中小企業が「ディフェンス力」を磨くには 経営基盤の固め方を解説
新型コロナウイルス感染症が起きてから、経営環境は劇的に変化しました。ロシアのウクライナ侵攻などによる物価高や為替の乱高下も大きな経営リスクになっています。しかし、そのような変化に対応できている中小企業は少ないように感じます。信用金庫で中小企業の融資相談に携わった筆者が「中小企業のディフェンス力を磨く」をテーマに、経営基盤を固めて環境変化に対応するヒントをお届けします。
新型コロナウイルス感染症が起きてから、経営環境は劇的に変化しました。ロシアのウクライナ侵攻などによる物価高や為替の乱高下も大きな経営リスクになっています。しかし、そのような変化に対応できている中小企業は少ないように感じます。信用金庫で中小企業の融資相談に携わった筆者が「中小企業のディフェンス力を磨く」をテーマに、経営基盤を固めて環境変化に対応するヒントをお届けします。
目次
「中小企業のディフェンス力」と言われても、なかなかピンと来ないでしょう。筆者は「事業を維持するための力」と定義付けしたいと思います。事業を維持するには以下の四つが必要になります。順を追って解説します。
様々な経営者と会う中で、最近共通して聞かれるのが採用ができなくなっているという悩みです。コロナ禍の前であれば採用できたであろう従業員も、今では採用が難しくなっています。厚生労働省が出している有効求人倍率は2022年11月は1.35倍となっており、人材募集の広告を出してもなかなか応募がないという声も聞かれます。
多くの企業が人手不足に悩み、経営者自身が現場に出ざるを得ない状況になっています。そのため全体が見づらくなり、事業計画が思うように進まず、売り上げや利益に結びつかないという悪循環につながってしまいます。
そのような状況を打破するには、以下の点を明確にすること策が考えられます。これらの策は、今後自社が成長曲線を描く段階になったときに、ヒトの部分の地盤を整えないと、長く成長が望めないからです。だからこそ今のうちに以下の項目をしっかり作りこんでおくことをお勧めします。
どんな思いで会社を経営しているのか、将来どのような会社にしていきたいのか。経営者の言葉で話すからこそ、その想いに人はついてくると感じます。
会社の経営ビジョンを前提に、従業員の育成方針や成長した姿のイメージを明確にすることです。仕事に必要な知識や技術だけではなく一人の人間としてあるべき姿や、数字をただ追いかけるだけではなく何のために仕事をしているのかを考えることも重要だと考えます。
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これも会社の経営ビジョンを前提にして、従業員が何をすることが会社にとって評価となるのかを定めましょう。
ただ数字を挙げればよいのか、それとも数字には表れないがお客様から感謝されたことを高い評価にするなど様々な面から評価される制度作りが必要ではないでしょうか。
自分が従業員の立場に立った時「働きがいのある会社とは何か」を考えることが、評価を定めるうえでのヒントになります。
「モノ」というと範囲が広いですが、設備が古くなっていないか、自社の商品サービスがターゲットとなるお客様のためになっているかを考える必要があります。
経営者は機械や店舗など、長く使っていることで摩耗していないか、償却期間を経過しているものがないかを確認することが望ましいでしょう。
万が一、機械が壊れた時、すぐに新しい機械を買えればよいのですが、コロナ禍やウクライナ侵攻などの影響で難しいこともあります。
例えば、ある製造業のお客様で機械が壊れてしまった方がいました。すぐに買い替えようとしたのですが、部品が無いためにすぐに対応できなかったという例もあります。機械が無いことで、売り上げを上げられるチャンスを逃してしまうことにつながりかねません。
今はリモートワークを導入している企業も少なくありません。固定費がかかるため、事務所を構えての事業展開を取りやめる企業も増えてきました。仕事が滞らないように、本当に必要なものを日ごろから準備することが、自社を守ることにつながるのではないでしょうか。
今まで自社で売れ筋だった商品は、今後も売れ続けていくのでしょうか。顧客ニーズに合っていたものが、突然売れなくなるのはよくあることです。以下のステップで、改めて自社の商品サービスを見直してみてはいかがでしょうか。
自社の商品サービスを求めているのは誰なのか。もう一度原点に立ち返って考える必要があります。
個人客であれば、性別、年齢、家族構成、考え方、行動など、法人なら企業規模や従業員数、業務内容、地域、取引先などをもとに細分化していきます。
自社が設定しているターゲット顧客が何を求めているのか、もう一度調べる必要があります。直接聞いたり、お客様の何げない話題を聞いたりすることがヒントになります。
ターゲットとなる顧客は常に動いており、今まで通用していたことが未来にも通用するとは限りません。常にお客様が何を求め、何に興味を持っているかを観察し、それに合わせて商品・サービスを変化させる必要があります。
コロナ禍で資金繰りに大きな影響を受けた会社は多いと思います。国や地方公共団体は、融資や補助金、助成金、協力金など、会社が経営を維持できるように様々なバックアップを行ってきました。
しかし、22年9月で日本政策金融公庫のゼロゼロ融資(国や都道府県の支援で、金利の負担が実質ゼロになる融資制度)も終了しました。また、コロナ禍で融資を受けた会社の大半は、元金の返済が始まっていると思います。
売り上げが以前のように回復しない場合、融資の返済も考慮すると、資金繰りに苦慮している会社も多いのではないでしょうか。その状況下で「また融資を受けたい」と金融機関に相談しても、断られるケースが増えてきました。
実際にある金融機関の融資担当者から言われたのは、今までのように資金が無いから融資に頼るのではなく、コロナ前と同じように、融資を通じて事業をどのように発展させたいかという具体的な計画が無ければ融資はおぼつかないとのことでした。
コロナ禍のような資金支援策はもうないものとして考える必要があります。誰かに依存するのではなく、会社が自分の足で立ち上がって歩いていくにはどうしたらよいか、考えるタイミングに来ているのです。
資金繰りを好転させるため、地道に以下のことに取り組んではいかがでしょうか。
売り上げは「単価×数量」で求められ、それぞれの項目が適切かどうかを見直していきます。
現在は、様々な要因で単価が上がっています。原材料の高騰は代表格で、11月の国内企業物価指数(2020年平均=100、速報値)は、前年同月比9.3%上昇し、21カ月連続で前年同月を上回りました。伸び率は2カ月連続で縮小しているものの、依然深刻な状態は続いています。22年の最低賃金(全国加重平均)も21年と比べ、30円以上上がっています。
この状況下で、単価を維持するか上げるかはまさに経営判断です。(この事例については、次回詳しくお話しします)。
数量においても、販売の方法(販売促進のやり方)が同じでいいか、それともSNSなどを活用した新たな取り組みを始めるのかを考える必要があります。
販売促進の新たなやり方を進めたい場合、国は「小規模事業者持続化補助金」で販売促進のバックアップをしています。活用したい場合は、最寄りの商工会議所や商工会への相談をお勧めします。
コロナ禍で経費を一通り見直した会社は多いと思います。今後の資金繰りを円滑にするという視点で、もう一度見直しをしてみてはいかがでしょうか。見直しの考え方は、ツギノジダイの記事「経営改善に役立つ損益計算書の見方」の「損益計算書を分析してみる」をご覧ください。
経営者は様々な法改正に遭遇します。直近であれば電子帳簿保存法やインボイス制度の導入など、経営に直結する改正が多くあります。
その情報はキャッチできているでしょうか。そして、自社にどのような影響が出て、その対策は考えているでしょうか。もしキャッチできていなければ、顧問税理士に聞いたり、商工会議所や商工会などのセミナーに参加したりして情報を常にアップデートする必要があります。
それだけではなく、原材料の高騰に対して支援金を出している市町村もあります。このような情報は自分からアクションを起こして初めてキャッチできます。常に経営に役立つ情報はないか、探しに行く姿勢が必要です。
情報取得の手段の一つとして、中小機構のJ-Net21をご紹介します。
こちらには、全国の企業の成功事例や補助金・助成金の情報などがアップデートされています。今後の事業展開の助けとなる制度の情報も多いので、ぜひご覧ください。
今回は中小企業のディフェンス力について、筆者なりに定義づけをしました。なぜディフェンス力をつける必要があるかというと、コロナ禍やウクライナ侵攻の影響が続く中でも、企業は活動しなければなりません。国や地方公共団体に依存するのではなく、自分で活動する力を身につけるには、まず地盤を固めなければいけません。
22年の中小企業白書でも「自己変革力」という言葉が使われています。自分で変化してV字回復していくには、「地盤を整える=ディフェンス力を強化する」ことが必要です。
攻撃は最大の防御という言葉がありますが、その逆に「守備こそ最大の攻撃」という言葉も成り立つと思います。そのためには、まずはディフェンス力を強化する必要があるのです。
では、どのようにディフェンス力を強化すればよいのでしょうか。次回以降に事例を交えながらお伝えします。
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