目次

  1. 相談主は「妻の家業を継ぐか悩んでいる」
  2. 事業承継のきっかけは「求められて」が多数
    1. 妻から「継がへん?」と言われて
    2. 弟を支えたいと入社
    3. 父親に呼ばれて
  3. タイミングも大事
  4. 財務諸表や自社株のチェックを
  5. 事業承継前にしておきたい5つの準備

 妻の家業を継ごうかどうか悩んで、ほかの人の事業承継のきっかけについて、Twitterで相談したのは、兵庫県在住の30歳のKazさん。

 妻の実家は九州で90年続く酒屋だといいますが、事業承継についてはまだ義父と相談していません。この投稿に対し、後継ぎたちから40件を超えるコメントが寄せられました。

 全国各地の様々な業種から寄せられたコメント。父や(家業を持つ)妻から相談を受けたことが事業承継のきっかけになった人が多いようです。

 病院向け事業を展開する三田理化工業(大阪府)の3代目千種純さんは結婚前の妻から家業に後継者がいないと相談されたことをきっかけに後継者として入社しました。
そのきっかけについてこれまでの取材で次のように話しています。

 「大学の法学部を卒業した後の5年間、東京の総合商社に勤務していましたが、結婚前の妻から家業に後継者がいないことを相談されました。企業経営そのものに関心があり、まずは事業についてお話を聞かせてもらうことにしました。“後継者不在で事業が継続できなくなれば全国の病院が困った事態に直面する”と、事業が持つ社会的責任を熱く語る社長が印象的でした」

 Kazさんへのアドバイスとして、義父や妻と話し合うところから始めてみてはどうかと勧めています。

 妻の家業に入社したほかの後継ぎも、義父から「一緒に支えてくれ」と言われたことがきっかけだったとコメントしています。事業承継を比較的スムーズに進めるには継がせる側の意思確認をしておくことが大切になります。

 100年以上続く機械加工系メーカー「エナテック」(大阪府)に兄弟で入社した榎並幹也さん。家業のプレッシャーから解放されたいと願っていた一方、先に入社していた弟に「すべてを任せてしまってよいのか」と悩んでいたといいます。

兄の榎並幹也さん(右)と弟の直輝さん(榎並さん提供)

 そんな状況でも弟は「お兄ちゃんの好きにしたらいい」と優しかったと言います。「そんな弟を支えるのが、兄としてぼくに与えられた役割なんじゃないだろうか」と榎並さんは入社を決意しました。

 それでは、弟の直輝さんはどう思っていたのでしょうか?兄の幹也さんを通じて入社理由を聞いてみました。

 「僕の入社理由としては、大きく分けて2つあります。実はベンチャー企業に内定をいただき、そこへの入社をほとんど決めていました。ただこの時、兄には他にやりたいことがあるように感じていて、兄がアトツギとして入社するかわからないと思っていました。創業から100年以上続く会社を、こんなことで絶やしてはならないと思い、僕が入社すべきじゃないか、と考えるようになりました。これが1つ目の理由です。

 もうひとつの理由は、父と2人で食事に行く機会があり、『お前とお兄ちゃんが2人で将来会社をついでいくことが、お父さんの最後の夢なんや。お前が入ってくれたら、お父さんとしてこれ以上嬉しいことはないねん』と直接、言われたからです」

 榎並さんは、悩んでいたことも含めて継ぐまでの経緯をnoteで公開しています。

 福井県の工作機械メーカー松浦機械製作所4代目松浦悠人さんは、高校生のときに父から「難しいとは思うが、今、将来会社を継ぐかどうか決めてくれ」と言われて決断したといいます。

 大学院卒業後、別の会社に就職し、家業に戻った松浦さん。自分のやりたいことをかなえられずに悩んでいたこと、DX推進室を立ち上げ、動画配信型マーケティングに取り組む様子をnoteでつづっています。

 工業用の塗料の開発・製造で90年以上の歴史を持つ斎藤塗料(大阪府)で、5代目後継ぎの菅彰浩さんは家業に戻る前、ディー・エヌ・エー(DeNA)で、ソーシャルゲームなどを担当していました。

SNSでの情報発信にも積極的に取り組んでいる斎藤塗料の菅彰浩さん。手に持っているのがSNSを活用して売り上げを伸ばした「サイクロンスプレー」

 子どもが生まれたことをきっかけに「いずれ大阪に戻るなら、子どもが幼稚園や学校に入る前に」と斎藤塗料に入社します。

 事業承継すると、これまでとは住む場所も働き方も変わる人が多く、家族との今後の人生についてきちんと話し合うことが必要です。

 継ぐ前に家業の状況を把握するために、財務諸表や株式の保有状況を見ることを勧める後継ぎたちもいます。自動車部品を手がけ、IoTを活用した改善活動で注目されている旭鉄工(愛知県)の木村哲也社長もその一人。

 ツギノジダイの取材にも「株式の継承はどう考えるかも先代の意向を聞いた方がいいですね」とアドバイスしています。

 これまでの取材でも、家業を継ごうと決めて入社すると、大きな借金があり返済に苦しんだり、自社株が親戚などに分散して事業承継に同意を得るのにも苦労したりした経営者たちがたくさんいました。

 こうしたアドバイスを受けてKazさんは決算書を読むことから始めているようです。

 グロービス経営大学院の田久保善彦研究科長は、事業承継前に学ぶべき5つのポイントを整理しています。

  1. 経営への理解度を確認しよう
  2. 経営者の心境を理解しよう
  3. 長寿企業が取り組む価値観の共有
  4. 会社の権利と財産の分離をしよう
  5. 地元の金融機関とのつながりも大切