後継ぎのストーリーが呼ぶ共感 ヤフーニュースで好評の理由【コラム】
中小企業のストーリーがヤフーニュースを通じて、多くのネットユーザーや専門家の共感を集めるケースが目立っています。後継ぎ経営者の真摯な経営改善の取り組みがなぜ心を打つのか。日頃、経営者インタビューを編集している立場から考えてみました。
中小企業のストーリーがヤフーニュースを通じて、多くのネットユーザーや専門家の共感を集めるケースが目立っています。後継ぎ経営者の真摯な経営改善の取り組みがなぜ心を打つのか。日頃、経営者インタビューを編集している立場から考えてみました。
ツギノジダイでは「経営者に聞く」で、中小企業の後継ぎ経営者らのインタビューを平日はほぼ毎日公開。これまで300本以上を配信しています。事業承継を巡るストーリーに加え、新商品開発や業務効率化、経営理念の策定、プロモーション戦略など、経営改善のリアルな取り組みに多角的に光を当てています。
インタビューの多くは2020年9月から、ヤフーニュースにも転載しています。これまでもコンスタントに読まれていましたが、2022年7~8月に転載した複数の記事が、転載を始めて以来の記録的なページビュー(PV)を記録。記事で紹介した後継ぎ経営者の姿勢や取り組みに共感するコメントも多数付きました。
ツギノジダイが7月、ヤフーニュースに出した記事で最も多いPVを集めたのが、金沢市の中谷肉店3代目・中谷明博さんのインタビューです。記事を読んだ読者からは、ヤフー上で約100件のコメントが集まりました。
中谷さんは家業に入った2000年代初頭、常連客はいたものの、高齢化で顧客は年々減る一方でした。先細り感を覚え、大胆なリブランディングを実施。「現代的で外国にあるようなブッチャーショップ(肉店)」のような内外装にして、ロゴやデザインを一新しました。
さらに、焼き肉店でも扱わない希少部位をそろえたり、総菜や冷凍食品、スパイスなどにもラインアップを広げたりして中身も充実させました。開設したオンラインショップも人気を博しています。こうした努力の結果、リブランディング前と比べて売り上げを5倍に伸ばしました。
ヤフーニュースのコメント欄では、中谷さんの先進性について次のようなコメントが寄せられました。
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新しいチャレンジをしないと生き残れない。年を取ると保守的になるだけでなく、チャレンジをしても対応できず出費だけが増える。ビジネスには成功のチャンスがたくさんあるけれど、成功するのは本当に大変。業種は違うが参考になることが多かった。
リブランディングは経営者の熱意やリスキリングが必要なので大変だったと思います。これからは人材を育てるのか他から引っ張ってくるのか悩まれることかと思いますが頑張って欲しいですね。
また、リブランディングを受け入れた中谷さんの父親、パッケージデザインを手がけた中谷さんの妻に対する言及もありました。
先代が偉いなと思いました。柔軟性と後継ぎに対する信頼がです。家業を継ぐとなると、息子は「オヤジを超えたい」「自分のカラーを出したい」が先に来て空回りしがちだし、父親は父親で「昔からこれでやってきた」「自分には経験がある」と息子がやることを否定しがちです。互いに他人とは違う意地も有りますし甘えも有りますからね。奥さんが上手く絡んだことが親子のクッションにもなり良かったかもしれません。息子が継いでから左前になったなんてところは枚挙にいとまがないです。息子が先代よりも事業を発展させた事例の方が遥かに少ない。
ツギノジダイからヤフーニュースに転載した記事には、ヤフーニュースの公式コメンテーターを務める専門家によるコメントが付くこともあります。8月に転載した横浜市の菓子メーカー「WISHBON(ウイッシュボン)」の2代目社長・永野健一さんに取材した記事もその一つです。
洋菓子業界は労働時間の長さなどから離職率が高いと言われていますが、永野さんは働き方改革を推進しました。
完全週休2日制を導入して、年間休日は全部門111日と決め、通常期の残業は月20時間程度に収まるようにしました。夜勤を無くして、製造から納品まで平日にまとめて土日出勤も無くしています。
非上場企業にもかかわらず、採用ページに年商の推移や社員の平均年収、年代構成なども公開。売り上げを着実に伸ばし、2026年には年商30億円、社員80人、パート200人採用を目標に掲げています。
この記事も8月(20日現在)では上位のPVを集めたのに加え、元労働基準監督官でアヴァンテ社労士事務所代表の小菅将樹さんから、永野さんの改革を評価するコメントが寄せられました。
働く環境の土台を整えて、離職率の低下、生産性向上に繋げた好事例だと思います。幅広く採用できていることも成長の軸になっていると感じます。年間休日を定め、週休2日を基本にした勤務体制をつくることで仕事と生活のメリハリもつけやすくなりますし、夜勤は負担が大きいと日勤だけにしたのも大きな決断だったと思いますが、人を大切にしているからこそだと思います。頑張り過ぎず、当たり前に休める環境をつくることで結果的に仕事の効率も上がると思います。
さらに流通ジャーナリストでマーケティングプランナーの西川立一さんはコメント欄で、永野さんの試みを「勝利の方程式」と表しました。
企業にとってCS(顧客満足)と同等、それ以上重要なのがES(従業員満足)。従業員が快適に楽しく仕事ができる環境を整えることは欠かせない。工場は24時間年中無休のほうが効率が良いが、夜勤の大変さを考慮し、週休2日制を導入し、ESの向上につなげた。並行して、OEM(相手先ブランド製造)から、自社ブランド生産をすることで、収益力を高め、従業員のモラルアップも実現、採用にも好影響を与えた。「WISHBON(ウイッシュボン)」が取り組んだこれらの施策はすべて理にかなっており、勝利の方程式といえる。
ツギノジダイが取り上げているのは、多くが無名企業の経営者です。著名企業の華々しいニュースに比べれば、地味にも映る経営改革かもしれません。
しかし、資金や人手は限られていても、中谷肉店やウイッシュボンのように目の前の課題に真摯に向き合い、家業を成長させるためにしがらみを超えて知恵を巡らせる。そうした姿勢が、自社の経営課題と日々向き合い、解決のために汗を流す多くのヤフーニュース読者の背中を押すのではないでしょうか。
今回取り上げた両社以外でも【「閑散とした地域ににぎわいを」キャッスルホテル3代目が見出すBBQの力】、【社員に背を向けられて自己変革 「高山」3代目は祖業をIT企業に転換】、【連続M&Aした町工場をまとめる苦労 ニットー2代目が生んだ新製品】などの記事が、ヤフーニュース上でよく読まれました。いずれも挫折や失敗を経験しながらも、家業を大きく成長させた事例になります。
地方公務員の息子として育った筆者もまた、中小企業の後継ぎ経営者に背中を押された一人です。朝日新聞記者として赴任した前任地の三重県を駆け回る中で、多くの魅力的な後継ぎと出会いました。
技術革新を採り入れて質の高いトマトを育て大手メーカーとの合弁会社まで作った農園経営者、家業の工場を経営しながらサッカーやバレーボールなどのトップリーグを目指す総合型スポーツクラブを立ち上げた社長、趣味のフィギュア収集を起爆剤に地域活性化イベントを企画した製薬会社の社長……。多彩なチャレンジに触れたことが、ツギノジダイの仕事の原点になっています。
地方勤務時代から、知られざる中小企業経営者の思いや経営改善のアイデアを、多くの読者に届けたいと思っていました。ツギノジダイでその願いがかなったことは、編集者冥利に尽きます。
これからも、経営改善のディープストーリーを一層掘り下げていきたい。ヤフーニュースでのヒットで、そんな思いを新たにしました。
(※今回のコラムで取り上げた記事5本はヤフーニュースでの公開期間が終了しています)
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ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。