旧友は社長の右腕になれるか?京葉エナジーでふと友人に戻る瞬間
事業承継の前後で旧友に入社してもらうべきか否か。Twitterに投稿したところ、たくさんのエピソードが寄せられました。千葉市の産廃処理会社「京葉エナジー」2代目の岩﨑剛士社長もその一人で、旧友に関連会社の代表を任せています。「仕事では友人関係に甘えることなく、それぞれの役割を全うする事でいい関係性が保たれているように感じています」と話します。それでも、つらい時にふと友人に戻ることがあるそうです。
事業承継の前後で旧友に入社してもらうべきか否か。Twitterに投稿したところ、たくさんのエピソードが寄せられました。千葉市の産廃処理会社「京葉エナジー」2代目の岩﨑剛士社長もその一人で、旧友に関連会社の代表を任せています。「仕事では友人関係に甘えることなく、それぞれの役割を全うする事でいい関係性が保たれているように感じています」と話します。それでも、つらい時にふと友人に戻ることがあるそうです。
目次
京葉エナジーに、岩﨑さんの高校時代からの旧友、大谷真哉さんが入社したのは、10年ほど前のことでした。その少し前、全国展開している大手物流会社に勤めていた大谷さんに転勤の辞令が下りました。
大谷さんは地元志向が強く、すでに持ち家もあったといいます。そのため、転勤するよりは地元で転職できないかと考えていました。「正直なところ、生涯賃金が下がるかどうかはあまり意識していませんでした」。子どもを育てながら生きていけるなら、と考えていたそうです。
そこで、高校時代からよく知る岩﨑さん(当時は取締役)に仕事の相談をしたのが入社のきっかけでした。
事業承継する前に、ワンマン体制から脱却し、社員が自発的に動ける組織に変えていきたいと考えていた岩﨑さんにとって「のどから手が出るほどほしい人材」だったと言います。
大手で学んできたノウハウを京葉エナジーの改革に生かしてくれるのではないか。そんな期待がありました。しかし、給与などの待遇では、大手には勝てません。
さらに、仕事となると、旧友に言いたくないことを言わなければならないこともあるし、場合によっては友人関係が壊れるかもしれません。
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そのため、岩﨑さんは大谷さんに次のように伝えました。
現職の仕事よりは友人の希望するライフスタイルに近づけるかもしれない。
卑下するつもりはないが、明らかにいまの物流会社よりレベルは低いし、ビックリするトラブルは起きるし、収入まで下がってしまうと思うけど、それでもよければ、友達を辞める覚悟で入ってきて欲しい。
しかし、大谷さんは入社を決めてくれたといいます。
前職の大谷さんは、子どもが寝てから帰宅して、起きる前には出社するというライフスタイルでしたが、京葉エナジーで最初に任されたドライバー職では、早上がりのため15時には仕事を終えて帰宅。「子どもの成長を見られる時間ができました」。妻も息抜きができる時間が生まれたそうです。
元々、京葉エナジーは家族のためにバリバリ働いてたくさん稼ごうという社風でした。そこに「家庭と過ごす時間も大事」という大谷さんの価値観が入ってきました。
大谷さんが残業していると、仕事人間だったという岩﨑さんの父(当時社長)から「まだ、帰らなくて大丈夫か」と声がかかるなど、会社の考え方も徐々変わってきたといいます。
そんな雰囲気を受け継ぎ、岩﨑さんはいま、採用面接でそれぞれの働き方を確認するようにしています。親の介護で土日休みは必須なのか、むしろ給与を上げるため多めに働きたいのか。そんな意向をなるべく反映できるよう仕事のシフトを組むようにしているといいます。
京葉エナジーは産廃処理だけでなく、古紙プレスやホテル清掃業といった新規事業にも参入し、従業員数は約200人。大谷さんが入社したころと比べると、3倍近くに増えました。多様な働き方ができることもあり、エンジニア、居酒屋など様々な業種から転職者が入社しているといいます。
2015年に岩﨑さんは2代目社長に就任。大谷さんは関連会社の代表として仕事を続けています。「友達を辞める覚悟で入ってきて欲しい」と告げた2人の関係は入社後、どのように変わったのでしょうか。
岩﨑さんは「お互い性格は似ていないので意見が分かれることも多々ありますが、議論を重ねるべき事案は重ねて、最終的にはそれぞれのポジションが決断しています。お互いがそれぞれの立場を尊重していることが上手くいっている秘訣です」と話します。
社内で仕事の関係以上に接することはあまりないと岩﨑さんは言いますが、つらいときには、ふと友情が顔をのぞかせるときがあるそうです。そんなエピソードを2つ聞きました。
私(※岩﨑さん)がまだ社長になる前のことです。
真冬の土砂降りの中、屋外で理不尽な仕事をしていました。社に戻って来た時、本来それの仕事をやるべき部署の人間はすでに退社していたにも関わらず、彼(※大谷さんのこと)は私を待ってくれていました。
帰社してからもまだ屋外作業が残っていた私に笑顔で、「気持ちが分かる俺が手伝わないとダメだ」と一緒に作業をこなし、私を独りにはしませんでした。
京葉エナジーの財務状況が良くない時に私は自身の役員報酬を下げることを決め、彼を含めた一部の社員だけに告げた事がありました。
数日すると、彼は「俺が社長をやっている関連会社も収益が良くないし、本体がそんな状況だから俺も社長だし下げるよ」と申し出て来たのです。
これには私も先代も反対しました。彼は関連会社の社長ですが、経営判断については私も先代も口を出すことが多く、経営状態が悪くても良くても原則、友人の役員報酬は変わらない、と暗黙のルールがあったからです。
私は「俺が下げたから同じようにしているのか?それならしなくていい」と何度か確認をしましたが、経営状況が理由だとして少なくない規模の報酬カットを断行しました。
私はその行動を「経営にコミットし、成果によって報酬を決めてほしい」というメッセージだと受け取り、半年ほどは同じ目線の経営者として接するように心がけましたが、上手くいかないことが多くありました。
その後、何度目かの関連会社の方針会議で、報酬カットの理由について触れた時、彼は「本当にそれ(経営状況)が理由だと思ってたの?違うよ、俺は剛士(※岩﨑さん)にこの会社に入れてもらって友達辞めたといってもベースにはそれがある事は変わらないんだから、お前が下げるとなったら下げない訳にはいかないだろ」と言われてしまいました。
私は自分の至らなさを痛感し、反省もしました。
中小企業の後継ぎは、旧友を入社させるか迷うことがあります。そこで、ツギノジダイは旧友を入社させた、または入社させようとしている事例を複数回にわたって紹介します。
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