企業のSNS活用のメリットと運用の注意点 ブロガー徳力基彦さんに聞く
Facebook、Twitter、Instagramなどで情報発信する企業が増えています。SNSを効果的なブランディングやマーケティングPR戦略につなげるにはどう活用すれば良いでしょうか。アジャイルメディア・ネットワーク元代表で、人気ブロガーでもある徳力基彦さんの昨冬のインタビューから具体的な活用法を紹介します。(聞き手・水野梓、編集・富谷瑠美)
Facebook、Twitter、Instagramなどで情報発信する企業が増えています。SNSを効果的なブランディングやマーケティングPR戦略につなげるにはどう活用すれば良いでしょうか。アジャイルメディア・ネットワーク元代表で、人気ブロガーでもある徳力基彦さんの昨冬のインタビューから具体的な活用法を紹介します。(聞き手・水野梓、編集・富谷瑠美)
目次
「企業活動においては、投資対効果は考えるべきですね。個人的にはリアルのコミュニケーションよりデジタルの方が投資対効果は高いと思います。担当者の1時間の打ち合わせを減らし、そのぶんをSNSに投下すれば、長い目でみれば効果が高いのではないでしょうか」
徳力さんはSNS活用についてそのように解説します。では、なぜデジタルのコミュニケーションの方が効果は高いのでしょうか。
「リアルのコミュニケーションは言葉が消えてしまいます。100人に向かって講演などで話していても、聞いてくれる人って8割ぐらい。ほとんどの人が僕の言葉は忘れちゃいます。しかし、デジタルのコミュニケーションは残るんです。Google検索で見つけてくれたり、フォロワーが僕の書いたタイミングではなく違う時に気づいて読んでくれたりすることもあります」
「ネットのコミュニケーションは、聞きたい人が聞きに来てくれる『プル』のコミュニケーションなんです。知りたい人が能動的に情報にアプローチしているので、同じ人数に伝えても、デジタルのコミュニケーションの方がしっかり伝わっているのではないか、というわけです」
日本企業がビジネスシーンで活用しているSNSには主に以下の5つがあります。
Facebookは実名参加型のSNSです。マーク・ザッカーバーグがハーバード大学在籍時に立ち上げました。インターネット上では匿名のコミュニケーションが当たり前とされていましたが、その流れを大きく変えたSNSと言われています。
企業の場合はFacebookページを開設し、フォローしてくれるファンを獲得していくことが目標。フォローしてくれたFacebookユーザーに対して、自社のFacebookページで投稿するニュースやキャンペーン情報などを投稿してアプローチしていきます。
広くコミュニケーションツールとして普及したLINEは個人の場合、電話番号に紐づけてアカウントを開設することができます。企業の場合はLINE公式アカウントを開設して運用します。
LINE公式アカウントは情報を届けたい顧客に「友だち追加」してもらい、その「友だち」に対してニュースやプロモーション情報などを配信します。プッシュ通知を送信するため、メルマガなどに比べてユーザーの開封率が高い傾向があります。
Twitterはメールアドレスや電話番号で認証しますが、匿名でも登録・利用が可能です。気になるユーザーを「フォロー」するとその人や企業の情報がタイムライン上に表示されるようになります。
また、気軽に他アカウントのツイートを「リツイート」できるため、情報の拡散力が高いSNSです。その反面、誹謗中傷に使われやすい、“炎上”を起こしやすいといった注意すべき点も併せ持っています。
Instagramが上記のSNSと異なるのは“画像がメイン”である点です。“インスタ映え(ばえ)”という言葉が示すように、芸能人やタレントがよく活用しています。このほか、アパレルや食品、海外旅行サービスなど、写真や動画の美しさでユーザーに訴求できるのが強みです。
ユーザーに「フォロー」してもらい、ファンのプールを増やしていく仕組みは同じですが、近年は「インスタライブ」という機能が企業のマーケティング・販促に積極的に活用されています。
たとえば、コスメを使ってメイクしていく様子や、レストランで実際に美味しそうに食べている様子を動画で流す、といったような、いわば「TVショッピングのオンライン版」として効果を上げています。
Youtubeは動画に特化したSNSで、“Youtuber(ユーチューバー)”という言葉が生まれるほどです。彼らは自身で作成した動画をアップロードし、間に企業広告の動画を挟むことで収益を上げています。
企業自身がYoutubeチャンネルを設けているケースもありますが、Youtube用のショートムービーを作成して、広告プログラム上で流してもらうことで販促やマーケティングにつなげている企業の数も多いと言えます。
以上のように、SNSごとに特徴があります。徳力さんは「大切なのは、既存のお客さんとのコミュニケーションで始めることです」と指摘します。
「みんなSNSを『Twitterでバズると大勢に知ってもらえる』『ネットの見込み顧客を捕まえたい』といった広告手段の一つだと思い込んでいますよね。ですが知らない相手に話を聞いてもらうってとてもハードルが高いことです。
だから『数千人に届かないと手応えがない』と思わず、数人でも反応があったり、聞いてくれたりするならラッキーと思ってもらいたいです」(徳力さん)
短期間でフォロワー数だけを重視してしまうと、企業としてアカウントを運用し続ける意義を見出せなくなってしまう可能性があります。何年も情報が発信されていない「ゴーストアカウント」を目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
「リアルのコミュニケーションでは、目の前の人の反応をうかがい、うなずいてくれたか、しっかり届いたか、『質』を求めていますよね。デジタルでもそれを意識できるかどうかが、長続きできるどうかにかかってきます」(徳力さん)
これまでのインタビューを踏まえて、中小企業のSNS活用には、具体的にどのような成功事例があるのでしょうか。徳力さんに聞いてみました。
まず、中小企業のSNSの取り組みに関する成功事例についてです。徳力さんは飲食店「豚組」を例に挙げました。
「そもそも『豚組』は2009年にTwitterを始めており、SNS活用の先駆け的な存在です。Twitter上でお店の予約ができることでも有名でした」
しかしコロナ禍の影響を受け、六本木で経営していた豚しゃぶ屋の閉店を決意。noteで発表すると、予想外の反響があったといいます。再出店への支援を募ったクラウドファンディングも始まり、1000万円以上が集まりました。
徳力さんいわく、豚組はもともと、TwitterやnoteなどのSNSを組み合わせて、お店に来ていない人に対するコミュニケーションにも力を入れていました。結果的に、これがコロナ禍における集客や応援につながったのではないかと指摘します。「大きな反響があった事例ではありますが、いち飲食店でもできるということを参考にしてほしいですね」
徳力さんがもう一つの事例として挙げたのが、寿司屋「鮨ほり川」の事例です。73歳の店主が、TwitterやnoteなどのSNSを使いこなしています。寿司の写真がふんだんに使われた、おすすめメニューの告知などは来店意欲をそそります。コロナ禍にあっても、積極的にSNSで情報発信を続けたことから、テレビ局の取材も受けたそうです。
「SNSの活用に年齢も知識も関係ありません。最も大切なのはコミュニケーション能力であって、ツールに関する知識や慣れは後からついてくるのではないでしょうか」
45年の集大成が詰まった【ほり川スペシャル8,000円】おすすめです コース内容 ①前菜、野菜の浅漬け ②おつまみ(3品) ③とまとうふ鍋 ④オリジナル握り(9品) ※旬により内容は変わります —73歳すし屋のツイッター【現役】(@sushi_horikawa)2020年6月10日
最後に、気になる炎上対策についても聞いておきましょう。企業の名前でSNSアカウントを運用する以上、ひとたび炎上すれば企業イメージを損なうことにもつながりません。
「まず前提として、ビジネスの場でジェンダーや政治などの話題は避けたほうが鉄則。プロスポーツ、例えば野球やサッカーなどの話題も同様です。
信条、主張が個々人によって異なるものや、好き嫌いが大きく分かれるものについて積極的に言及するのはリスクがあります。この点はSNSだからといって変わりません。
フォロワーを増やそう、そのために多くの人の注意を引こうとして、攻めた内容にするのは本末転倒です」
「言葉遣いなどについても、自分の上司や母親に見られても恥ずかしくない内容にしましょう。未だに『インターネットは匿名で過激なことをいう場所』という古い概念を持ち続けている人もいますが、企業の顔として運用する以上、すぐに意識を切り替えるべきでしょう」
とはいえ、人間のすることにミスはつきもの。もし炎上してしまった場合はどうしたらよいのでしょうか。
「まず、きちんと謝罪し、投稿を削除するか訂正をすることです。これも対面のコミュニケーションと同じ対処方法といえます。ほとんどの炎上については、それで“鎮火”できるでしょう」
「逆に延焼したり“大炎上”となってしまうのは、いきなり投稿を消したり、言い訳や反論をしたり、無視してそのまま放置したりすることです。これもリアルコミュニケーションのケースと同じです。クレームや意見を言ったら無視された、となると、実店舗の顧客でも“頭にきた!”と怒りが増すのは想像がつきます。
お客さんを目の前にしてそんなことをする店員はほとんどいないかもしれません。しかしSNSの場合は“炎上慣れ”している担当者なんてほぼいません。大慌てで対応してしまった結果、より火に油を注ぐことになったケースも多々あります」
「繰り返しになりますが、SNSはコミュニケ0ションのプラットフォームが変わっただけの話なので、ビジネスにおけるコミュニケーションの基本に立ち返って対応することを意識しましょう」
もともと、日本はリアルコミュニケーションが重視される国でした。しかしコロナ禍ではデジタルコミュニケーションが強制的に進みました。
この状態では「インターネットを使わないデメリットの方が大きくなりつつあるといっても過言ではありません」と徳力さんは話します。
現在もビジネス上の問題がなければ、中小企業が無理にSNSを始める必要はないかもしれません。しかし、徳力さんは「いずれにせよ、早いうちにデジタルコミュニケーションを始めておいた方が損はないはずです」と力説します。
「SNSは本質的には個人のツールだと思う」と語る徳力さんは、企業アカウントも過渡期にあると話します。
「会社名でアカウントを作る会社が増えるということは、それだけ競合も増えるということです。会社側が一方的にプロモーション情報などを投稿していっても、多くのフォロワーを獲得するのは難しくなってきました。
人と人同士のコミュニケーションをしていないので、人気が出ないんですね。運用する担当者が「中の人」として練ったコンテンツを投稿する企業もありますが、内容の精査も大変ですし、継続できる企業はわずかではないでしょうか」
「今後、企業で働く人すべてが個人アカウントを作って発信することはありえないかもしれません。しかしもっと多くの人が所属企業を示した上で、個人でSNSを発信するのがその会社のブランディングにつながっていくのではないかと思います」
かつては、テレビCMや新聞・雑誌広告などに莫大な予算を投下しなければ企業プロモーションが難しい時代もありました。しかし現在は、一般人や中小企業であっても、SNSを使って情報発信ができる時代です。臆することなく、活用への第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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