ネット全盛期に実店舗が存続するには? コンビニが取り組む「顧客の創造」
近年のコンビニは人手不足の解消へ、「店舗DX」を掲げてキャッシュレス決済やセルフレジの導入、一部時間帯の無人営業化などに取り組んでいます。一方で、地域で選ばれる店になるために「顔の見える」関係づくりに力を入れる店舗もあります。キーワードは「高齢者」と「子ども」。ネット通販がどんどん広がるなか、実店舗が地域で存続するためのヒントが見えてきました。
近年のコンビニは人手不足の解消へ、「店舗DX」を掲げてキャッシュレス決済やセルフレジの導入、一部時間帯の無人営業化などに取り組んでいます。一方で、地域で選ばれる店になるために「顔の見える」関係づくりに力を入れる店舗もあります。キーワードは「高齢者」と「子ども」。ネット通販がどんどん広がるなか、実店舗が地域で存続するためのヒントが見えてきました。
目次
コンビニ店舗の生産性向上は差し迫った課題です。コロナ禍で一服した人手不足も、これから顕在化してきます。
チェーン本部は作業人時の削減と売上の拡大に最新デジタルを用いています。
例えば、AIを用いた発注支援、(スマホレジ含む)セルフレジの導入、品出しロボット、アバターの採用、ネットコンビニ、デジタルサイネージなどにより、店舗運営の合理化に取り組んできました。
その一方でコンビニには、アナログ対応が、いっそう求められると筆者は考えています。
今回紹介するのが「移動販売車」と「こども食堂」です。移動販売車は、店の商品を車に積んで、移動先にお客を集めて販売する方法、こども食堂は、近隣の子どもと保護者を対象に、店のイートインスペースを活用してコミュニケーションの場をつくる取り組みです。
“本業”の売上や利益から見ると、大きな効果が即効で得られるわけではありません。しかし、コンビニの未来を考える上で、店主とお客の密接な関係が生まれる重要な鍵となるのです。
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コンビニ草創期のオーナーは、酒販店や米穀店、小さな食料品店により地域密着の商売をしていました。
住宅地に多い一般的なコンビニは半径350m、ゆっくり歩いて5分圏内で生活(仕事)する2000~3000人を対象に商売をしているからです。
とはいえ、1980年代、90年代は、店主とお客の関係は気になりませんでした。コンビニが不足している立地が数多くあり、出店すればお客が店に付いてきたのです。
2000年代になると、客数の伸びが鈍化して、コンビニの飽和が懸念されました。しかし、2011年の東日本大震災を契機に、新たな客層がコンビニの利用を始めました。スーパーマーケットが軒並み休業に追い込まれる中、コンビニは独自の物流網と少人数の店舗運営で営業を継続した結果、中高年の女性客が店を訪れるようになったのです。
店側もそこに商機を見出して、日々の食卓に必要な惣菜や日配食品を充実させました。商圏人口は同じでも、利用客そのものが増えたのです。
しかし、現状のコンビニを見ると、客数は全体的に頭打ちです。大手3チェーンは既に47都道府県に出店、商勢圏を築いています。そんな踊り場の状況を何とかしたいと、これまで通りの集客対策に加えて、店のオーナー自らがピーター・ドラッカーの言う「顧客の創造」を図っていく、そんな取り組みも見られるようになりました。
東京・葛飾区のセブン-イレブン高砂店は、東京都内では唯一の「セブン安心お届け便」を2023年2月16日に稼働させました。こちらの移動販売車は、全国のセブン-イレブンで111台目、主に過疎地の買物困難者を対象にした取り組みですが、近年は都市部でも買物困難者が増えて、対応が始まっています。
高砂店はセブン-イレブンに加盟してから44年になる、チェーンの中では「老舗」の範疇に入ります。今は両親から引き継いで2代目になる清水誠司氏がオーナーを務めています。通常の店舗運営に加えて、なぜ移動販売車なのか、その理由を次のように語っています。
「店舗周辺では高齢化が進み、買物が大変になっている方たちが大勢います。そうした方たちの少しでもお役に立ち、この地域でお世話になった恩返しをするには、どうしたらよいのかを考えて、移動販売車を始めました。お届け便は “商売”ではありますが、それと合わせて地域の見守り活動に力を入れていきたい」
この高砂店の「お届け便」は、行政や警察、施設の許可を得て、駐車が可能な4拠点と介護施設の2拠点の計6拠点で営業活動を始めました。出走式を開催した諏訪野八幡神社境内もその一つ。この地域は日常の買物に不便を感じている住人が数多くいるといいます。
出走式に訪れた葛飾区副区長の小林宣貴氏によると、この地域は買物に苦労している住民が多く、青砥橋を渡って駅方面に買物に行くのが大変だといいます。
葛飾区として、新たなバス路線を実験しましたが、ニーズに合わず、断念した経緯があります。それ以外に対策はないかと検討していたところ、高砂店の清水氏が手を挙げました。清水氏はチェーン本部の協力を得て、商圏を調べ、販売可能な立地を区役所、地域の関係者と調整しました。
区は人口が伸びている一方で高齢化率が25%と高く、出走式を実施した高砂1丁目は中川と新中川に挟まれた陸の孤島のような地域で、普段の買物を支える商店がほとんどありません。買物をするには、高齢者の足で10分以上はかかる青砥駅周辺かヨークマート青戸店に行くしかないのです。
さらに、買い物に行く際に必ず通る青砥橋は、長さ640mの巨大な橋で、河川沿いから橋に上がるまで、ビル5階建てに相当する階段か、スロープを150m昇降する必要があります。地域ではタクシーに相乗りして買物に行く高齢者もあって、エレベーター設置の署名活動も起きています。
セブン-イレブンでは、スマホから商品を注文する「7NOW」を全国に拡大していますが、スマホやネットの使用に慣れない人たちも高齢者には多くいます。
たとえスマホで注文できたとしても、実際に目の前で見て、話を聞いて、手に取って、商品を選ぶ魅力が、移動販売車にあります。
今回の「お届け便」の車両には、初日は多くの商品を見てもらうため350アイテム(通常150アイテム)とアイテム数も多くなりました。この先は売れ行きを見ながら調整していくということです。
おにぎりやサンドイッチ、惣菜、デザートなど、即食性の強い商品を充実させる一方、今回は冷凍食品の拡充も図っています。近年は冷凍食品の味も良くなり、セブン-イレブンに限らず、コンビニ各社は、スーパーマーケットと差別化できる、1人用の商品を多く揃えています。単身の高齢者には喜ばれる商品です。
非食品では、トイレットペーパー、歯ブラシ、歯磨き粉、絆創膏、台所洗剤、シャンプーなど、急を要するアイテムを積んでいます。
ちなみに免許品の酒・たばこは扱っていません。決済は携帯POSレジを使用、支払いは現金と、もしくはグループのnanacoカードで対応します。出走立地は、他のセブン-イレブンと競合しない場所を選んでいます。商品の価格はリアル店舗と同じで、ロイヤリティ(粗利分配)の比率も店舗と同様です。車両はチェーン本部から貸与されています。
「お届け便」は、割合としてセブン-イレブンの実店舗200に対して1台が稼働している状況です。2011年5月から始めて12年間で111台目ですから、どこのお店でも、やれば確実に儲かる事業とは言えません。始めるには、移動販売車を停める場所の確保が不可欠であり、自治体との連携も必要です。
超高齢化社会が進展し、地方でも都市部でも免許を返納した買物困難者は増え続けています。今後はスマホに慣れた新しい世代が高齢化し、ネット注文が増えれば状況も変わってくるでしょう。それでも、見たり、聞いたり、触ったりする買物はネットにはない魅力です。
また、多少億劫でも家から外に出て、ご近所と会話する機会を移動販売車は与えてくれます。
店主は、毎度集まる高齢の方たちを把握して、何か異変がないのかも気に掛けます。見守りの機能も有しています。
移動販売車は、単なる買物の場ではなく、買物を通して、近隣の人たちが集まって、互いに顔を見て、話す機会を提供してくれるのです。
ファミリーマートはコロナ禍の影響を受けて一時休止していた「ファミマこども食堂」を2023年5月24日に東京都世田谷区の店舗(世田谷瀬田四丁目店)で再開しました。
一般的に「こども食堂」とは、子どもや保護者、地域住民に対し、安価で栄養のある食事を支援する社会活動を指して言います。経済的な理由から食事が十分に行きわたらない子どもたちへの支援や、孤食の解消、食を通じて子どもを育てる食育など、さまざまな開催目的があります。
実は、ファミリーマートが「こども食堂」を始めた当初、チェーン大手の組織的な参入に批判的な声も一部にはありました。貧困対策や福祉活動の一環として、こども食堂を捉えると、ファミリーマートの活動は、それに該当するのか違和感を持つ関係者もいたことは確かです。
しかし、こども食堂を経済的な事情とは切り離して、地域交流の活性化と広義に捉えれば、全国にたくさんの拠点を持つチェーンが名乗りを挙げたことに歓迎の意を示す人たちも多くありました。
「ファミマこども食堂」は、2019年4月から全国の店舗で取り組みを開始。コロナ禍前の1年間で360回、延べ約4100人が参加するなどの広がりを見せました。その後は感染対策としてストップした経緯があります。
実際の運営状況を見ると、店舗のイートインスペースを活用しています。この場所は、ランチ帯に昼食をとるお客に利用されますが、それ以降の午後は比較的、空いています。そのスペースを有効利用しています。
「こども食堂」の開催は店頭のポスターやチラシで告知、店舗周辺に住む子どもと、その保護者を募ります。参加者が一緒に食事をしたり、レジ操作や商品陳列をしたりする、さまざまな体験イベントを用意しながら、同じ地域の人たちの交流を促しています。
開催可能な店舗スペースは、店舗ごとに異なりますが、参加人数は毎回約10人、参加料金は小学生以下が100円(税込み)、保護者(中学生以上)400円を基本としています。
食べ残しや食物アレルギーに配慮するため、事前に複数のメニューから選択できるようにしています。店舗スタッフの人件費や食材費など、開催にかかわる基本費用は全てチェーン本部が負担しています。
ファミリーマート執行役員サステナビリティ推進部長の岩崎浩氏は「ファミマこども食堂」の意義を次のように話します。
「私たちのこども食堂は、地域のこどもたちや、その保護者の方たちが、共に食卓を囲み交流する機会を提供することで、地域の活性化を応援する取り組みです。子どもたちへの支援の有無に関わらず、どんな形であっても、交流する場になればいいなと思い、オープン形式で始めました。特にコロナ禍になり、地域の方たちがリアルで交流する機会が減少しました。こども食堂の再開により、ご近所の方たちも、お子さまが集まっている姿を見て、日常に戻ったと実感するのではないでしょうか」
再開した世田谷の店舗には4家族8人が集まりました。子どもたちが集まって、笑顔ではしゃぐ姿は、来店客にとって、平和な一コマになるでしょう。
移動販売車も子ども食堂も、地域コミュニティにとって意義深い取り組みです。チェーン本部にとっても、ブランドイメージの向上につながるメリットがあります。
一方で、運用する店舗によっては、現状の人手不足が喫緊の課題で、それどころではないといった声も聞こえてきます。チェーン本部も、オーナーの自主的な取り組みとして、その実行を指導する立場を取りません。
しかし、コンビニの将来を見据えると、人々の行動範囲は確実に狭くなっていきます。狭小商圏が進行すると、同じ店に高頻度で通うお客が増えていきます。もちろん、近くにある店舗が重宝されますが、同じA店、B店、C店であれば、地域コミュニティの中で“顔の見える”店主のコンビニに足が向くようになると思います。
加盟店オーナーの自主的な取り組みではありますが、これまで以上に、チェーン本部のサポートについても期待したいところです。
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