「適所適材」で女性が働きやすい環境を 経営者に求められる役割を解説
2022年7月から、従業員数301人以上の企業に男女の賃金格差などの情報開示が義務付けられるなど、経営者には女性社員の働きやすい環境づくりを進める責任が一層求められるようになりました。コンサルティング会社・識学シニアコンサルタントの長島史明さんが、「女性活躍」を進めるため、中小企業の経営者が果たすべき行動と役割について解説します。
2022年7月から、従業員数301人以上の企業に男女の賃金格差などの情報開示が義務付けられるなど、経営者には女性社員の働きやすい環境づくりを進める責任が一層求められるようになりました。コンサルティング会社・識学シニアコンサルタントの長島史明さんが、「女性活躍」を進めるため、中小企業の経営者が果たすべき行動と役割について解説します。
女性の活躍を推進する上で最初に考えたいポイントは、任せる仕事についてです。女性社員に活躍してもらいたいからといって、その社員のスキルや適性にあった仕事を無理やり与えたり、あるいはつくり出したりしていませんか。
このような「適材適所」の考えで社員の仕事を決めてはいけません。組織にとって不必要な仕事が生まれてしまうためです。社員からしても、せっかく成果を残したのにそれが会社の発展につながらなければ、いい思いはしないはずです。社員の役割を決める際は、最初に自社に必要な仕事をピックアップし、そのポジションに今いる社員を当てはめるか、場合によっては新たに人を採用して仕事を任せていきます。この「適所適材」の考えが大切です。
重たい荷物を日常的に動かすような腕力が必要な仕事でもない限り、性別で仕事を分けるべきではありません。「これは男性、これは女性」などと区別しているようでは女性活躍への道は程遠いでしょう。
次に大切なのは評価の仕方です。性別に関係なく立場が同じなら評価項目を同一にするのはもちろん、「積極性」や「協調性」といったあいまいな観点ではなく、数字で分かる結果だけを見て評価するようにしてください。
項目を定量化すれば公平な評価が可能になります。積極性のような要素を評価項目にすると、評価者と被評価者の間で認識のずれが生じます。つまり、評価者の目から見て5段階中「2」の評価に見えた社員が、「自分は『4』ないし『5』の評価を得られて当然」と考えているケースがあるのです。
あいまいな評価項目を採用している会社では、成績に関係なく上司のお気に入りの社員が高い評価を得ていきます。「出世したければ上司に気に入ってもらう必要がある」となれば、男女関係なく社員にとっては大きなストレスです。それに、女性社員がしっかり成果を残したとしても、「あの人は女性だからひいきされている」といったやっかみを受ける恐れさえあります。
↓ここから続き
しかし、定量評価であれば、誰の目から見ても認識のずれが起きませんから成果を正しく評価できます。女性社員も仕事に集中でき、働きやすくなるでしょう。
結果だけで評価を下すと聞くと、「冷たい」という印象を抱くかもしれません。頑張っても結果を残せない社員はいるため、気持ちは分からなくもありませんが、数字に表れない点を評価しようとするから不平等が生まれてしまいます。
もし積極性を評価したいのであれば、「新規顧客を10件開拓する」、「業務効率改善提案を5件出す」といったように、数字に見える形で評価項目を決めてください。
女性が活躍する会社になるためには、まず女性に入社してもらわなければならず、そのためには会社の経営基盤を盤石にする必要があります。女性社員は妊娠・出産を機に、一時的あるいは永続的に会社を離れる可能性があるからです。
仮に、半年前に中途で入った女性社員の妊娠が分かったとき、経営基盤が安定していなければ、もう一度採用活動を実施する選択はできません。その余裕がない会社は男性を採用せざるを得なくなる可能性があります。
しかし、せっかく優秀な女性が応募してくれたのに採用できないのは、組織にとって大きな損失になります。妊娠・出産は素晴らしいことで、会社としては大切な社員を最大限サポートできる体制を整えたいところです。
女性が働きやすい福利厚生面については、社員の要望が届く仕組みを設け、そこに寄せられた声を参考に制度をつくるといいでしょう。小さな子供を育てている女性社員が、送り迎えがしやすいように時短勤務やフレックス勤務をしたくなったら、誰でもその要望を出せるようにしておくのです。もちろん、それを認めるかどうかは経営者の判断によります。
経営者が直接女性社員に「働きにくいと感じていませんか」とヒアリングする形だと時間がかかり、即座に対応できません。現場の声がどんどん上がってくる体制を整えてください。
経営者は日ごろの女性社員とのコミュニケーションにも気を付けるべきです。といっても、「女性社員に居心地のよさを感じてもらうために、積極的に経営者が声をかけるべきだ」と言うつもりはありません。
むしろ逆に、コミュニケーションは必要最低限にとどめ、部下とは距離を置いてください。そして部下との会話では、男女問わず感情的なやり取りは控えましょう。
男性が多い職場だと、中には経営者の頻繁な声かけを求める女性社員がいるかもしれませんが、しかし、それを周囲で見ている社員にしてみれば、「なぜ、彼女ばかり社長に特別扱いされているんだ」と不満を抱くようになります。それが嫌がらせに発展する恐れもありますし、「特別扱いを受けているようで居心地が悪い」と感じる女性社員が出てきてしまうでしょう。
不要なコミュニケーションを減らすには社内ルールの整備が有効です。そもそも、なぜコミュニケーションが必要かというと、「自分ではどうすればよいか分からないから」です。きちんとルールが整備されていれば、社員は上司の顔色をうかがわずルールに基づいて仕事に取り組めるようになります。
これは男女問わず起こりうる話ですが、経営者や管理職が感情を抑えて接しても部下が感情的になってしまうケースがあります。例えば、淡々とアドバイスをしている最中に、部下が涙を流してしまったときは、その部下が冷静になるのを待ちましょう。
これを機に社員に言うべきことが言えなくなる経営者や管理職がいますが、それではだめです。
本来すべき指摘ができなくなれば組織全体が機能不全に陥ります。泣いてしまっても頭をすっきりさせてからもう一度頑張ろうという切り替えができるのであれば、指導する側が気にする必要はありません。フレンドリーに話しかけるのではなく、上司と部下の位置関係が崩れないように丁寧な口調で接するくらいで問題ないでしょう。
もちろん、パワーハラスメントは許されません。感情的なやり取りを組織から完全に取りのけるのであればパワハラは起きないでしょうが、人間に感情が備わっている以上、それは難しいです。経営者はパワハラ専用の通報窓口を設け、社員から相談があった際には即座に対処するようにしてください。
筆者は以前、社員数約150人のうち7割を女性が占める会社でコンサルティングをした経験があります。女性がこれだけ多い会社の担当になったのは初めてでしたが、本記事で紹介したような方法を伝え実践してもらったところ、何の問題もなく業績を伸ばすことができました。
以上、女性活躍を目指す企業が留意すべきポイントについて見てきました。世の中に「男性活躍」という言葉はありません。女性の活躍が当たり前の社会になれば自然と「女性活躍」という言葉も使われなくなるはずです。社会全体がそこへたどり着くために、自分たちにできる課題を一つひとつ乗り越えていきましょう。
識学シニアコンサルタント
上智大学経済学部を卒業後、株式会社オリエンタルランドに総合職として入社。経理や店舗開発に従事したのち、識学に転職。2019年12月にシニアコンサルタントに就任。
(※構成・平沢元嗣)
(続きは会員登録で読めます)
ツギノジダイに会員登録をすると、記事全文をお読みいただけます。
おすすめ記事をまとめたメールマガジンも受信できます。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。