「カリスマ経営者」を美談にしない 後継ぎに必要な「姿勢のルール」
「カリスマ経営者」の存在は頼りになりますが、経営の意思決定が属人化しすぎると組織は強くなりません。コンサルティング会社「識学」の講師陣による事業承継と組織づくりを考えるシリーズ2回目は、後継ぎ経営者が組織を強くするための「姿勢のルール」の作り方などを解説します。
「カリスマ経営者」の存在は頼りになりますが、経営の意思決定が属人化しすぎると組織は強くなりません。コンサルティング会社「識学」の講師陣による事業承継と組織づくりを考えるシリーズ2回目は、後継ぎ経営者が組織を強くするための「姿勢のルール」の作り方などを解説します。
目次
前回記事では、ファミリービジネスや創業者が率いる企業は組織化がされていないケースが多いという話をしました。承継の過程や承継後のフェーズでよく相談される「古参社員が言うことを聞いてくれない」という問題も、組織化されていないことに端を発しています。
今回は組織化の基本を確認しながら、先代が代表(もしくは会長)として会社に残る場合、後継ぎの立場からできることを考えていきます。
皆さんはどういう状態になれば「組織化」ができていると考えますか。時折、コンサルティングでお伺いすると「組織図や社内ルールがあるから、自分の会社は組織化されている」と誤解している方がいらっしゃいます。
しかし、もし社内に欠かせない人材がいて「その人がいなければその件は何もわからない。またはその仕事は停止してしまう」といった状況があるのなら、会社の組織化ができているとはいえません。
真に組織化できているというのは「スキルやノウハウを会社として保有できている状態」です。言い換えると全ての業務が属人化しておらず、人が入れ替え可能になっていることを指します。組織化とは「〇〇をすればある時点で完了する」というものではなく、常に取り組み続けなければいけないのです。
その観点でみれば「経営」が属人化しているという点において、ファミリービジネスや創業者が率いる企業は、最も組織化されていない部類ともいえます。「カリスマ経営者」という美談で語られがちな会社で組織化を進めるには、何をすればいいのでしょうか。次章から詳しく解説します。
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経営トップによるリーダーシップは確かに重要です。組織のトップが明確に方向を示さなければ、管理職のスタッフたちは迷子になってしまいます。
しかし、それが行き過ぎると「組織としての会社代表」より「会社代表である個人」の側面が強くなり、「ヒト崇拝」が発生してしまいます。
すると、社員が直属の上司よりも代表の指示を優先したり、会社の成長が代表個人に依存したりしてしまいます。これは承継という観点のみならず、組織の面からみても非効率です。
では、後継ぎ経営者、またはその候補の皆さんは一体何をしたらいいのでしょうか。
組織化の第一歩としては「先代個人ではなく組織のルールに従うのが当たり前」という文化を作ることです。そのため、筆者が所属する識学の理論では「姿勢のルール」を設定するようお伝えしています。
姿勢のルールとは、誰でも守ることができる最低限のルールのことです。このルールは全社共通で会社に所属する人がすべて守るべきものとなります。
似たようなものに就業規則があります。当然守るべきルールですが、組織が整っていない企業の中には形骸化してしまっている、守らない人がいるというケースも少なくありません。
もちろん、この状況を決して許していいわけではありません。ですが、管理を強めるために、社員に普段からルール順守を意識づけるうえで、就業規則は機能しにくいのです。
では、そもそも部下にルールを守らせるにはどうすればよいでしょうか。
それは、できるようになるまで指摘し続けることです。後述する「完全結果」など、情報の伝え方などにおいて一定のテクニックはあるものの、基本的に求めることに対する不足を指摘し続けるしかないのです。
もちろん、一度でこちらの要求を超えて対応できる優秀な人もいるでしょう。しかし、そのような人を前提としたマネジメントでは組織化は進みません。どんな社員でもできるように、マネジメントする側が属人化を排除する必要があるのです。そこで重要な役割を果たすのが「姿勢のルール」になるわけです。
姿勢のルールの役割は、その組織のフェーズによって異なります。ですが、今回のように組織化の第一歩として用いる場合、一番の目的は組織に対して部下が 「合わせる姿勢があるか、ないか」を判断する材料として使うということです。
内容はあいさつや勤怠管理など、ちょっとしたことでかまいません。ただし、守れているかどうか確認する、社員自身がルールを守っているという認識を持たせるために、日々の業務の中に取り込める内容にすると良いでしょう。毎日行うものが理想ですが、思いつかなければ週一回でも構いません。
例えば、以下のルールなどが良いでしょう。
「姿勢のルール」の運用で最も重要なことは、全員が守れているという状態を作ることです。そのため、最初の1~2カ月は2~3個のルールからはじめ、徐々に違反時に上司が指摘することで、ルールを守る意識が植え付けられていきます。
ルールを徹底させるためのテクニックとしては「(後継ぎではなく)代表がルール統治の実施を決めた」という事実をつくることが有効です。「ヒト崇拝」が起きている企業では、指示系統や責任範囲があいまいになり、代表以外の指示は聞いてもらえないことも珍しくありません。
もちろんルールを展開する以上、代表の承認を得るのは必須ですが、代表の指示を明文化することで、「あくまでもルールは代表の意向ですから従ってください」というロジックが可能になります。
ルールを徹底することで、社員は徐々に「代表が言っているから」ではなく、「ルールだから従う」という思考に変わっていくのです。
ただし、前回触れたように、後継ぎは代表へこまめな業務報告を繰り返し、あらかじめ信頼関係を構築しておく必要があります。
後継ぎ自身に部下がいる場合は、部下に期限やルールを徹底的に厳守させ、ルールによる統治の結果をあらかじめ確認し、効果を実感してもらうというのも手段の一つとして有効です。
念のため記しておきたいのは、経営者の期間が長い代表は、本心ではこれら「姿勢のルール」の必要性を感じているケースが非常に多くあります。ただし、人間関係やルール徹底の難しさ、代表自身の忙しさなどから、必要性を感じつつも、実践できていないのです。
そのため、後継ぎ自身がきちんと信頼関係を構築できているのであれば、「全員が守るべきルールを明文化して徹底しよう」という内容を聞き入れてもらうハードルは決して高くないはずです。
事業承継を考えるフェーズで取り組んでおきたいのが、先代の経験やノウハウを棚卸しし、ルールに組み込むことです。
事業承継を行う多くの企業は、引き継ぎの期間を設けているのではないでしょうか。この間に先代からノウハウや人脈を引き継ぐことができるのは大きなメリットです。
ビジネスモデルが時流に合わないなど、後継ぎの皆様からすると歯がゆい思いもあるかもしれません。
しかし、会社を長い間率いてきた先代は多くの知見を持っています。その経験に基づくノウハウや直感は決して侮れるものではなく、引き継がない手はありません。
ただし、その内容は極めて属人化しており、言語化できていないケースが多いかもしれません。そこで承継者が注意深くヒアリングし、明文化してルールにまとめていくのが良いでしょう。
特に誰もが守るべき「姿勢のルール」をつくる際は、後継ぎ自身が会社としてどうあるべきといった内容はあえて織り込まず、先代に「社員に絶対守って欲しいことはありますか?」など問いかけ、先代の知見を借りることが望ましいです。
ここからは実際にルールを作成する上での注意点を二つ紹介します。
まず一つ目は、誰が見ても認識がずれない「完全結果」として設定することです。完全結果とは「期限」と「状態」を明確にしたもので、マラソンに例えると「5キロを頑張って早めに走る」というのではなく、「5キロを30分以内で走る」ということになります。
なるべく数字で示すことが望ましいですが、難しいこともあるでしょう。識学で採り入れている例をあげると「退社時に机の上に何もおいていない状態(にする)」というものがあります。これが仮に「退社時に机の上を片付ける」であればNGでしょう。なぜなら整理整頓の定義は人によって異なるからです。
実際、あるIT企業では会社の玄関に音量を測定する装置を設置し、「出社時に〇〇デシベル以上であいさつする」と定めています。
「ほどほどでも良いのでは?」と思う方もいると思いますが、解釈の問題を持ち込まないという目的に加え、このルールが会社を今後「完全結果」でマネジメントする際の基準になるという理由も含んでいます。
そのため、この時点で解釈のずれが発生しないよう、きちんと状態を明記できるようにしておきましょう。
ルールを設定する上で、もう一つ気を付けなければならないのは「できる、できないが存在しないルールにする」ということです。
よくある誤解の一つとして、目標のような値が設定されてしまうというものがあります。たとえば営業であれば「最低でも〇〇万円以上受注する」という形です。
個人のスキルによって、できるできないが発生してしまうと、「姿勢のルールを守ることは当たり前」という意識が希薄化してしまいます。
繰り返しますが、組織文化として全員がもれなくルールを守れているという状態をつくるため、目標は別にまずは組織の基礎固めとして姿勢のルールに取り組むのがよいでしょう。
株式会社識学 上席講師(コンサルタント)
中央大学法学部を卒業後、リクルートで11年のキャリアを積んだ後、識学に入社。現在は大阪営業部部長を務める。高校生のころからはじめたアメリカンフットボールでは日本代表として活躍。中央大学のプロヘッドコーチも経験。
※構成・丸茂洋平(識学)
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