目次

  1. 能登の酒蔵が描く復興ビジョン
  2. 他産地から支援で、珠洲焼の復興へ
  3. 震災直後から「空き家」に注目
  4. 壊滅的な被害から復活したいちご農家
  5. 「災害時の味方」になったスーパー

 1869(明治2)年創業の数馬酒造(石川県能登町)は「能登を醸す」という理念を掲げ、地域を代表する酒蔵の一つです。5代目の数馬嘉一郎さん(37)が24歳で継承した後、蔵人の働き方改革や耕作放棄地の活用も進めて「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選ばれ、代表銘柄の「竹葉(ちくは)」は世界的な品評会で、部門最高賞にも輝いています。2024年1月1日の能登半島地震では建物や商品が大きく損壊しましたが、県内外の酒蔵に支えられながら生産を再開。経営者として十数年歩んできた経験を生かし、従業員に前向きなビジョンを示しながら、復興への歩みを踏み出しました。

震災から約3カ月で仕込みを再開できました(数馬酒造提供)

 能登半島地震で壊滅的被害を受けた石川県珠洲市には、伝統工芸の珠洲焼があります。市が資料館や販売所、育成施設を運営し、陶工が県外への出品を加速させていました。若手陶工の中島大河さんもベテランから窯を引き継ぐ予定で、作品を全国に送り出そうとしていた矢先でした。中島さんの自宅は震災で全壊しましたが、作品の多くは無事でした。備前焼など他の産地の支援も受けながら、震災1カ月後には東京の伝統工芸フェアに出品。若手と共同で窯を使う構想を練るなど、復興へ歩み始めました。

「いしかわ伝統工芸フェア2024」は盛況でした(中島さん提供)

 「一見無価値な不動産を資源としてクリエイティブな人々につなげていくこと」をテーマに、宮城県石巻市に拠点をおきながら、全国各地で空き家を活用した不動産賃貸を営んでいるのが「巻組」です。代表取締役社長の渡辺享子さんが、東日本大震災の直後から注目してきたのは、負動産とも呼ばれがちな「空き家」。しかし「空き家はオンリーワンで自由」という考えで、全国各地の空き家に新たな命を吹き込み、シェアハウス・ゲストハウスとして、古きに新しい価値を与えています。

空き家リノベーションの様子
空き家リノベーションの様子

 宮城県山元町のいちご農家「燦燦園」は、長年の製法とITシステムを用いた管理で、大手百貨店や有名菓子店も扱う完熟いちごを育てています。東日本大震災の津波で自宅もいちごも流され、ハウスも1棟だけになった農園を、3代目の深沼陽一さんが直後に継承。災害ボランティアや再建を断念した農家、ITの力を借りて、完熟いちごをよみがえらせました。スイーツ開発を軸に6次産業化を進め、冷凍いちごを削った「いち氷」をヒットさせて、直営店を開くなど、震災前と比べて飛躍的な成長を遂げています。

燦燦園の完熟いちご(同社提供)

 マルトは、福島県いわき市を中心に食品スーパーを展開する会社です。2011年の東日本大震災では、発災の翌日から全店舗が駐車場で営業を再開し、原発事故の混乱の中でも営業を継続。その後のたび重なる水害でも早期に復旧し、市民のライフラインを守り続けてきました。地元密着のスーパーマーケットはどのように苦難を乗り越え、「災害時の味方」として地域に支持される企業へと成長してきたのか。マルト4代目で、生鮮本部・取締役本部長の安島大司さんに話を聞きました。

マルトが駐車場で営業再開した時の様子(2011年3月、同社提供)