障害者が力を発揮できる職場をつくるには 経営者が取るべき対応を解説
障害者の法定雇用率は段階的な引き上げが進み、中小企業でも障害を持つ社員を増やす対応が求められます。しかし、障害のある社員を採用したものの、すぐに退職してしまったという苦い経験を持つ経営者はいませんか。障害のある社員はもちろん、社員全員が働きやすい職場を築くにはどうすればいいでしょうか。経営者が取り組むべき環境整備について、コンサルティング会社・識学のシニアコンサルタント山本裕輝さんが解説します。
障害者の法定雇用率は段階的な引き上げが進み、中小企業でも障害を持つ社員を増やす対応が求められます。しかし、障害のある社員を採用したものの、すぐに退職してしまったという苦い経験を持つ経営者はいませんか。障害のある社員はもちろん、社員全員が働きやすい職場を築くにはどうすればいいでしょうか。経営者が取り組むべき環境整備について、コンサルティング会社・識学のシニアコンサルタント山本裕輝さんが解説します。
障害者雇用促進法によれば、民間企業における障害者の法定雇用率は2023年7月現在で2.3%です。つまり、43.5人以上社員がいる会社は1人以上の障害者を雇用しなければなりません。
法定雇用率は24年度に2.5%、26年度には2.7%へと引き上げられます。2.5%で40人以上の企業が、2.7%で38人以上の企業が対象となります。今後、法定雇用率がさらに高くなる可能性も考えられるため、中小企業の経営者はいつまでも障害者雇用と無関係ではいられません。早めの体制づくりが肝心です。
障害者の雇用を決めたなら、採用活動に移る前に会社にとって必要な業務を確認しておきましょう。そして、そのポストを担う人材を障害の程度を踏まえた上で採用します。
このとき、障害者の雇用そのものをゴールとし、その社員が可能な仕事をわざわざつくり出すような考えはやめてください。障害の有無にかかわらず、社員には会社のために働いてもらわねばなりません。最初から戦力として見なそうとしない態度は障害者に失礼です。
障害者が実力を発揮してもらうためには周囲の理解が不可欠であり、それを醸成するための鍵は社内ルールです。まずは、下記を含めたルールを定めてみましょう。
特に、精神に障害がある社員にとっては、やるべきこと、やらなくてよいこと、やってはいけないことの線引きは重要と言えます。これらが明確になっていないために、他の社員から「なぜこんな簡単なこともできないのか」と責められてしまうかもしれないからです。筆者が以前、コンサルティングの依頼を請け負ったビルメンテナンス会社のケースをみてみましょう。
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その会社には、周囲とうまくコミュニケーションが図れず、単純作業しかできない社員がいました。毎回指示を受けなければ何をしてよいか分からないのですが、自分から聞きに来ようとはしません。
管理者が上機嫌なら適当な仕事をしても何も言われませんが、不機嫌だとものすごい剣幕で怒られる状態でした。その社員はなぜ自分が怒られるのか分からず、管理者におびえながら日々働かねばならなかったのです。
しかし、解決策は単純です。各清掃場所にチェックリストを設けた上で、それを終えたら管理者を呼ぶというルールを設定しました。その社員も何をすべきか明確なので仕事に集中できますし、管理者も社員の仕事の出来に満足するようになったのです。
ルールの設定によって、障害のある社員だけでなく、その周りの社員も働きやすくなります。例えば、誰かが障害のある社員の助けに入らねばならないとき、ルールがなく「気付いた人がカバーしましょう」という方針だと、特定の社員に負担が集中してしまいます。「なぜ私ばかりが……」と社員が不満を抱く恐れもあります。
障害のある社員が本来すべき努力を怠り、当初の目標を達成できなかったとしたら、次に向けた改善行動を考えるべきですが、ルールが決まっていないと、「障害があるから仕方がない」とその社員を特別扱いしてしまいがちです。これは、障害者への理解を妨げる原因になります。
「あの人は何も仕事をしていないくせに特別扱いされている」などという心ない批判が出たら最悪であり、そんな空気のなかで障害者が仕事に集中するのは無理です。
もちろん、健常者と障害者で守るべきルールが違っても問題ありません。ただし、お互いがどういうルールの下で動いているかを知っておかないと、社員の間で誤解が生まれるため注意が必要です。
ルールはどうしても後から増えていくものですが、何度もルールを作り直していると、障害者を特別扱いしているように見えてしまいます。起こり得る事態をじっくり想定しながら経営者はルール策定に当たりましょう。
障害者にヒアリングを行いつつルールを整えていく形で問題ありませんが、聞き出した内容をルール化する権限はあくまで会社側にあることを忘れないでください。
ここまで「障害者を特別扱いすべきでない」と述べてきましたが、例えば、車いすに乗っている社員のためのバリアフリー化は個別調整には当たりません。会社が責任を持って、社員が働きやすい環境を整えているだけです。個別調整とは、あくまで本来すべき役割を怠った社員への指摘をしないことです。
せっかくルールを作ってもルール違反を繰り返す人がいます。それを問いただすと、「申し訳ございませんでした」と謝罪するので、悪気はないように見えますが、再度ルール違反をする。もしかしたら、精神の障害があるのかもしれません。こんなときはどうすればよいでしょうか。
「最低限守るべきルールを守れず、成果も出ないとなれば、役割を果たせずに会社に貢献できていないと見なさざるを得ない。周囲に悪影響も与えかねないので、評価が下がってしまうがそれでもいいのか?」と本人に伝えた上で、もしルール違反がなおらないのであれば、本人のパフォーマンスに応じて給与を変更する検討をします。
始末書を書いてもらうのも選択肢の一つです。脅しではなく、小さなミスを放置したために、大事な取引が破断になる可能性もゼロではありません。パワーハラスメントを疑われないためにも、指導の履歴が書面で残る始末書は有効です。
加えて、経営者はその社員に自分の行動を改善する意思があるか確認しましょう。それがあるならば、どうやってルール違反を防げるか本人に考えさせてください。
その社員に変化を促すには、自分自身で「このままではまずい」と危機感を抱いてもらわなければなりません。会社側が解決策を提示するよりも、相手にボールを渡して、改善策を持ってこさせるアプローチを繰り返す方が効果的です。
専門家の診断が下っていなくとも、経営者の目から精神的な病を負っているように見える社員がいたとします。くれぐれも、その人に「何をやっているんだ」や「ふざけているのか」といった罵声を浴びせてはいけません。「病院に行け」と突き放す態度もパワハラと変わらないでしょう。
経営者としては選択肢の一つとして精神科への受診を提示してあげるべきです。私なら、次のような言い方をします。
「頑張ろうとしている姿勢は伝わりますが、もしかしたら慢性的な問題のせいでうまくいっていないのかもしれません。不安なのであれば、病院へ行って専門家の見解を聞くのも一つの手です」
障害者にとっても健常者にとっても働きやすい職場づくりは、経営者にしかできない仕事です。ぜひ、本記事の内容を参考にしながら挑戦してみてください。
識学シニアコンサルタント
近畿大学を卒業後、新卒でアイリスオーヤマ株式会社に入社しルート営業を経験。株式会社リクルートライフスタイル(現株式会社リクルート)に転職後は、ホットペッパーの営業として大手法人の経営コンサルティングやエリア責任者としてマネジメントに従事。自身のマネジメントに悩んでいる中、識学と出会い、自身と同じ悩みを抱いている方々の役に立ちたいと考え識学に転職。
(※構成・平沢元嗣)
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