目次

  1. バイラルマーケティングとは?
    1. バイラルマーケティングが普及した背景
    2. 他のマーケティング手法との違い
    3. バイラルマーケティングの種類
  2. バイラルマーケティングの効果的なやり方
    1. 目標とターゲットの決定
    2. 配信チャネルの選定
    3. 魅力的なコンテンツ制作
    4. コンテンツ投稿
    5. 効果の分析
  3. バイラルマーケティングの注意点
    1. 広告であることを明記する
    2. 商品・サービスの信頼を損ねる可能性がある
    3. 情報の拡散スピードを考慮する
  4. バイラルマーケティングの成功事例
    1. ロッテの「Fit’sダンスコンテスト」キャンペーン
    2. サントリーホールディングスの「ペプシJコーラ」キャンペーン
    3. エイチ・アイ・エス(H.I.S)の「タビジョ」キャンペーン
  5. バイラルマーケティングを実践して効果的な認知度アップを目指す

 バイラルマーケティング(Viral marketing)とは、消費者同士が自発的に情報を共有することで、商品やサービスの認知を急速に拡散させるマーケティング手法です。

 例えば、面白い動画や印象的な商品を見た人が仲間にシェアしたくなり、それが次々と拡散されていくような現象を狙って作り出すことを指しています。

 「バイラル」とは「ウイルス性の」という意味で、ウイルスのように情報が人から人へと広がっていくことからこの名称が付けられました。主にインターネットを通じた口コミにより、低コストで効果的な認知の獲得を目指す手法です。

 バイラルマーケティングの普及した背景には、大きく分けて5つの理由があります。

 1つ目は、1990年代半ばからのインターネットによるデジタル上でのコミュニケーションの発展です。これにより、人々が簡単に情報を共有できる環境が整いました。

 2つ目は、FacebookやX(旧Twitter)、LINE、YouTubeやブログなど、ソーシャルメディアの台頭です。これらのメディアによって、従来のテレビや新聞といった媒体では届かなかった多くの人々に情報を届けられるようになりました。

 3つ目は、コスト効率の良さです。バイラルマーケティングは、大きな予算をかけなくても、アイデアと共有されやすい要素があれば、高い効果を生み出すことができます。

 4つ目は、消費者と感情的なつながりを作ることができる点です。感情に訴えかけるコンテンツは自然と共有されやすく、その結果として商品やサービスの認知が拡大するばかりでなく、商品やサービスに対する親近感や信頼感が生まれます。

 5つ目は、技術の進化です。データ分析や対象者を絞り込む技術が発展したことで、商品やサービスの提供者は効率的にメッセージを伝えられるようになりました。このようなターゲティング精度の向上に合わせて、バイラルマーケティングの成功しやすさも向上しています。

 バイラルマーケティングと似た手法に、バズマーケティングやステルスマーケティングがあります。以下にそれぞれを比較してみます。特にステルスマーケティングは2023年10月1日から景品表示法違反となっていますので行わないようにしましょう(参照:令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。丨消費者庁)。

特徴 バイラルマーケティング バズマーケティング ステルスマーケティング
定義 消費者の自発的な口コミを利用して情報を拡散する手法 意図的に話題を作り出し、口コミを広げる手法 宣伝であることを隠して、消費者に自然な口コミのように見せる手法
目的 自然な拡散を促し、商品やサービスの認知度を高めること 短期間で大きな注目を集め、商品やサービスの認知度を高めること 消費者に広告と気づかれないように、商品やサービスを宣伝すること
拡散の方法 魅力的なコンテンツが自発的に共有されることによって拡散 インフルエンサーやメディアを利用して意図的に拡散 企業側が意図的に情報を発信し、消費者に広告と気づかれないように拡散
信頼性 実際の使用感などが含まれる口コミであり、信頼性が高い 人為的な介入が多く、信頼性は低くなる可能性がある 消費者が広告であることに気づくと信頼性が大きく損なわれる
コスト 低コストで実施可能だが、質の高いコンテンツ制作には労力が必要 短期間で成果を上げるために広告費がかかる場合も 広告費に加えて、発覚時に信頼性を喪失する高いリスクがある
成功事例 ロッテの「Fit's」ダンスキャンペーンなど、自然に広まった事例が多い 特定のキャンペーン(例:SNS上のハッシュタグキャンペーン)などで話題化 有名人やインフルエンサーによる口コミに見せかけた広告(例:SNS投稿)など

 バイラルマーケティングは、大きく2つの種類に分類されます。自社の状況に合わせて最適な方法を選択すると良いでしょう。

①一次的バイラルマーケティング

 一次的バイラルマーケティングとは、消費者の自発的な口コミを引き出す手法のことです。自発的な口コミという不安定な要素を味方につける必要があるため、消費者の感情面への訴求と提供されるコンテンツや素材をしっかり練り込む必要があります。また、ソーシャルメディアに共有ボタンを設置するなど、共有のしやすさにも配慮が必要です。

②二次的バイラルマーケティング

 二次的バイラルマーケティングは、インセンティブを活用した情報の拡散手法です。友達紹介プログラムや商品レビューを書き込むと、おまけがもらえるキャンペーンなどが代表例です。

 ここでは、バイラルマーケティングの効果的なやり方をご説明します。

 バイラルマーケティングを効果的に進めるための第一歩は、明確な目標設定とターゲット層の特定です。ただ単に「話題になればいい」「バズればいい」という漠然とした目標では、効果が期待しにくくなります。リーチ数、いいねの数、共有回数、コンバージョン率の上昇、認知度の向上、商品販売数の増加など、具体的な数値目標を設定してみましょう。

 例えば、「1カ月以内にX(旧Twitter)での商品紹介投稿のリポスト数を3倍に増やす」などです。目標設定とともにターゲットとなる層の特定も行います。年齢、性別、居住地域といった基本的な属性に加え、興味関心、ライフスタイル、消費行動などの詳細な特性まで把握することで、刺さりやすく効果的なコンテンツの設計ができます。

 さらに、ターゲット層が普段どのようなコンテンツを共有しているのか、どのような文脈で商品やサービスについて紹介し合っているのかなど、オンライン上での行動パターンを分析することで、バイラル性の高いコンテンツを作り出すヒントが得られる場合もあります。

 次に、ターゲット層が活発に活動しているソーシャルメディアを選びましょう。各ソーシャルメディアには、それぞれ特徴的な消費者層と独自の共有文化が存在します。

 例えば、TikTokは若年層を中心に尺の短い動画コンテンツが好まれますし、Instagramでは視覚的に魅力的なコンテンツが人気を集めます。ソーシャルメディアごとの特性を理解し、自社のメッセージや製品特性に適したチャネルを選定することがポイントです。また、単一のソーシャルメディアに限定せず、複数のチャネルを組み合わせて実施することで、より広い波及効果も期待できます。

 口コミを誘発するコンテンツの核は、消費者の共感を呼び、自発的な共有を促すストーリーとなります。単なる商品情報の発信ではなく、視聴者の感情に訴えかけ、共有したくなるような物語性が伝わる要素を盛り込みましょう。

 感動的なストーリー、意外性のある展開、ユーモアや笑いのある表現、自分も真似をしたくなるような要素などが効果的です。

 また、時事的な話題やトレンドと絡めることも有効です。コンテンツの形式については、動画、画像、テキストなど、選定したソーシャルメディアに最適な形式を選択します。

 特に見た目のインパクトは大切で、最初の数秒で消費者の興味を引くことができるかどうかが、バイラル拡散の成否を左右します。さらに、消費者が自分なりの解釈や感想を加えやすいコンテンツ設計も、拡散を促進する要素の一つです。

 効果的なコンテンツ配信には、投稿計画と適切なタイミングが欠かせません。ソーシャルメディアに存在するターゲット層の行動パターンを分析し、最も活発に活動している時間帯を特定して投稿することで、初期段階での露出を最大化できます。

 例えばX(旧Twitter)では、夜の20〜21時代に最もユーザーがアクティブなことが多いです。他にも、朝の通勤・通学の時間帯である6〜8時、ランチタイムの12〜13時もユーザーが多くなります。また、投稿直後の数時間が特に重要で、この時間帯にコメントやシェアの反応を促進するための施策を実施すると良いでしょう。例えば、影響力のあるインフルエンサーとの協力や、ハッシュタグキャンペーンの実施なども効果的です。

 バイラルマーケティングの成功確率を高めていくために、効果分析は欠かせません。目標段階で定めた数値指標について、どのようなコンテンツや投稿タイミングが高い効果を生んだのかを分析します。

 また、数値だけでなく、コメントやシェア時の反応がどうだったのか、質的な分析も大切です。消費者がどのような文脈でコンテンツを共有しているのか、どのような感想や解釈を加えているのかを知ると、より効果的なコンテンツ制作につなげることができます。

 さらに、競合のバイラルマーケティングの分析も有益で、うまく行っている会社の成功事例から学びつつ、自社の独自性を活かしたコンテンツの制作につなげることができます。

 次にバイラルマーケティングを行う上での注意点です。

 バイラルマーケティングにおいては、コンテンツが広告・マーケティングの一環であることを開示することが大切です。

 消費者にわかるように開示しないとステルスマーケティングとなり、消費者の信頼を大きく損なったり、企業ブランドにも大きな悪影響を及ぼしたりします。投稿内容が広告である場合は「#PR」などのハッシュタグを使用し、広告・マーケティングである旨を示す必要があります。また、第三者的な記事のようなの体裁を取ったコンテンツでも、「この記事は広告です。」といった形で、広告である旨や、広告主を明記することが必要です。

 現代においては、あえて広告であることを明示することが信頼関係の構築につながり、結果として施策の効果を高めることにもなります。

 バイラルマーケティングは、情報拡散を消費者に委ねる性質であるため、時として意図せぬ方向に情報が拡散されてしまうリスクがあります。商品やサービスの特徴を過度に誇張したり、実態とかけ離れた大きな期待を抱かせたりするようなメッセージは、後々のクレームなどにつながりかねません。また、インパクトを重視するあまり、商品やサービスの本質的な価値とかけ離れたコンテンツを展開してしまうケースもあります。

 その商品やサービスが本来持つ価値や特徴を正しく伝えることを意識し、誠実なコミュニケーションを基本としながら、クリエイティブな要素を付け加えていく方法が望ましいでしょう。

 インターネット上での情報拡散は、そのスピードの速さが特徴です。一度拡散が始まると、それを制御することは困難です。そのため、特にネガティブな反応や批判的なコメントへの対応方針は、事前に明確にしておきましょう。著名な炎上とその対応例で、スープストックトーキョーの「離乳食の無償提供」に伴う炎上と、その対応があります。

 「離乳食の無償提供」は好意的な意見も多かった一方で、「落ち着かなくなる」、「狭い店舗にベビーカーはどうなのか」などの声が上がり、炎上しました。スープストックトーキョーでは1週間後にWEBサイトで下記のような声明を発表し、沈静化しています。

 「食のバリアフリー化を進めており、グルテンフリーや、ベジタリアン対応スープの販売、ハラル商品の開発(現在は終売)、咀嚼が困難な人にも外食時のサポートができるよう、咀嚼配慮食サービスの開始、コロナ禍での医療従事者への食事の無償提供などの活動を行っており、離乳食の無償提供もその一環である」(参照:離乳食提供開始の反響を受けまして丨スープストックトーキョー

 また、情報拡散の初期段階で問題が発見された場合は、迅速な対応が求められるため、キャンペーンの修正や中止の判断基準も、あらかじめ決めておくと良いでしょう。例えば、社内ガイドラインを策定し、 SNS利用に関するルールを明確化しておきます。個人アカウントでの会社に関する情報発信の禁止、機密情報の取り扱い、差別的な発言の禁止などを規定しておきます。誤ってガイドラインに該当するキャンペーンが行われた際には、あらかじめ担当を決めておき、キャンペーンを即時停止し謝罪するなどの基準を設けておくのも一案です。

 一方、拡散スピードの速さを活かし、良好な反応を得られた際は、それを最大限に活用できるよう、フォローの施策も準備しておくとより効果的です。

 ここでは、バイラルマーケティングの成功事例を紹介します。

 ロッテのガム製品「Fit's」は、若年層のガム離れという課題に直面していました。調査によると、若者たちは「なんとなく」「面倒くさい」といった曖昧な理由でガムを避けていることが判明しました。この課題に対し、ロッテは従来の商品訴求から方向転換し、若者の「仲間とゆるくつながりたい」という心理に着目したバイラルマーケティングを展開しました。

 CMでは、商品特性を直接的に語るのではなく、歌とダンスを通じて「やわらかさ」や「仲間とのシェア」という価値を表現しました。さらに、YouTubeを活用した「Fit'sダンスコンテスト」を実施し、オリジナルアレンジ作品の再生回数を競うという形式を採用しました。

 キャンペーンでは、楽曲ダウンロードやダンスレクチャームービーなど、参加者への充実したサポートを合わせて提供しました。結果として、総再生回数2,100万回以上を記録し、1,732本もの動画が公開され、実質的に1,700以上のCM別バージョンが制作されたのと同様の効果を得ました。

 ユーザー自身に「積極的に宣伝するとメリットを得られる」と思わせる仕組みにすれば、知名度の大きな向上につながる可能性が高いことがわかる事例です。

 サントリーは、TikTokを活用してオリジナル曲に合わせたダンス動画を制作し、有名人に踊ってもらう形で拡散しました。この施策は大きな話題となり、総再生回数は1,800万回を超え、ダンスを真似した投稿も2万件以上に達しました。こちらの事例のポイントは、ターゲット選定とターゲットが良く利用するSNSを活用する点です。若年層がよく利用しているSNSに目を当てて、そのSNS上でどのように商品を広げるかを考えた結果、若年層の間でのバイラル効果を狙った成功事例となりました。

 旅行代理店のH.I.Sは、「タビジョ」というInstagramアカウントを開設し、「#タビジョ」というハッシュタグを用いた旅行先での投稿を促進しました。観光地や体験をレポートするアンバサダーを募集し、質の高いユーザー生成コンテンツ(UGC)の創出を図りました。「#タビジョ」のハッシュタグを付けて投稿された旅先の写真や動画を公式アカウントでリポストしさらに拡散、ユーザーを巻き込んだコンテンツ循環を生み出すことに成功し、141万件以上の投稿があり、フォロワー数も8.6万人を超えるなど、大きな話題となりました。

 バイラルマーケティングを展開するときは、H.I.Sの「タビジョ」のように、「自分もそうなりたい」や「自分もしてみたい」と思える新しくて魅力的な言葉を使うのも効果的でしょう。

 バイラルマーケティングは、デジタル時代において低コストで実現できる効果的な認知向上の手段として可能性を秘めています。消費者の自発的な共有行動を活用することで、比較的低コストで大きな効果を得られる点は、特に中小企業やスタートアップにとって心強い選択肢となるでしょう。事前の準備と誠実なコミュニケーションを心がければ、予想以上の手応えを感じることができるはずです。

 ぜひ、自社の特性や強みを活かしたバイラルマーケティングに挑戦してみてください。