「小さくほっこり」は目指さない 醸造会社8代目はデザイン力を強みに
創業150年を超える「光浦醸造」(山口県防府市)は、8代目社長の光浦健太郎さん(44)が、伝統のみそやしょうゆに加え、レモンティーや環境に配慮したストローなど、話題性の高い商品を送り出しています。光浦さんへのインタビュー後編は、ヒットの舞台裏や、同社の強みになったデザインへのこだわりに迫りました。
創業150年を超える「光浦醸造」(山口県防府市)は、8代目社長の光浦健太郎さん(44)が、伝統のみそやしょうゆに加え、レモンティーや環境に配慮したストローなど、話題性の高い商品を送り出しています。光浦さんへのインタビュー後編は、ヒットの舞台裏や、同社の強みになったデザインへのこだわりに迫りました。
――光浦さんは直訴して31歳で家業を継承し、商品ラインアップを、BtoBからBtoCに広げました(前編参照)。光浦醸造の知名度を一気に高めたヒット商品「フロートレモンティー」の誕生秘話を教えてください。
地元で乾燥機メーカーを営む高校の同級生が、ドライフルーツの試作品を見せてくれたのが、開発のきっかけです。輪切りの乾燥オレンジを見て、紅茶に浮かべたらいいかもしれないと、思いつきました。
商品の発送に適した、軽くて付加価値のある商品を求めていた時に、ドライフルーツと出会い、乾燥レモン付きのレモンティーにつながりました。
――当初から勝算があったのでしょうか。
開発を始めたときは、みそを買ってくれた人へのおまけのつもりで、オンラインショップで売れたらいいなくらいの、軽い気持ちでした。経営の柱になるとは、思ってもいません。
ただ、手応えはありました。フーデックスという食品展示会で、自社商品の「ひよこ豆みそ」や「まほうだし」の片隅に、フロートレモンティーの試作品を置いたところ、バイヤーのリアクションがとても良かったんです。
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シンプルな商品なので、既存のものがあると思っていましたが、バイヤーの皆さんは「こんなの見たことない」、「面白い」と言ってくれました。「もしかしたら売れるかも・・・」と思ったのを覚えています。
――バイヤーの意見が商品化の後押しになったんですね。
バイヤーの「見る目」は、間違いないと思っています。(生活雑貨の製造企画やブランド開発を手がける)中川政七商店(奈良市)に、フロートレモンティーを扱っていただくようになった後、紅茶に浮かべる乾燥レモンをハート形にすることを思いつきました。
商品開発の段階では、中川政七商店のバイヤーの方に、価格やパッケージデザインの方向性など、ずうずうしいくらい、ご意見を聞かせていただきました。
バイヤーの方には、本当に育ててもらいました。BtoC商品の展示会で初めて商談についたとき、問屋さんに「卸値を教えてほしい」と聞かれて、「卸値って何ですか?」と問い返したくらい、私は何も分かっていませんでした。
それでも、親身になって話を聞いてくれたのは、私の年齢が若く、BtoCに関して無知だったからだと思います。バイヤーの方に可愛がってもらえるのは、若いうちに社長になるメリットかもしれません。
――光浦さんは、商品のパッケージデザインも自身で手がけています。もともとデザインに造詣があったのですか。
まったくの素人です。デザインは好きじゃなかったし、当時はデザイナーに気取ったイメージを抱いていて苦手でした。
何度か印刷会社やデザイン事務所に依頼してもうまくいかず、独学でデザインソフトのイラストレーターやフォトショップの使い方を覚えました。
――フロートレモンティーのパッケージは、温かみがあるデザインが特徴です。
レモンティーのことだけ考えれば、レモンのさわやかさや、フレッシュなイメージを出そうとしたかもしれません。
でも、当初はみそを買ってくれた人へのサービスのつもりだったので、「みそ屋がつくるレモンティー」という前提で考えました。
参考にしたのは、会社に保存してあった明治・大正時代のみそやしょうゆのラベルです。レトロな文様をつかったデザインで、フロートレモンティーのパッケージにも生かしました。
――2021年7月に発売した「ストロール」というストローは、シートを巻く形状で、繰り返し洗って使えるのが特徴です。
「ストロール」は、小学生の娘の自由研究から着想したプラスチックストローです。ただ、開発段階では、みそ屋がストローを売ることをどうやって発信すべきか迷っていました。
思いがうまく伝わらないと、積み上げてきた光浦醸造のイメージが崩れてしまう可能性があります。そのタイミングで、全国の中小企業30社が参加するデザイン経営支援プログラム「Dcraft デザイン経営リーダーズゼミ」(ロフトワーク主催)の存在を知りました。あらためてデザインやコミュニケーションについて学ぼうと、プログラムに参加しました。
Dcraftで、外部のデザイナーやコピーライターと話し合って決めたのが、「味を、人を、あわせる、」という光浦醸造のフィロソフィーです。この出会いをきっかけに、新商品のデザインなどの相談もしています。
――デザインを生かした経営を進めるうえで、工夫していることはありますか。
パッケージデザインの賞を頂いたり、デザイン誌の表紙になったり。評価していただけることは素直にうれしいです。
ただ、中身を必死に開発していて、商品に対する思いが強いからこそ、デザインが生きるのだと思います。
あるメディアの記事で、「デザインは、みかんの皮のようなものがいい」という文章を読みました。みかんの皮のように、イメージが中身と密接につながっていて、それでいてむきやすい。光浦醸造が目指すべきデザインは、それだと思いました。
そう考えると、商品の中身をつくっている社員が、デザインもできるはずです。私がパッケージデザインや、SNS、ホームページでの情報発信などを全て手がけていましたが、今は少しずつスタッフにも任せています。
自分がそうだったように、デザインは実際にやりながら覚えるのが、一番早く習得できると思います。
――フロートレモンティーやストローなど、老舗の枠を超えて、次々とアイデアを生み出す光浦さんの発想力の源は。
難しく考えすぎないことかな、と思います。勝手に領域を限定して「これはやっちゃダメだ」とか決めつけないようにしています。
ファッションや音楽の好みが変わることは、そんなに珍しいことじゃない。高校のときはサッカー部でも、大人になったらゴルフにはまることだってありますよね。
商品開発も、それと一緒です。そのときの自分の琴線に触れたものと、とことん向き合えばいい。売れる売れないではなく、自己表現をする感覚に近いかもしれません。
フロートレモンティーもストロールも、世の中にないものでした。インターネットで検索しても、どこにもつくり方が出ていない。試行錯誤しながら、自分なりの方法を見つけ出すプロセスが面白かったです。
――コロナ禍の影響はいかがでしたか。
コロナ禍をきっかけに、売り上げは低迷しています。ただ、この状況は来るべくして来たのだと思います。
数年前から売り上げが伸び悩み気味でしたが、踊り場みたいな状況かもしれないと、のんきに構えていたんです。新型コロナが流行しなくても、10年くらいかけて今のような状況に陥っていたと思います。
今、最も足りないのは発信力です。マーケティングにも力を入れていくべきなのに、広告宣伝費はかけないと決めていたので、光浦醸造の公式ウェブサイトは、ほぼ検索エンジンからの流入しかありません。
ストロールは全国放送のテレビでも多く取り上げられました。その流れを生かし、ストロールの新シリーズは、クラウドファンディングを実施する予定です。ストロー表面のデザインの自由度が高いので、企業のノベルティーにも向いています。その需要も掘り起こしたいです。
――最後に、光浦醸造の将来ビジョンを聞かせてください。
以前は主力だったBtoB向け商品が、売り上げに占める割合は全体の1割程度です。BtoCの売り上げの5割がフロートレモンティー、3割がみそ、残りが甘酒や調味料となります。従業員数は入社時の約4倍の26人になりました。
「小さくほっこりオシャレな会社」にだけは、絶対にするつもりはありません。山口県からは、ファーストリテイリングのユニクロ、旭酒造の獺祭など、素晴らしいブランドが誕生しました。光浦醸造も恥ずかしがらず、ユニクロや獺祭のようなブランドを目指します。
「小さくほっこりオシャレな会社」は、県内にもたくさんあります。だけど、事業規模を大きくしていきたいと宣言する会社は、限られます。
やったことがないことに挑戦することが大好きなので、これからは世の中のトレンドにもうまく乗りながら、事業の拡大を目指します。
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