目次

  1. 最初はおまけのつもりだった
  2. バイヤーに育てられた
  3. 独学で覚えたデザイン
  4. ストロー開発に生きた学び
  5. 「やっちゃダメ」と決めつけない 
  6. 発信力に力を入れる
  7. ユニクロや獺祭のように

――光浦さんは直訴して31歳で家業を継承し、商品ラインアップを、BtoBからBtoCに広げました(前編参照)。光浦醸造の知名度を一気に高めたヒット商品「フロートレモンティー」の誕生秘話を教えてください。

 地元で乾燥機メーカーを営む高校の同級生が、ドライフルーツの試作品を見せてくれたのが、開発のきっかけです。輪切りの乾燥オレンジを見て、紅茶に浮かべたらいいかもしれないと、思いつきました。

 商品の発送に適した、軽くて付加価値のある商品を求めていた時に、ドライフルーツと出会い、乾燥レモン付きのレモンティーにつながりました。

光浦醸造の看板となったフロートレモンティー

――当初から勝算があったのでしょうか。

 開発を始めたときは、みそを買ってくれた人へのおまけのつもりで、オンラインショップで売れたらいいなくらいの、軽い気持ちでした。経営の柱になるとは、思ってもいません。

 ただ、手応えはありました。フーデックスという食品展示会で、自社商品の「ひよこ豆みそ」や「まほうだし」の片隅に、フロートレモンティーの試作品を置いたところ、バイヤーのリアクションがとても良かったんです。

 シンプルな商品なので、既存のものがあると思っていましたが、バイヤーの皆さんは「こんなの見たことない」、「面白い」と言ってくれました。「もしかしたら売れるかも・・・」と思ったのを覚えています。

――バイヤーの意見が商品化の後押しになったんですね。

 バイヤーの「見る目」は、間違いないと思っています。(生活雑貨の製造企画やブランド開発を手がける)中川政七商店(奈良市)に、フロートレモンティーを扱っていただくようになった後、紅茶に浮かべる乾燥レモンをハート形にすることを思いつきました。

 商品開発の段階では、中川政七商店のバイヤーの方に、価格やパッケージデザインの方向性など、ずうずうしいくらい、ご意見を聞かせていただきました。

若くして社長になった光浦さんは、周囲の支えで、経営者として成長を遂げました

 バイヤーの方には、本当に育ててもらいました。BtoC商品の展示会で初めて商談についたとき、問屋さんに「卸値を教えてほしい」と聞かれて、「卸値って何ですか?」と問い返したくらい、私は何も分かっていませんでした。

 それでも、親身になって話を聞いてくれたのは、私の年齢が若く、BtoCに関して無知だったからだと思います。バイヤーの方に可愛がってもらえるのは、若いうちに社長になるメリットかもしれません。

――光浦さんは、商品のパッケージデザインも自身で手がけています。もともとデザインに造詣があったのですか。

 まったくの素人です。デザインは好きじゃなかったし、当時はデザイナーに気取ったイメージを抱いていて苦手でした。

 何度か印刷会社やデザイン事務所に依頼してもうまくいかず、独学でデザインソフトのイラストレーターやフォトショップの使い方を覚えました。

――フロートレモンティーのパッケージは、温かみがあるデザインが特徴です。

 レモンティーのことだけ考えれば、レモンのさわやかさや、フレッシュなイメージを出そうとしたかもしれません。

 でも、当初はみそを買ってくれた人へのサービスのつもりだったので、「みそ屋がつくるレモンティー」という前提で考えました。

レトロな雰囲気を漂わせるフロートレモンティーのパッケージ

 参考にしたのは、会社に保存してあった明治・大正時代のみそやしょうゆのラベルです。レトロな文様をつかったデザインで、フロートレモンティーのパッケージにも生かしました。

――2021年7月に発売した「ストロール」というストローは、シートを巻く形状で、繰り返し洗って使えるのが特徴です。

 「ストロール」は、小学生の娘の自由研究から着想したプラスチックストローです。ただ、開発段階では、みそ屋がストローを売ることをどうやって発信すべきか迷っていました。

 思いがうまく伝わらないと、積み上げてきた光浦醸造のイメージが崩れてしまう可能性があります。そのタイミングで、全国の中小企業30社が参加するデザイン経営支援プログラム「Dcraft デザイン経営リーダーズゼミ」(ロフトワーク主催)の存在を知りました。あらためてデザインやコミュニケーションについて学ぼうと、プログラムに参加しました。

シートを巻き付けて、繰り返し使用できる「ストロール」

 Dcraftで、外部のデザイナーやコピーライターと話し合って決めたのが、「味を、人を、あわせる、」という光浦醸造のフィロソフィーです。この出会いをきっかけに、新商品のデザインなどの相談もしています。

――デザインを生かした経営を進めるうえで、工夫していることはありますか。

 パッケージデザインの賞を頂いたり、デザイン誌の表紙になったり。評価していただけることは素直にうれしいです。

 ただ、中身を必死に開発していて、商品に対する思いが強いからこそ、デザインが生きるのだと思います。

 あるメディアの記事で、「デザインは、みかんの皮のようなものがいい」という文章を読みました。みかんの皮のように、イメージが中身と密接につながっていて、それでいてむきやすい。光浦醸造が目指すべきデザインは、それだと思いました。

商品とパッケージデザインが違和感なくつながっているのが、光浦醸造の強みです

 そう考えると、商品の中身をつくっている社員が、デザインもできるはずです。私がパッケージデザインや、SNS、ホームページでの情報発信などを全て手がけていましたが、今は少しずつスタッフにも任せています。

 自分がそうだったように、デザインは実際にやりながら覚えるのが、一番早く習得できると思います。

Dcraftを通じて出会ったデザイン会社Knot(ノット)との打ち合わせ風景

――フロートレモンティーやストローなど、老舗の枠を超えて、次々とアイデアを生み出す光浦さんの発想力の源は。

 難しく考えすぎないことかな、と思います。勝手に領域を限定して「これはやっちゃダメだ」とか決めつけないようにしています。

 ファッションや音楽の好みが変わることは、そんなに珍しいことじゃない。高校のときはサッカー部でも、大人になったらゴルフにはまることだってありますよね。

 商品開発も、それと一緒です。そのときの自分の琴線に触れたものと、とことん向き合えばいい。売れる売れないではなく、自己表現をする感覚に近いかもしれません。

 フロートレモンティーもストロールも、世の中にないものでした。インターネットで検索しても、どこにもつくり方が出ていない。試行錯誤しながら、自分なりの方法を見つけ出すプロセスが面白かったです。

――コロナ禍の影響はいかがでしたか。

 コロナ禍をきっかけに、売り上げは低迷しています。ただ、この状況は来るべくして来たのだと思います。

 数年前から売り上げが伸び悩み気味でしたが、踊り場みたいな状況かもしれないと、のんきに構えていたんです。新型コロナが流行しなくても、10年くらいかけて今のような状況に陥っていたと思います。

 今、最も足りないのは発信力です。マーケティングにも力を入れていくべきなのに、広告宣伝費はかけないと決めていたので、光浦醸造の公式ウェブサイトは、ほぼ検索エンジンからの流入しかありません。

 ストロールは全国放送のテレビでも多く取り上げられました。その流れを生かし、ストロールの新シリーズは、クラウドファンディングを実施する予定です。ストロー表面のデザインの自由度が高いので、企業のノベルティーにも向いています。その需要も掘り起こしたいです。

――最後に、光浦醸造の将来ビジョンを聞かせてください。

 以前は主力だったBtoB向け商品が、売り上げに占める割合は全体の1割程度です。BtoCの売り上げの5割がフロートレモンティー、3割がみそ、残りが甘酒や調味料となります。従業員数は入社時の約4倍の26人になりました。

 「小さくほっこりオシャレな会社」にだけは、絶対にするつもりはありません。山口県からは、ファーストリテイリングのユニクロ、旭酒造の獺祭など、素晴らしいブランドが誕生しました。光浦醸造も恥ずかしがらず、ユニクロや獺祭のようなブランドを目指します。

光浦醸造が運営するショップも、デザインにこだわっています

 「小さくほっこりオシャレな会社」は、県内にもたくさんあります。だけど、事業規模を大きくしていきたいと宣言する会社は、限られます。

 やったことがないことに挑戦することが大好きなので、これからは世の中のトレンドにもうまく乗りながら、事業の拡大を目指します。