目次

  1. SIPストアとは 即食需要だけでない商品展開
  2. 「あるべき店舗の大きさ」と新たな商品・売り方を模索
  3. 鈴木敏文氏が半世紀前に示したコンビニの姿とSIPを比較
    1. 長時間営業
    2. 年中無休
    3. 日用品・最寄品の充実した店
    4. ベストセラー商品をつくらない店
    5. 売上よりも荒利益率を重視する経営
    6. システムによるチェーン経営
    7. 狭い商圏で成立する経営
    8. 客層は主体が男性と子どもそれに共働き夫婦
    9. スーパーの2分の1の客単価で成立する経営
    10. 地域住民と密着した店づくり

 2023年のコンビニ業態全体の売上高は11兆6593億円(2023年1~12月の売上累計、日本フランチャイズチェーン協会調べ)と全店ベースで前年を上回っています。年間来店客数も全店ベースで3.0%増、既存店ベースで2.9%と、コロナ禍や値上げの影響があるにせよ、やや明るい兆しを見せています。

 一方、コンビニ業態全体の店舗数を見ていくと、2019年12月末から2023年末までの4年間でわずか93店舗しか増えていません。

 セブン-イレブンに限れば、2020年2月末から2024年までの4年間で580店舗を増加させるものの、2010年代の前半から中頃にかけて年間1000店舗以上を増加させた勢いと比較すると、国内において低成長期に入ったように見えます。

左からセブン-イレブン・ジャパン代表取締役社長の永松文彦氏とイトーヨーカ堂執行役員 食品事業部長の加藤聖子氏(2024年2月27日の説明会)
左からセブン-イレブン・ジャパン代表取締役社長の永松文彦氏とイトーヨーカ堂執行役員 食品事業部長の加藤聖子氏(2024年2月27日の説明会)

 そうした状況にあって、セブン-イレブンは業態そのものを変えていく、新たな店舗コンセプトを実証実験が始まりました。その店舗が2024年2月29日、千葉県松戸市に開設した「SIPストア(セブン‐イレブン松戸常盤平駅前店)」です。既存のセブン-イレブンをリニューアルした新コンセプト店舗として注目を集めています。

 「明日の朝食用として、焼くだけでおいしく食べられる魚や、明後日の昼食に利用する冷凍食品、これらを今日の即食用のファストフードと同時に買える場を、お客様に提供しています。どんな反応を得られるのか検証したいと考えています」(セブン-イレブン・ジャパン執行役員 企画本部ラボストア企画部 山口圭介氏)

数店舗で実験中の焼きたてピザ。オーダーを受けて店内のオーブンで焼き上げる。マルゲリータは税別723円、照り焼きチキン税別815円
数店舗で実験中の焼きたてピザ。オーダーを受けて店内のオーブンで焼き上げる。マルゲリータは税別723円、照り焼きチキン税別815円

 現在の即食需要だけでなく、明日、明後日に利用する商品を展開、店舗の利用動機を広げて、スーパーマーケットやドラッグストアなど異業態の競合とも十分に戦える新コンセプトを展開していくとしています。

 売場面積は88坪で、通常のセブン-イレブン(約45坪)の1.8倍、SKU(単品)数は5300で、通常(3300) の1.6倍、店舗運営に要する人時数は通常の約1.5倍と、既存店を拡充した店舗としています。

 店舗名は、22年8月、セブン‐イレブン・ジャパン(SEJ)と同じグループのイトーヨーカ堂(IY)が締結した「セブン-イレブン・ジャパン(SEJ)・イトーヨーカ堂(IY)・パートナーシップ(通称SIP)」に由来します。

 目的は商品やサービスにおける相互供給、アプリを通じた相互送客などの販売促進などをテーマにシナジーの最大化を図ること。その延長線上に今回の「コンビニとスーパーの強みを融合させた新型店舗(SIPストア)」があります。

 「次世代セブン-イレブンの模索が主旨。(既存店)平均日販は70万円ありますが、まだ取り込めていないニーズがある以上、まだまだ伸長させる余地があります。あらゆる事業会社のリソースを活用したときに、どのくらい変わるのだろうか。それを知るための手段としてSIPストアがあるのです」(山口氏)

SIPストアのレイアウトイメージ
SIPストアのレイアウトイメージ

 SIPストアが今回の強みにしたのが、図表のように店舗の4割を占める左側の売場です。IYから集めたり、新規に投入した食品で構成したりしています。プライベートブランド(PB)「セブンプレミアム」のデリカテッセンに加えて、生鮮三品、日配品、冷凍食品、調味料、加工食品といったスーパーマーケットで扱う品揃えを充実させています。

冷凍食品は、素材やミールキット、弁当用おかず、パスタ、おやつなど扉ごとに分類、その対面の棚には、調味料や乾物、缶詰、レトルト食品などスーパーマーケットの食品を取り入れた
冷凍食品は、素材やミールキット、弁当用おかず、パスタ、おやつなど扉ごとに分類、その対面の棚には、調味料や乾物、缶詰、レトルト食品などスーパーマーケットの食品を取り入れた
オープン時に拡販した「とちおとめ」税込390円。都内のスーパーマーケットと同等か、低い価格で訴求。果物は約40アイテムで冷蔵ケースでのカットフルーツに特徴を持たせている
オープン時に拡販した「とちおとめ」390円(税込み)。都内のスーパーマーケットと同等か、低い価格で訴求。果物は約40アイテムで冷蔵ケースでのカットフルーツに特徴を持たせている
玉ネギ、ジャガイモ、ニンジン ホウレン草、キャベツ、レタス、長ネギといった、回転の早い基本商材をゴンドラのエンド近くで販売、並びのゴンドラで、合わせ調味料やレンジ商品などを関連販売している
玉ネギ、ジャガイモ、ニンジン ホウレン草、キャベツ、レタス、長ネギといった、回転の早い基本商材をゴンドラのエンド近くで販売、並びのゴンドラで、合わせ調味料やレンジ商品などを関連販売している

 今回の取り組みにより、一つは「全体最適」につながる検証をしていきます。将来的に「あるべき店舗の大きさ」はどのくらい必要なのか、SIPストアをもとに研究開発していく意向です。もう一つは「部分最適」情報の獲得です。既存店に水平展開できる、新たな商品・売り方を見つけていきます。

 SIPストアは、2024年度中に立地や商品に変更を加えながら、もう1店舗を出店して検証を深めていくとしています。

 セブン-イレブンに変わる新たな業態を、ただちに展開していくわけではありません。商品や物流は変更できても、既存店の敷地や建物は簡単に拡張できないからです。

 セブン-イレブンは1号店から1000店舗まで、わずか7年で到達しました。それは当時70万軒あったとされる中小食料品店の人材と資産を活用できたからであり、今と小売業を取り巻く環境が異なります。

 ただし、顧客の変化に対して、既存の店づくり、売場づくりにおいて対応に遅れが生じていることは事実であり、SIPストアの全体最適、そして部分最適の検証が待たれます。

 改めて、コンビニ業態の原理・原則が、この半世紀で、どのように変化したのか、それを既存店で解決できるのか、あるいはSIPストアの検証に委ねるのかを考えていきます。

セブン-イレブンを実質創業した鈴木敏文氏(2016年4月7日、退任表明の会見)
セブン-イレブンを実質創業した鈴木敏文氏(2016年4月7日、退任表明の会見)

 テキストは1975年の夏、日本におけるセブン-イレブンの実質創業者である鈴木敏文氏が、コンビニ経営の詳細を語った講演会(マス・マーチャンダイジング・フェア)の記録です(『販売革新』1975年10月号「イトーヨーカドーの担当役員(鈴木敏文氏)がはじめて明かすコンビニエンスストア経営に関する10章」より)。

 1号店の開店から1年とすこし、まだ30店舗の時代に、鈴木氏はコンビニについて、10の特徴を挙げて説明しています。そこで、鈴木氏の10の特徴とSIPについて比較してみましょう。

 「当社では、すでに24時間営業の店舗を2店持っている。将来は、全体の半分を24時間営業にする考えだが、そのためには、当然のことながらワークスケジュールのシフト制をどう確立していくかがポイントになる」(同誌)

 ここで24時間営業全店導入の結論を出していませんが、その後、基本的に全店24時間営業に移行します。2008年2月の時点で「非24時間営業」は48店舗、比率にして0.4%でした。

 しかし、深夜にシャッターが閉まる、オフィスビルなどの施設内店舗が増えた影響もあり、18年2月には816店舗、4.0%に伸長します。そしてコロナ禍になり、その数と比率が急激に伸びていきます。2023年5月には1997店舗、9.4%に達します。コロナ禍で人の出が悪くなり、一般の路面店を含めて加盟店が自主的に24時間営業を取りやめた影響です。

住宅立地から始まった出店は、現在さまざまな立地で、お客のいる場所に近づき、利便性を提供する中で非24時間店舗も増えていった(北海道女満別空港の店舗 2023年9月撮影)
住宅立地から始まった出店は、現在さまざまな立地で、お客のいる場所に近づき、利便性を提供する中で非24時間店舗も増えていった(北海道女満別空港の店舗 2023年9月撮影)

 2023年5月8日に新型コロナが5類に移行、アフターコロナになっても非24時間営業の店舗は増え続けます。直近の24年2月には2094店舗、9.8%に達します。セブン-イレブンの10店に1店は、24時間営業ではなくなっているのです。

 他のチェーンでも深夜ワンオペ(1人勤務)の従業員に適用される1時間の休憩時間のために23時間営業に切り替える店舗も出始めました。ワンオペの是非はともかく、労基法順守の観点からも必要な処置と思います。

従業員1人で深夜帯にオペレーションする、あるコンビニチェーンの店舗では、休憩時間取得のため1時間のみ店を閉めている(都内の店舗、2023年2月撮影)
従業員1人で深夜帯にオペレーションする、あるコンビニチェーンの店舗では、休憩時間取得のため1時間のみ店を閉めている(都内の店舗、2023年2月撮影)

 SIPストアは24時間営業店ですが、今後も非24時間営業店の比率は高まっていくと予想されます。人手不足と人件費の上昇により、立地によって割に合わなくなっていくためです。

 ただし、忘れてはいけないのは、深夜帯には、医療介護従事者や土木作業員、長距離トラックドライバー、タクシー運転手、ビル清掃員など、私たちの生活を支える方たちがコンビニを頼りにしている事実です。たとえば、セルフレジと監視カメラを用いた売場無人化によるコスト削減などにより、24時間営業を継続できる方法を考えていくことも、一方で必要です。

 「年中無休というと、直感的に仕事が大変であると思われるが、それは何もシフトを組まないで考えるからであって、ワークスケジュールを正確に立てれば、いくらでも解決できる。それどころか、いまの状態で月2回や3回の休みをとるよりも年中無休、24時間営業の方がよほど楽であることが、実際やってみるとよくわかる」(同)

 鈴木氏の後に続く説明によると、オーナーが不在でも、いつ、何を、どこへ、どのくらい発注し、陳列するかが分かるような「システム」を組むべきであるとし、それにはワークスケジュールが必要であると強調しています。要は管理者であるオーナーが、いちいち指示しなくても、店を回していける仕組みと、それを支える従業員教育を求めているのです。

 この時代は大規模小売店舗法(大店法)により、大型店は「定休日」の設定を余儀なくされていました。しかし2000年に大店法が廃止されてからは、スーパーマーケットやショッピングモールは正月休みを除いて定休日をなくしていきました。それにより創業時から「他店よりも長い営業時間」を原則とするコンビニの年中無休は、さらに強固となりました。

 現在に通じる原則です。当時は電球がよく切れるので売れていました。紙製品(トイレットペーパーなど)は昔も今も売れているようです。時代により、コンビニに求められる日用品・最寄品は変化しますが、SIPストアを含めて、それらの充実は今後も変わらないでしょう。

 ここでいうベストセラーとは、極端に売れる商品を指します。売れるのは近隣に扱っている店舗がたまたまないだけで、そこに注力する売場づくりではいけないと戒めています。

 「ベストセラー商品があること自体は悪いことではないが、しかしそれではコンビニエンスストアの形態にはならない。こういう店をコンビニエンスと考えたら大きな誤りであり、出発から失敗することになる」(同)

 近年、外国人観光客が訪れるコンビニでは、ある大手メーカーの化粧品が大ヒットして箱ごと“爆買い”される事態になりました。こうしたベストセラー商品を、通常の発注で品揃えでき、補充も続けられ、売場を維持できる仕組みはあってよいと思います。それには、個店によるスポット買いなどではなく、継続して仕入れができる、本部の供給体制が求められます。

 コンビニ創業期には、業態の確立を優先して、ベストセラー商品を排除して、コンビニエンスな商品を突き詰めてきました。

 しかし、今は、小さなチャンスを拾い上げ、ヒットにつなげていく機動力が求められています。特に流行に敏感なスイーツにはチャンスがあり、2019年にローソンが仕掛けた「バスクチーズケーキ」などはSNSの力も借りてベストセラー商品となりました。

 SIPストアを含めて、成熟したマーケットを刺激する、ベストセラー商品の登場に今後も期待したいです。

 現在でも、無理に安くして、粗利益率を削り、売上を稼ぐような方法をコンビニは採用していません。「ディスカウントしなければ客を呼べないとすれば、それはすでにコンビニエンスから外れた品揃えをしている証拠であって、コンビニエンスストアのあるべき姿からいえば、問題外の店」(同)と鈴木氏は断じています。SIPストアでも、セール価格で集客する販促は実施していません。

 鈴木氏は「とにかくシステムなくして成立しないというのがコンビニエンスであり、すべての発想はそこから出発しなければならない」(同)と、システムが大事なんだと講演では一貫して語っています。

 コンビニの生産性についても、チェーン経営でなければ実現できないといいます。例えば、配送ひとつとっても、コンビニの店当りのロットは極めて小ロットになるため、チェーン経営でなければコストダウンは不可能と語っています。

 「チェーン化の目的はコストダウンにあるという明確な路線のもとにシステムが構築されねば、コンビニエンスストアは成立しないのである」(同)

 コンビニの生産性は半世紀を経過しても加盟店にとって解決すべき課題です。いかにしてシステムを駆使して人件費を抑制するか、セルフレジの導入も、検品不要の採用も、自動補充発注も、そうした流れの中にあります。

 AIの活用もすでに始まっており、精度の高い売上予測に基づく発注数量の提案などにより、廃棄ロスの削減などで効果を出しています。創業時に全く念頭になかったであろう最新デジタルが、いわゆる「システム」に組み込まれていく中で、チェーン経営は、より精度を向上させる必要があるでしょう。

 当初は首都圏の住宅街をドミナント(商勢圏)にしたので、「コンビニエンスストアは、あくまで徒歩の客が主体であるが、車を無視してはならないのだ。調査をしてみると、徒歩5分くらいでも車で来店する客がかなりあり、車だから遠方からくると考えたら誤りである」と鈴木氏はイメージしています。

 その後、出店立地は、幹線道路沿いや繁華街、観光地、オフィス立地へと拡大しています。家からだけではなく、移動の途中や移動先で、立ち寄る需要に対応しています。現在は、病院や学校、高速道路のSA・PA、工場、オフィスビルといった来店客の限定的な商圏においても出店しています。この先も、さらに細部に入り込み、便利な買物の場を提供していくでしょう。

 ここは現在と大きく異なるところです。

 「コンビニエンスストアというのは、主婦が目的買いでいくところではないことが理解できるはずである。したがって、主たる客層は主婦以外の男性、子供、共稼ぎの夫婦、そしてOLという順序になる」と半世紀前に鈴木氏は語っています。

 SIPストアをはじめ既存店においても、女性、高齢者に向けた品揃えを強化して、実際に集客しています。もっとも国民の平均年齢が上がり、店舗数も増やしてきたのですから、「それ以外」の客層に拡大していく政策は当然といえるでしょう。

 「スーパーでは、少なくとも2~3日、あるいは1週間分の商品をまとめて買うが、コンビニエンスでは1時間以内に消費する商品を買う。こう考えていくと、品揃えは、スーパーのそれとは、まったく違っていなければならないのだ」(同)

 この1時間以内に消費する商品をそろえた売場づくりは、現在でも多くが当てはまります。しかしながら、SIPストアは、それまでの常識を更新するために、明日、明後日でも消費できる品揃えを提案しています。客単価も既存のコンビニより高くなっていくでしょう。

 ここはとても大切な指摘です。当時、セブン-イレブン30店舗のうち直営店は9店舗ありましたが、フランチャイズ店の方が、微妙に良い成績が分かってきたのです。

 「なぜ、こういう当然の考え方をあえて述べるかというと、実際、実験してみて、地域住民に密着していることが、いかに商売上重要であり、かつ強いものであるかを身にしみて感じたからである」(同)

 当時は地域に根を張る酒販店や米穀店、食料品店にコンビニへの転換を促して加盟店の拡大を図ってきました。店主は地域商圏を熟知しており、品揃えや接客に反映できました。直営店に使命を帯びて配属された社員でも、地域に密着した店主の水準に届かなかったのです。

 現在のコンビニは、昔から同じ地域で商売を営む店主は影を潜め、脱サラオーナーや、複数店を経営する会社の“雇われ店長”が表に出てきています。

 一方で、人口が減少し、コンビニや、それ以外に競合店が増え、その結果、自店の商圏が縮小していく中で売上を維持、増加させるには、新規集客を図る以上に、同じお客に足繫く、通ってもらう店づくりが大切な姿勢になってきます。

 その意味でも、半世紀前と同様か、それ以上に「地域住民(近隣の事業所に通う社員も含む)と密着した店づくり」は、目指していく姿となると筆者は考えます。

 SIPストアは、生鮮食品や日配品を扱い、食品スーパーに近い品揃えも有しています。しかしながら、レジは従来のコンビニと同様にカウンターに設置しています。精算時に、お客を横に流していく食品スーパーとは異なり、コンビニの従業員は真正面で接客します。新しいコンビニの姿は半世紀前と同様に、地域住民としっかりと向き合っていくようです。