目次

  1. 労働基準法とは
  2. 労働基準法の「労働者」の定義 家事使用人の扱いは?
  3. 「事業」の概念の見直し
  4. 労使コミュニケーションの再構築
  5. 労働時間法制の具体的課題に提言
    1. 「フレックスタイム制の部分活用を」
    2. テレワーク時のみなし労働時間制は「継続検討」
    3. 法定労働時間週44時間の特例措置、撤廃へ
  6. 「労働からの解放」に関する規制の強化
    1. 「14日以上の連続勤務の禁止」を提言
    2. 勤務間インターバルは義務化に向けて「継続検討」
    3. つながらない権利は「ガイドライン検討を」
    4. 年次有給休暇、賃金算定に「通常賃金方式」
  7. 割増賃金の見直し 副業・兼業は通算廃止を提言

 厚労省の公式サイトによると、労働基準法は1947年に制定され、次のような労働条件に関する最低基準を定めています。

  • 賃金の支払の原則
  • 労働時間の原則(週40時間、1日8時間)
  • 時間外・休日労働
  • 割増賃金
  • 解雇予告
  • 有期労働契約

 このほか、年次有給休暇就業規則なども規定しています。

 ただし、時代とともに多様な働き方が進むなかで、制度を見直すために厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」が議論し、2024年12月に報告書をまとめました。

 労働基準法は、労働者を「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。

 しかし、プラットフォームワーカー(ギグワーカーやクラウドワーカー)などが増えているなか、実態として「労働者」である者に対し労働基準法で守る必要があります。

 そのため、以下のような論点を含めた総合的な研究が必要であるとしています。

  • 人的な指揮命令関係だけでなく、経済的な依存や交渉力の差等について、どう考えるか
  • 労働者性の判断において、立証責任を働く人側に置くのか、事業主側に置くのか
  • 労働者性の判断にあたり活用できる具体的なチェックリストを設けられるか

 このほか、労働基準法は「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない」と定めています。

 ただし、住み込みの使用人という働き方が減るなか、報告書は「家事使用人のみを特別視して労働基準法を適用除外すべき事情に乏しくなってきたと考えられる」と指摘しています。一方で、2024年に、家事と介護業務に1週間にわかる住み込み勤務後に心疾患で死亡した女性の過労死を認める判決が確定しました。

 こうしたなか、家事使用人に対して労働基準法を全面的に適用除外する現行の規定を見直し、公法的規制については、私家庭に対する適用であることも踏まえて、実態に合わせて検討することが考えられるといいます。

 労働基準法は「事業」または事業場を単位として適用されています。しかし、テレワークの普及やデジタル技術の発展により、労働者が必ずしも事業場で働かなくなり、場所を基準とした「事業」の概念が現実と乖離してきています。

 この問題に対処するために、法制度の実効的な適用を確保するという観点から、労働基準関係法制における「事業」の概念については、将来的な労使コミュニケーションの在り方も含め検討していく必要があるとしています。

 働き方の多様化、経済情勢や技術の変化の激しさに拍車がかかるなか、法律で最低限を担保しつつ、個々の企業の実情に合わせた対応ができるよう労使協定は必要です。

 報告書は「労使コミュニケーションを図る主体の中核たる労働組合の活性化や組織化の取組が望まれるとともに、過半数労働組合がない事業場も含めて、労使ができるだけ対等にコミュニケーションを図り、適正な内容の調整・代替を行うことのできる環境が整備されていることが重要である」としています。

 しかし、過半数労働組合がない事業場で、過半数代表者の選出方法や、労働者集団としての意見を伝える能力に課題があることが指摘されています。具体的には次の通りです。

  • 過半数代表者の選出が、事業場において適正に行われていない場合がある
  • 過半数代表者の役割を果たすことは労働者にとって負担であり、また、すべての労働者が労使コミュニケーションについての知識・経験を持つわけではないことから、積極的な立候補が得られないことや、立候補者がいて選出されたとしても過半数代表の役割を適切に果たすことが難しい場合が多い

 こうした課題に対し、報告書は、半数代表者の適正選出を確保し、基盤を強化するためには、過半数代表者の人数や任期の在り方や、過半数代表者への行政機関等の相談支援などについて明確にする必要があるのではないかと問題提起しています。

 報告書では、労働時間法制の具体的課題についても提言しています。

 現行制度で、フレックスタイム制を部分的に適用することはできず、テレワーク日と通常勤務日が混在するような場合にフレックスタイム制を活用しづらい状況があります。

 そこで、研究会では、テレワークに限らず、出勤日も含めて部分フレックス制を導入し、柔軟な働き方を認めていくということが適切ではないかといった議論がありました。

 この点について報告書は「テレワークの場合に限らず、特定の日については労働者が自ら始業・終業時刻を選択するのではなく、あらかじめ就業規則等で定められた始業・終業時刻(コアタイム)どおり出退勤することを可能とすることにより、部分的にフレックスタイム制を活用できる制度の導入を進めることが考えられる」として、フレックスタイム制の改善を提言しています。

 報告書では、テレワーク時のみなし労働時間制について言及しています。

 厚労省の特設サイト「テレワーク総合ポータルサイト」によると、「自宅でテレワークを行う場合、事業場外労働のみなし労働時間制を利用できますか」という問いに対し一定の留保を置いたうえで「自宅でテレワークを行う場合であっても、一定の要件を満たせばみなし労働時間制の対象となります」と回答しています。

 報告書では、仕事と家庭生活が混在し得るテレワークについて、実労働時間を問題としないみなし労働時間がより望ましいと考える労働者が選択できる制度として、実効的な健康確保措置を設けた上で、在宅勤務に限定した新たなみなし労働時間制を設けることが考えられるとの見解を示しています。

 一方で、テレワーク中の長時間労働を防止するという観点からは「これまで裁量労働制の対象業務を厳密に定めてきたのは、みなし労働時間制の副作用を最小限にしようとしたものであるが、そうした規定を潜脱することになりかねない」といった懸念もあり、みなし労働時間制の下での実効的な健康確保の在り方も含めて継続的な検討が必要であると考えられると見解を示しています。

 法定労働時間週44時間の特例措置とは、次に掲げる業種に該当する常時10人未満の労働者を使用する事業場では、1日8時間、週44時間まで労働させることが可能となっています。

商業…卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業
映画・演劇業…映画の映写、演劇、その他興業の事業
保健衛生業…病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業
接客娯楽業…旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業

 対象となる事業場の87.2%がこの特例措置を使っていないため、報告書は「現状のより詳細な実態把握とともに、特例措置の撤廃に向けた検討に取り組むべきである」と提言しています。

 労働時間規制は、最長労働時間規制だけでなく、労働者の休息を確保するための「労働からの解放に関する規制」も重要です。報告書は、休憩・休日についても見直しを提言しています。

 現行の法定休日は4週4休制を認めていますが、労災保険における精神障害の認定基準では、2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行ったことが心理的負荷となる具体的出来事の一つとして示されています。

 こうしたことから、2週2休とするなど、連続勤務の最大日数を減らすべきとし、具体的には「13日を超える連続勤務をさせてはならない旨の規定を労働基準法上に設けるべきであると考えられる」と提言しています。

 勤務間インターバル制度は、労働時間等設定改善法で、「健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定」として努力義務が課されており、また労働時間等設定改善指針でも一定の記述があるが、概念的な内容にとどまり、勤務間インターバルの時間数や対象者、その他導入に当たっての留意事項等は法令上示されていません。

 そこで、報告書は「抜本的な導入促進と、義務化を視野に入れつつ、法規制の強化について検討する必要があると考える」と指摘しています。

 ただし、具体的にどのような内容の制度を求めるかについては、様々な考え方があるため、大きくは踏み込んだ内容にはなっていません。

 つながらない権利とは、勤務時間外に仕事への応答を拒否できる権利のことを指します。労働契約上、労働時間ではない時間に、使用者が労働者の生活に介入する権利はありませんが、現実には、突発的な状況への対応や、顧客からの要求等によって、勤務時間外に対応を余儀なくされることも少なくありません。

 報告書は「勤務時間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ルールを労使で検討していくことが必要となる」としてガイドラインづくりを提言しています。

 年次有給休暇は、働き方改革関連法で、使用者が年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について毎年時季を指定して与えなければならないこととされています。

 2022年の年次有給休暇の取得率は62.1%と、前年より3.8ポイント上昇し、1984年以降最高となったものの、政府目標の70%とは乖離があります。

 さまざまな観点から議論されたものの、現在の5日間から直ちに変更すべき必要性があるとは思われないとの考え方が示されています。

 一方、年次有給休暇期間中の賃金の支払いは複数の考え方がありますが、日給制・時給制で働く人が不利益を被らないよう原則「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」とすべきであると提言しています。

 割増賃金は、割増賃金の意義や見直しの方向性について様々な意見が出たといいますが、どのような方策をとるにしても十分なエビデンスをもとに検討する必要があるとして、「割増賃金に係る実態把握を含めた情報収集を進め、中長期的に検討していく必要がある」と説明しています。

 副業・兼業の場合の割増賃金については、労働時間を通算して割増賃金を支払う必要があります。

 現在は厚生労働省のガイドラインにもとづき、労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し、次に所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算することで割増賃金を計算するか、あらかじめ設定したそれぞれの事業場における労働時間の範囲内で労働させる管理モデルを利用するかのいずれかとされています。

 ただし、割増賃金の計算が複雑になるという課題がありました。そこで、報告書は「労働者の健康確保のための労働時間の通算は維持しつつ、割増賃金の支払いについては、通算を要しないよう、制度改正に取り組むことが考えられる」と提言しています。