目次

  1. 老舗メーカー2社の働き方改革
  2. 設備投資で作業効率アップ
  3.  多能工化で労働時間を短縮
  4. 朝礼・面談で従業員と向き合う
  5. 「お互いさま」と思える雰囲気を
  6. 働き方改革の失敗事例は

 菅谷食品は1947年、関本さんの妻の祖父が創業しました。製造している納豆は自社ブランドとOEM(相手先ブランドによる製造)を合わせて約80種にのぼり、首都圏や東北、九州のスーパーなどに年間約700万食を出荷しています。全国納豆鑑評会で「日本一」に輝いたこともあります。

 キットセイコーは1940年、田邉さんの祖父・弘さんが田辺製作所として創業。東武螺子製作所という社名を経て、1989年に現社名になりました。ねじ1本から対応できるのが強みで、市販のねじには使われない特殊金属の加工も可能です。小惑星探査機「はやぶさ」のねじも手がけています。

 両社は、労働時間や無駄な作業を削りながら、付加価値の高い商品を送り出すための実践例を紹介しました。

 関本さんは20年ほど前に菅谷食品に入社し、まずは従業員ごとにバラバラだったという出社時間を統一。朝礼の時間も設けました。

 「従業員同士の朝の挨拶や連絡事項の共有が必要だろうと始めました。当社は一時期、人の入れ替わりが激しい時期があったんです。以来、従業員と面談の時間を設け、1人1人と話す機会を作っています」

 従業員の労働時間が長くなりすぎないよう、作業効率を上げるための設備も導入しました。

 「わら納豆などは手作りの工程が多く、機械化が難しい商品です。しかし主力商品である『つる姫納豆』などは、品質に影響しない工程において機械化を進めました」

 機械化を進める上で、周囲を説得する苦労もあったと関本さんは話します。しかし朝礼を始めたことで従業員も次第に関本さんを認めてくれるようになり、設備を導入することができました。

 田邉さんは、25年ほど前にキットセイコーに入社します。当時はあと2~3年で定年退職を迎える職人が多く、若手がまったくいない状況だったといいます。

 「まずは若手を採用して、職人の技術を承継することが課題でした。しかし、製造業は夜遅くまで、忙しいときは深夜まで作業することもあります。若手を採用しても、労働環境が原因で2~3年で辞めてしまうことがしばしばありました」

 そこで田邉さんは、忙しい時期に従業員同士が互いに作業を手伝い合えるよう、1日の労働量を8割程度に設定します。多能工化を進め、残りの2割は他の従業員の作業を手伝えるようにしました。

 現場での整理整頓にも力を入れました。 

 「一度、工場で使う工具を通路にすべて出してみたことがあったんです。同じ工具がいくつもあり、ものが多すぎたことに気づきました。そこで、若いメンバーを中心に工夫しながら整理整頓を進め、ものを探す時間を減らすことができました」

 菅谷食品の朝礼では、挨拶や連絡事項の共有以外に、商品に寄せられた声、食にまつわるニュースなど、さまざまなことが話題に上がるといいます。

 「おいしい納豆は、従業員全員のチームワークでできています。朝礼で顔を合わせることで、従業員が悩みや問題を抱えていた場合に異変に気づくことができるんです。さらに1対1で面談の機会も設け、他の従業員の前では言いにくいことや、意見や提案などもすくい上げています」

 キットセイコーの田邉さんは、従業員同士が作業を手伝う環境を作るにあたって、「子育てをしているパート勤務の女性や介護が必要な家族がいる従業員が、互いにフォローして気軽に休めるような雰囲気づくりを心がけました」と語りました。

 「自分が休むときにフォローしてもらえるように他の従業員を手伝うという、『お互いさま』と思える雰囲気を浸透させていっています」

 またキットセイコーでは、不良品を見つけた従業員に「ベストストッパー賞」を授与し、表彰するというユニークな取り組みもしています。

 「不良品の発見は本来必要なことですが、見つけた従業員を責めるような形にしてしまうと、発見そのものが難しくなってしまいます。従業員のモチベーションを下げずに心理的安全性を保った上で、適切に不良品を見つけてもらうために、取り組みを始めました」

 トークセッションでは視聴者から「定着しなかった取り組みや失敗事例」に関する質問が寄せられました。2人はそれぞれ次のように答えました。

 「従業員アンケートはあまりうまくいきませんでした。やはり1対1で話すことが重要で、アンケートという形式で意見を引き出すことは難しかったです」(関本さん)

 「高い実績を上げた従業員を評価し、ボーナスをたくさん出すという取り組みを行ったことがありますが、うまくいきませんでした。適切に評価することは必要ですが、すべての従業員が安定して生活できるよう、極端な差をつけないようにしています」(田邉さん)