米国関税措置を受けた緊急対応パッケージ 中小企業向けのポイントを整理
杉本崇
(最終更新:)
米国関税措置を受けた緊急対応パッケージ(内閣府の公式サイトから https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/tariff_measures/pdf/package_250425gaiyou.pdf)
米国による関税措置は、自動車産業をはじめ、幅広い産業や地域経済に影響を及ぼす可能性があります。特に、多くの中小企業にとっては、事業の先行きに対する不確実性を高める新たな課題となっています。日本政府は2025年4月25日、「米国関税措置を受けた緊急対応パッケージ」を決定しました。たとえば、すでに優先採択をすると決めた「ものづくり補助金」や「新事業進出補助金」に加え、中小企業の生産性向上に関係する幅広い補助金でも優先採択をする方針です。
米国関税措置を受けた緊急対応パッケージとは
米国関税措置を受けた緊急対応パッケージとは、トランプ関税を巡る政府の支援策をまとめたものです。
石破首相は、総理大臣官邸で4月25日に開催した第3回米国の関税措置に関する総合対策本部で、トランプ関税に対し「日本企業が投資や雇用創出を通じて米国経済に大きく寄与している事実を明確に伝えつつ、一連の関税措置の見直しを強く求めていくことが極めて重要であります」としつつ、中小企業への支援策や低所得者世帯への給付などを緊急対応パッケージとしてまとめました。
ただし、2024年度補正予算や2025年度当初予算に盛り込まれている政策など、米国関税措置を受けた対応以外の政策も含まれています。
緊急対応パッケージのなかから、中小企業支援に関係する部分を整理します。
不安解消と情報提供のための相談体制強化
政府は、まず中小企業向けに相談体制を強化していることを明らかにしました。
• 日本貿易振興機構(JETRO)や日本政策金融公庫など全国約1000ヵ所に特別相談窓口
• 支援を必要としている企業へ積極的に働きかけるプッシュ型の支援ができるよう、省庁の地方支分部局や関連団体に相談窓口等の体制整備
資金繰りなどの経営基盤強化支援
米国関税措置により輸出が停滞したり、取引条件が悪化したりする企業、特に中堅・中小企業には、金融支援を強化しています。
• セーフティネット貸付の要件緩和と金利引き下げの対象拡大の検討
• 資本性劣後ローンの活用促進
• 融資手続の迅速化に向けたオンライン手続きの周知
• 既往債務に係る返済猶予や条件変更等を含めたきめ細かな資金繰り支援の徹底要請
• 国際協力銀行(JBIC)による融資を通じた海外事業関連の支援
• 自動車部品サプライヤー等へ電動車部品製造や技術適応などの事業転換を支援する「ミカタプロジェクト」での集中支援
• 納税猶予の柔軟な運用
雇用維持と人材育成支援
このほか、生産調整や減産の影響により、雇用が不安定化することを防ぐための支援も強化します。まず、全国の労働局・ハローワーク等における丁寧な相談対応に加え、雇用調整助成金をなどの手続き迅速化をするといいます。
リスキリングを推進するため、改正雇用保険法に基づき、2024年10月には、教育訓練給付の給付率引き上げたほか、2025年10月には、教育訓練休暇給付金を創設します。
教育訓練給付や、職務に関連した専門的な知識・技能を習得させるための中小・中堅企業への訓練経費等の助成についても、充実させる方針です。
産業構造転換と競争力強化に向けた支援
政府は、日本の産業構造の転換と国際競争力の強化を加速させる方針も示しました。
半導体、蓄電池、医薬品、そして農産品等の重点分野における国内投資や輸出を促進する補助制度・戦略分野国内生産促進税制や、経済安全保障分野での研究開発税制を活用し、戦略産業の育成を推進すると説明。
農林水産分野では、影響を受ける農林水産事業者・食品事業者等に対し、生産体系等の転換支援で優先採択をします。
中小企業の賃上げ原資の確保・拡大を後押しするため、価格転嫁の徹底や生産性向上に向けた支援を掲げています。特に、賃上げ定着に不可欠な価格転嫁対策を徹底するため、現在国会に提出されている下請法等改正法案の早期成立に向け着実に取り組むとしています。
すでに優先採択を行うこととしている「ものづくり補助金」や「新事業進出補助金」に加え、中小企業の生産性向上に係るより幅広い補助金においても優先採択を行うとしています。
JETROなどを通じた中堅・中小企業の海外展開支援や、農林水産事業者・食品事業者等の輸出支援を強化します。グローバルサウス諸国における実証事業への支援なども関連施策として挙げられています。
ガソリン価格や電気・ガス料金の引き下げも
直接的な中小企業支援ではありませんが、緊急対応パッケージには、ガソリンの暫定税率や電気・ガス料金の引き下げも含まれています。
「旧暫定税率(当分の間税率)」についての結論を得るまでの間、現行の燃料油価格激変緩和対策事業を組み直し、5月22日からガソリン・軽油は10円、重油・灯油は5円程度の引下げ幅が示されています。
電気・ガス料金についても使用料が増える7~9月の3ヵ月間、電気・ガス料金支援を実施します。
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この記事を書いた人
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杉本崇
ツギノジダイ編集長
1980年、大阪府東大阪市生まれ。2004年朝日新聞社に記者として入社。医療や災害、科学技術・AI、環境分野、エネルギーを中心に取材。町工場の工場長を父に持ち、ライフワークとして数々の中小企業も取材を続けてきた。
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