目次

  1. 在庫管理が追い付いていなかった
  2. ステップバイステップで導入を
  3. 上司がそろばんをはじいていた
  4. 現場の声を形に
  5. やってわかったDXの秘訣

 大西常商店は1913年の創業で、扇子の製造卸業を営んでいます。扇子を作る職人は外部委託が多く、製造にかかわる人の約7割が高齢者だといいます。

 NTT西日本で働いたのち、4代目として家業に入った大西さん。そこで目にした環境に衝撃を受けたといいます。パソコンはネットにつながれておらず、扇子の絵の注文もファクスで受けていました。繁忙期は入出庫表への反映が追い付かず、在庫管理がほとんどできていない状態だったと言います。「本当に昭和なスタイルだった」と当時を振り返ります。

大西常商店4代目の大西里枝さん

 そんな状態から、DXのためのツールを少しずつ導入していきました。扇子の絵の注文もファクスからデータ入稿へシフト。特に課題だった在庫管理では、在庫管理アプリ「zaico」をいれることで、在庫の情報をリアルタイムで把握できるようになったといいます。

 大西さん以外の従業員の年齢は、60~70代。そのためツール選びにあたっては完璧を求めず、「高齢の方でも使えるよう、とにかく直感的に操作できる、というところを重視した」と言います。さらに「使いにくい」といった声に対してはなぜ使いにくいのかを深掘りして聞き、より大きな画面で見れるようスマートフォンではなくタブレットを導入するなど、丁寧にフォローをしていきました。

 お金を払ってプロに入ってもらうのも大事だと言います。高齢の人にツールの操作を教えられる人は多くはなく、大西常商店では町のパソコン教室で講師をしている人に力を借りました。

 ツールを導入してから軌道に乗るまでは、3年ほどかかりました。「歩みは遅くとも完璧を求めず、ゆっくりやっていくのが大事」だといいます。

 「導入するときは本当につらかったけれど、運用して慣れてくると本当に便利で、あのとき頑張ってやってよかったです。小さい会社こそ、デジタルツールを導入する意味があるんじゃないでしょうか」

 1965年設立の豊和工業は、地上にある電線を地中に埋める土木工事の施工管理を専業としてきました。4代目の村上さんは医療系の会社を経て13年ほど前に家業に戻った際、アナログな環境に驚いたと言います。「決算書類は手書きで、当時の部長がそろばんをはじいていました」。手書きの重要書類をエクセルに移すところから、デジタル化を始めていきました。

電線を地中に埋める際に使う管を担ぐ豊和工業4代目の村上圭さん

 その後サイボウズの導入でスケジュールを見える化し、電話やメール、紙のプリントアウトを激減させることに成功。作業現場のデータのクラウド化なども進め、業務を効率化していきました。

 村上さんはツール導入のポイントについて、「本社の押し付けは×、現場の声を拾うのが〇」と話します。

 「経営者側はどうしても上からの目線でシステムを決めがちですが、現場の社員からあがってきたものを本社が形にする、という流れのほうが導入に納得感が出ます。そのため面談やアンケート駆使して、できるだけタイムリーな問題点を現場から抽出するようにしています」

 また、IT化にアレルギーのある社員に対しては無理やりやらせず、新しいツールになじみやすい若手社員から導入し、1~2年かけて徐々に浸透させていくのがポイントだといいます。

 「たとえばベテラン社員に無理やりやらせても絶対に反発をうけます。若手社員から導入して浸透させていけば、ベテランが若手に『どうやってやるの』と聞くことでコミュニケーションにもなります。効率的なシステムとベテランの技術があわされば、より密度の濃い現場管理ができるようになります」

 質疑応答では、これからDXに取り組む中小企業へのアドバイスをもらいました。

 大西さんは「ツールの価格表とか比較表をたくさんみるより、事業規模が同じくらいでDXをちゃんとやっている会社の人にやり方を聞くっていうのが、一番だと思います」と指摘。

 村上さんは「あせって会社がいれたいものをいれるのではなく、必要なものをゆっくり選定して、なるべく導入しやすい形で優しく導入していく。ベテランの方があぶれないように徐々にしっかりやっていくことが重要」と述べました。