目次

  1. 「現金が尽きなければ会社は倒産しません」
  2. 資金繰り表で見つけた経営再建の道筋
  3. 漠然とした不安、具体的な改善項目に変わった

 田中工業所は1949年に創業し、排水処理装置の一種であり、泡を使って水中の浮遊物質を除去する「加圧浮上装置」という機械の製造を主力としてきました。

 実家の母から会社が倒産間際であることを聞いた直後に、後継者である兄が32歳という若さで事故死しました。両親を心配した田中さんは、兄の葬儀の1ヵ月後に実家へ戻りました。

 「継ぐ気はない。でも、いずれ誰かに継いでもらえる会社に」との思いで、経理関連の資格を取ると、さっそく経営分析に取り掛かります。しかし、当時は債務超過状態だったため、収益性、成長性も正しく評価ができませんでした。

 やるべきことを求めて、ひたすらWEB検索するなかで出会ったのが「資金繰り表を作りましょう」という言葉でした。続けてこう書かれていました。

 「どんなに赤字が続いていても、現金が尽きなければ会社は倒産しません。逆に利益があっても現金が尽きれ倒産します。資金管理が大事です」

 そこで、資金繰り表を作成してみると、借入金を返済できる、またはできないという根拠を示す事ができるので、銀行の担当者に納得してもらいやすかったり、絶対に延滞してはいけない支払いを優先させられたりしたといいます。

 また、口頭での受発注が多く、請求漏れがあったり、手形取引が多く、入金までの期間が長かったりといった課題が見つかり、資金繰りの改善に優先順位をつけて取り組むことができました。採用や報酬の見直しなど費用の掛かる取り組みや、攻めの営業に切り替えるときも、資金繰り表で支出のタイミングを見計らいながら取り組んでいきました。

 資金繰り表を生かして改善を続けるなかで気づいたことがあります。それは、漠然とした不安が具体的な改善項目になったことです。

 「資金繰り表をつくらず、あれもやってみよう、これもやってみようとしていたら、きっと支出が増えたり、売り上げが増えてもそれに耐えうる残高がなかったりして大変な思いをしていたかもしれません。こうした点に注意しながら変えていけたことがよかったと感じています」

 資金繰りに余裕が生まれると、心にも余裕が生まれた田中さん。「健全なお金の増やし方をするためには、まず人が健全である必要があります。人を大事にできる会社になるためには、お金(資金繰り)と人の両方に向き合うのが経営なのだと考えられるようになりました」