山喜製陶は、社員・パート合わせて約30人が働く、みずなみ焼・美濃焼の陶器製作会社です。飲食店向けの割れにくい食器類を卸しているほか、全国雑貨チェーン店からも陶器製作を請け負っています。
そのため、いま何個作っており、いつまでに何個納品すればいいのか、受注残数(たとえば100個の注文に対し、60個出荷したら残り40個注文が残っている)など現状把握・情報共有が大切になります。
山喜製陶での業務の流れは以下の通りです。
FAXで注文が届くと、注文書の記載内容をエクセルに入力していきます。逆に、出荷時には、納品書を手書きで作成し、出荷個数をエクセルに入力して受注残を計算します。
そのうえで、請求書作成の時に、納品書と紙で管理している単価表を1枚1枚、1製品ずつ目視で突き合わせながら請求書を作成し、発送します。
職人たちも紙の生産日報を確認しつつ、日報だけではわからない場合は、いま何個作っているのか、担当者に尋ねる必要があり、そのたびに職人の手が止まってしまうことがありました。
河口さんが変えたかった3つの課題
河口さんが製造業のシステムエンジニア(SE)などを経て、2023年1月に山喜製陶に戻ってきました。このとき、大きく分けて3つの課題に気づきました。
受注・出荷状況を把握できない
そもそもオンラインでつながっているパソコンが1台しかなく、受注状況をまとめたエクセルが従業員に共有されておらず、生産計画を立てられない状況にありました。出荷状況についても手書きの納品書から把握するしかありませんでした。
さらに困ったことに、同じ製品を「桜茶碗」と書いていたり「飯碗_桜」と書いているなど商品の表記揺れが散見されました。そのため同じ製品を指しているのに違う表記でエクセルに入力されているので集計に支障が出ていました。
そもそも、後で見直した時に、同じ商品なのか違う商品なのかもわからない状況になっていました(たとえば「水玉茶碗」と「大水玉茶碗」は別商品など)。
入力作業が属人化
受注・出荷・請求書発行作業は、事務担当者一人の仕事です。もし、この担当者が病気で倒れてしまったら、請求書の作成が遅れてしまうというリスクを常に抱えていました。
原価の把握が難しい
このほか、昔からの慣習で原価管理がされていなかったといいます。
受注から請求書発行までを業務アプリで一元化
河口さんは無料で作れるAppSheetをつかって受注や出荷、請求書発行の作業を楽にする業務アプリをつくることにしました。
FAXで届く注文書、手書きの納品書をパソコンに入力すると、AppSheetに取り込んだ商品情報・顧客情報・商品の単価一覧のデータベースを参照し、自動で請求書を印刷もしくはメール送信する仕組みを構築しました。流れは以下の通りです。
「簡単に直せるところが利点」
もちろん最初から現場で働く職人に受け入れられたわけではありません。「難しい」と言われると、「もっと入力を簡単にするから」と伝えて、どこが難しいのかを丁寧に聞き取り、入力位置を変えたり、商品一覧の選択順を並び替えたりと細かな調整を続けた結果、まず数人が協力してくれることになりました。
河口さんは「直したいところを自分で簡単に直せるのがAppSheetの利点です」と話します。
その結果、事務担当が毎月2~3日かけて発注書を発行、発送していた作業が1日以内で済ませられるようになりました。
職人からも「スマホからリアルタイムで受注残情報がわかるので、担当者にわざわざ聞きに行かなくてもよくなった」と便利さを実感している声が届きました。
3社の修行経験「生きている」
家業である山喜製陶に戻るまで機械メーカー、通関業、同業の陶磁器メーカーで3年間修業してきた河口さん。当時は早く戻りたいとやきもきしていたといいますが「今となってはすべての経験が生きています」と話します。
AppSheetはアプリの開発をするエディタ画面は既定では英語ベースであり、ツールを使いこなせるようになるまでは慣れが必要です。しかし、メーカーでSEとして働いた経験から比較的早くなじむことができたのだといいます。AppSheetのコミュニティにも積極的に参加することで知見を深めていきました。
今回の業務アプリのほかにも工程別生産日報アプリ、不良報告アプリ、燃料使用量記録アプリなど、5つ以上のアプリを作っています。さらに従業員たちから棚卸のための新しいアプリを作ってほしいという要望も寄せられるようになったといいます。
陶磁器業界はメーカーも減少の一途で、製品供給量が落ち、タイムリーな製品供給が課題となっています。河口さんは「ノーコードツールなどの導入で生産効率を上げて少しでも解決につなげていきたいです。今回のような業務アプリを同業他社にも使ってもらうことで業界全体の発展につなげていければと考えています」と話しています。
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