ものづくり・食品開発からアスリート雇用まで 中小企業のスポーツ支援
東京五輪が始まり、8月24日にはパラリンピック開幕も控えています。スポーツの発展には、ものづくりやサービス提供、アスリート雇用など、中小企業の存在が欠かせません。ツギノジダイで取り上げた記事の中から、スポーツを支える企業の事例を紹介します。
東京五輪が始まり、8月24日にはパラリンピック開幕も控えています。スポーツの発展には、ものづくりやサービス提供、アスリート雇用など、中小企業の存在が欠かせません。ツギノジダイで取り上げた記事の中から、スポーツを支える企業の事例を紹介します。
香川県の小豆島(土庄町)にある岡崎造船は1930年に創業し、高い技術力を誇るヨットメーカーとして、マリンスポーツファンに愛されています。53年に香川県で行われた国民体育大会の競技艇に選ばれたことで、全国から注目を集めるようになりました。リピーターが多く、親子2代で利用したり、1人で何隻も注文したりするファンもいるそうです。
4代目の岡崎英範さんは10年前、先代の父の急逝を受けて、社長になりました。その時は経営が悪化しており、立て直すために業務効率化を図りました。例えば、先代のとき、部品はすべて国内の業者から仕入れていましたが、新規の海外メーカーの部品は、岡崎さんが直接交渉して仕入れ値を抑えられるようになりました。
同社の強みは技術力です。堅牢なヨットにするため、型の内側には手作業でガラス繊維を重ね、樹脂で固めます。厚くしすぎると船体が重くなって走りに影響し、薄すぎれば衝撃で船体が変形する恐れがあります。全体の強度を計算して部位によって微妙に厚さを変えているそうです。顧客と話し合いながら、好みのヨットに仕上げていきます。
同社は16人の少人数体制ですが、岡崎さんは作業場の環境整備を少しずつ意識し始めています。「理想としては、もう少し社員を増やし、その人件費が賄えるだけのメンテナンスの注文を受けて、回していけるようにしたい。それができれば、次の世代の職人を育てられるようになります」と言います。
スポーツ愛好家を食で支える企業は少なくありません。富山県氷見市の「松木菓子舗」は、サイクリストの補給食にうってつけの羊羹(ようかん)を開発しました。
松木菓子舗は1949年に創業し、3代目である現店主の松木功太さんが経営に関わるようになってからは、和菓子だけでなく洋菓子の要素を加えた新しいお菓子に挑戦しています。
新型コロナの影響は大きく、売り上げの8割を占めていた商品は、冠婚葬祭が中止となったことで、軒並み注文が無くなりました。2020年6月、氷見市ビジネスサポートセンター Himi-Biz(ヒミビズ)に相談し、コロナ禍で逆に伸びる兆しを見せていたアウトドアスポーツ向けの和菓子に目を付けました。
富山県はサイクリングコースの整備に力をいれており、ヒミビズから羊羹を、サイクリスト向けの補給食にすることを提案され、新商品の「CYCLEようかん」が生まれました。
サイクリスト向けの羊羹として塩分を通常の2倍にして、ミネラル補給ができ、携帯しやすく食べやすい一口サイズの商品の開発に取り組みました。パッケージデザインやネーミングにもこだわり、ツール・ド・フランスの優秀選手が表彰される際に着る4賞ジャージーをモチーフとしたデザインを取り入れました。
CYCLEようかんは、地元メディアや自転車専門誌などで紹介され、全国のサイクリストや自転車団体からもオンラインショップを通じて注文が入りました。
地場企業と有名アスリートとのコラボも実現しています。1865年創業の鈴廣蒲鉾(かまぼこ)本店(神奈川県小田原市)は2021年6月、「鈴廣かまぼこ大使」に、サッカー日本代表の長友佑都選手を起用しました。
鈴廣は、長友選手の専属シェフとともに開発した「フィッシュ・プロテインバー」を新発売し、「1本で15グラムのたんぱく質を摂取できる」とPR。発表会見に出席した長友選手は「試合と練習後のプロテインの代わりになる。かまぼこを食べ始め、コンディションがどんどん上がっている」と力説しました。
スポーツを軸にしながら、新事業に挑む後継ぎ経営者もいます。栃木県さくら市でゴルフ場を運営する「セブンハンドレッド」3代目社長の小林忠広さんは、「みんなが幸せを実感できるゴルフ場」というビジョンを定め、ゴルフをプレーしない顧客の満足度を高める試みを続けています。
ゴルフボールの代わりにサッカーボールを蹴ってコースを回るフットゴルフの普及活動に取り組み、人気漫画「キャプテン翼」の作者・高橋陽一さんにフットゴルフのコースを監修してもらったり、国際大会の誘致を進めたりしました。また、場内にバーベキューができるテラスも設けました。
デザイン経営にも積極的に取り組み、2021年4月にはゴルフ場の近くに「お丸山ホテル」をオープンしました。デザイナーや建築家とも協力し、空間デザインやロゴにもこだわりました。
小林さんは「セブンハンドレッドクラブは、ゴルファーもノンゴルファーも楽しめる『ゴルフ場でありながらゴルフ場でなくなる』ことが最終目標です。同じように、お丸山ホテルも、地域の皆様に我が家のように思ってもらえる『ホテルを超える場所』になるべきだと考えています」と話しています。
選手育成や健康作りを助ける現場も、中小企業の一つです。埼玉県狭山市の多寿満(たじま)ボクシングジムは、35年前に創立。代表トレーナーの桜井靖高さんは現役時代、フライ級の日本3位まで上り詰めました。ジムの会員数が増えないことに悩み、狭山市ビジネスサポートセンター(Saya-Biz)に相談に訪れました。
Saya-Bizがジムの強みを掘り下げたところ、小学生から50代まで幅広い年代の会員を抱え、気持ちを盛り上げる桜井さんの指導を求めて、医師や会社員などの社会人が平日夜に多く通っていることがわかりました。さらに、「あしたのジョー」の世界を思わせる、ジムのレトロな雰囲気も強みと考えました。
認知を高めるために、手掛けたのがホームページのリニューアルでした。ジムの雰囲気が伝わるリング前で撮影した写真を掲載し、「元気になって帰れるタジマボクシングジム」とコンセプトとジム名を大きく掲載。見やすいところに「一日無料体験実施中!!!」「見学は随時大歓迎!!!」と記載して、問い合わせや申し込みへの誘導を強化しました。
ホームページを更新するにつれて問い合わせが増え、月平均1人だった新規会員数が2人3人…と増え、多いときには6人が入会する月も出てきたといいます。
最後に、アスリートを雇用して競技活動を支える中小企業の事例を紹介します。
横浜市の運送会社「大松運輸」は、「アスリート採用」というユニークな制度を導入しました。競技だけで生計を立てられるアスリートは、ほんの一握り。同社の従業員の一人が現役のサッカー選手だったこともあり、アスリートが競技と仕事の両方に打ち込める環境を整備する目的で生まれました。
仕事はフルタイムではなく、競技に充てる時間はしっかりと確保します。ユニホームやシューズ、遠征費用なども会社が全額負担します。2021年5月現在は5人が同制度のもとで働いており、陸上短距離で24年のパリ五輪を目指すレベルの選手も在籍しています。
企業がアスリートを支援する場合は、ブランディング目的のスポンサードが一般的です。しかし、2代目社長の仲松秀樹さんは「100%競技に充てるのではなく、会社の業務もしっかりと行ってもらいますから、事業での戦力としても当然期待しています。両者にとってWin-Winの制度だと思っています」と相乗効果に期待しています。
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