの参画・連携を促進することで、地域におけるイノベーション創出を後押しします。
さらに、地方からのデジタル実装の加速化を図るとともに、経営幹部やデジタル人材などハイレベル人材を地域に還流させる考えです。
農水省は2023年、農林水産・食品分野において新たなビジネスを創出するため、サービス事業体の創出や新たな技術開発・事業化を目指すスタートアップや若手研究者によるビジネスシーズ(事業化の可能性のある技術)創出の取組を支援します。肥料や飼料の大幅な使用低減に資する技術開発等のアイデアを募集する予定です。
国交省の2022年度補正予算案では、建設現場の生産性向上や安心安全で快適な交通社会の実現に向けて、建設・運輸 分野におけるイノベーション創出に資する先端技術に関するスタートアップ等の優れた技術開発の支援を実施する予定です。
スタートアップ支援は国だけでなく、各都道府県でも実施している場合があるので、チェックしておくと良いでしょう。
たとえば、東京都は2022年11月、新たなスタートアップ支援事業「Global Innovation with STARTUPS」を発表しました。具体的には次のような取り組みを予定しています。
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